第27話 友人の存在は心の潤いになる
どちらにしろ、オクタヴィア・ギーア嬢がイジーの相手になることはない。
発表はしてないけれど、イジーの婚約者は確定しているし、側妃として受け入れるには、厳正な審査が行われるのだからね。
しかもヘレーネ嬢が言うには、ギーア男爵家には現在女の子供がいないことになっている。
そんな正体不明の男爵令嬢が、王太子になるイジーの相手になるなんて、王妃様だけではなく宰相閣下や他の大臣たちが許可するわけなかろうよ。
そんな甘くねーのよ。王家の結婚は。
「どちらにしろ、そういう危ない発言をしてる相手には、できるだけ近寄らないようにしてくれる?」
「わかりました」
ヒルトは素直に頷いてくれるが、心配なのはヒルトやイヴじゃないんだよなぁ。
「大変だと思うけれど、ヘッダのことも見張っててね?」
「はい」
苦笑いをしながら返事をするヒルトに、ヘッダもにこにこ笑いながら減らず口を叩く。
「信用なさっていただきたいですわ」
「君はね、テオと同じだから心配なんだよ。面白いと思ったら、危険なことだとわかっていても首を突っ込むでしょう?」
「当然ですわ」
「胸を張って肯定しない」
「嘘はつきたくありませんもの」
「困った子だねぇ」
僕とヘッダのやり取りを一度見たことがあるヘレーネ嬢は、どこか納得している様子で、しかし見慣れていないイヴとブルーメ嬢は目を白黒させながら見ていたのだが、しばらくしてイヴが声を殺しながら笑いだした。
「なんだか、アルベルト様って、みんなのお兄ちゃんみたい」
「え?」
「面倒見がいいって言うか、やんちゃをするヘッダ様たちを放っておけないんでしょ?」
「ち、違うよ」
そ、そ、そんなことないよ! そうじゃないんだって! テオとヘッダはね、ほんと目を離すと何をやらかすかわからない所があるから!
「あらあらあら」
「へえ~、そうだったんだぁ~?」
にやにや、にまにま。ヘッダとテオが笑う。
「ヘッダ様とテオドーア様も、アルベルト様に甘えてるんでしょ? それでアルベルト様が本気で怒らないのわかってるから、好き放題してるのよ」
こいつら僕のこと揶揄ってると思ったら、続けて喋るイヴに二人して慌てだした。
「はぁ?! アルに甘えてるとか、違うし!!」
「嫌ですわ、わたくしはそういうのじゃありませんのよ?」
否定するテオとヘッダを横にイヴはお構いなしに続けた。
「否定したってそう見えるんだもの。だから、アルベルト様はみんなのお兄ちゃんみたい。一番上がアルベルト様、次がヘッダ様でその次がテオドーア様。イグナーツ様とオティーリエ様は一番下の弟妹ね」
まぁ遠からずそんな感じ?
オティーリエは昔てこずらせてくれたけど、今はちゃんと何が悪いかわかってるし、大人しい。
爆弾みたいなのは、テオとヘッダなんだよねぇ。
でも、一番大事な人たちが抜けてるじゃないか。
「ネーベルとヒルトは?」
「ネーベル様とヒルトはアルベルト様と兄弟って感じじゃないんだもの。無理やり入れるならアルベルト様と三つ子って感じかしら?」
まぁ、ネーベルはまごうことなく僕の右腕だし、ヒルトは左腕だ。これはもう不動位置だからね。
確かに兄弟って感じじゃないや。
イヴの言葉に内心うんうんと頷いていたら、テオが余計な煽りを始めやがった。
「まぁ、アルは~、俺らの中じゃ一番小さいけどなー」
やかましいわ。
僕はまだ成長期が来てないだけなんだよ!
そしてみんなもテオと同じように思っていたのか、微妙に僕から視線を逸らす。
なんだい、一人ぐらい『そんなことない』って言ってくれてもいいじゃないか!
「あれ、でも、んー。まぁいいか」
え? なに? イヴちゃーん? 途中でやめないで~?
僕の願いもむなしく、イヴはそれ以上何も言わなかった。ちぇー。
でも、こうやってみんなと話してると、あのわけのわからない不安は払しょくされる。
それから、やべー情報を仕入れた時は、やっぱそばにネーベルとヒルトがいないと心細くなると自覚した。
依存ではないけれど、二人は僕の心の支えになってるから、もう今更二人がいない僕の人生なんて考えられない。
ネーベルからは狙われてるのは僕とイジーなのだから、しばらくはお昼と放課後、ネーベルとリュディガーが迎えに来るまで、動き回らないようにと言われてしまった。
一応、僕とイジーには、はっきりと目視できる護衛騎士が、登下校にくっついているけれど、それはあくまでも学舎外での護衛だ。
いくら学園都市内に護衛騎士を引き連れてはいけないというルールがあったとしても、立場に見合った扱いというものがある。
王族は貴族とは違う。
だから王家から派遣された護衛が引っ付いていても文句はないはずなのだ。現に歴代の王族や、国外の王族に嫁入りする貴族令嬢には、そういった特別対応が施されているらしい。
国王陛下しかり、国外に嫁いだ王妹殿下しかり、学舎内外に関わらず、四六時中、護衛騎士がついていたのに、なぜ僕らに関してそれが適用されないのか。
物申すと言った奴が、出て来ちゃったんだなぁ。
言わずと知れた、上学部の学長で、アインホルン公爵の第二子、オティーリエの次兄殿だ。
今まで学園都市内で王族への襲撃というような危険なことはなかったし、学園都市内は警備兵の警邏が行われていて、学舎にもいざというときの為の警備兵が常設されているのだから、いくら王子殿下と言えども、特別扱いはいかがなものなのかと言ったらしい。
これが高位貴族の子女に護衛をという話なら、『それな? 条件は他の生徒も同じだしな?』で受け入れられただろうが、直系王族は存在の重みが違う。
いくらアインホルン公爵家の公子だろうとも、そんなぬるい発案は却下だ。むしろ継承権を持っている相手が言ったからこそ、『え? なに? お前直系の王族を廃して王になる気なの?』と勘繰られる。実際、勘ぐった理事がいたそうだ。
だけど、言った本人はさぁ、ただ単に僕に対しての嫌がらせをしたかっただけなんだよねぇ。
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