第25話 怪しい人がいっぱい
ガルガル状態になったイジーを落ち着かせながら、ゾマーには友人のグラーフ嬢に、正体不明のやべーこと言ってるギーア嬢と距離を置くように忠告するように、再度頼むことにした。
「とにかく、グラーフ嬢が大事な友人なら、ゾマーは余計な色気出してないでそっちをちゃんと守りなよ」
「はい」
「相手の様子を探るだとか、そういう事させないでね?」
「え、あ、はい」
なんだい、その返事は。させる気だったのか?
「させるなよ?」
「さ、させません」
心配だ~。明日ヒルトにお願いしておこう。
「メイヤーも、ユング嬢に関わらないように言っておいて?」
「はい、大丈夫です。その辺のことは、しっかり伝えてありますから」
「僕もヒルトたちに頼んでおくから、もし、ユング嬢が例の女生徒に絡まれそうになったら、ヒルトたちを頼るように言ってくれる?」
「ヴュルテンベルク嬢ですね。わかりました」
メイヤーは安心なんだよ。
でもゾマーとその友人のグラーフ嬢がね、変に首突っ込まなきゃいいけど。
ゾマーとメイヤーにはもう一度、やべー令嬢の話を聞かせてくれた礼を言って別れた。
「アルベルト様。一つお聞きしたいのですが、いいですか?」
ヒルトから借りた魔導具を止めていると、おずおずといった様子で、ブルーメ嬢が声を掛けてきた。
「ん? なにかな?」
「私が聞いていたあの声って、もしかして女神・ウイステリアの声だったんですか?」
気が付いちゃったかー。
隠していたわけじゃなかったけど、話を聞いていれば、そういう流れになるよねぇ。
「絶対そう、と言うには、証拠とかそういうのはないんだけど、たぶん?」
「なんで……」
「それは女神にしかわからない」
本当はブルーメ嬢がヒロインだから、女神に目を付けられているってことなんだけど、どっちかというと、あの女神、オティーリエに執着してるみたいなんだよなぁ。
「そー言えば、オティーリエ。君は女神からなにか言われたりした?」
僕の問いかけに、オティーリエは首を横に振る。
「わたくしは笑い声しか聞こえませんでした」
それは前世の話で、こっちに転生してからはないとみていいのかな? 代わりに魅了の効きがすさまじくなったって感じだろうか?
「オティーリエ様も声が聞こえたのですか?」
僕とオティーリエの話に、ブルーメ嬢が驚いた声で訊ねた。
「アンジェリカ様のように、はっきりとした言葉は聞いてなかったわ」
そしてオティーリエは自嘲めいた笑みを浮かべ答える。
「わたくしが聞こえていたのは、笑い声だけ。それもわたくしが嫌だと思うときによ。そしてその話は、もうずっと昔のことでした」
つまり、こっちに生まれ変わってから、女神の声を聞くどころか、笑い声も聞いていないということか。
「に、しても……、女神の宣託ねぇ」
僕の言葉にブルーメ嬢が、どこか納得できないというような顔で呟いた。
「宣託というような、神々しいものとは思えなかったのですが」
「そう?」
「はい、最後の言葉の印象のせいかもしれませんが、もっと……、人間っぽい感じでした」
話を聞く分には、ずいぶん俗っぽい女神だよね。
「まぁ、僕らが一番気にしなければいけないのは、女神そのものよりも、女神の宣託を受けたと言っている、オクタヴィア・ギーア嬢のことだよね。オティーリエ、あっちにはそういう人いたの?」
あっちというのは、前世のオティーリエが愛読していた元のラノベのことだ。
「いません。わたくしも、今日はじめてお名前を聞きました」
そっちにも登場しなかった人物かぁ。ますますわからんなぁ。
「ただ……この現象、まるで以前流行ったあの話に似ていますね」
「以前?」
「聖女と王子の恋物語というのでしょうか? わたくしたちが学園都市に来た当初、話題になっていた本です」
あぁ、そう言えばそうだった。
王妃様と元婚約者たちをモデルにした、男爵令嬢と王子の恋物語の他に、聖女と王子の話が流行ったんだっけ。
結局、あの作品の作者が誰なのか、不明のままなんだよね。
ある日突然、出版社に原稿が送られてきて、それを読んだ編集長が気に入って、本になったって流れだったのだ。
話題の割にはあまり売れず、増版はなし。そして一応『聖女』関係の内容だから、売り上げは教会に寄付したらしい。
そっちはもうどうしようもないから調査は切り上げ。
って言うか、まぁ大体はウイス教の関係者が、広報の為にやったのだろう。
「アル、話は終わったのか?」
ネーベルとリュディガーが僕らの教室に顔を出す。
「うん、明日のお昼にみんなに報告かな?」
「みんなに報告する内容だったのか?」
「そうだね。特に淑女科のヒルトたちには、身辺を注意してもらわなきゃいけないことだと思う」
僕の返事にネーベルが厳しい表情になる。
「大丈夫、今すぐ何か起きるってわけじゃないから」
そう言って、僕らも帰寮することにした。
オティーリエたちを女子寮に送ってから、ネーベルとリュディガーに、ゾマーから聞いた話を聞かせる。
「女神の宣託って……」
僕の事情を知っているネーベルは顔をひきつらせた。
「つまりそれが発覚したら、そのギーアっていう女生徒は、ウイス教の聖女に祀り上げられるんじゃないか?」
「たぶんね。この学園都市内にもウイス教の教会があるし、ウイス教の関係者にこのことが知られるのは、そう遅くはならないはずだよ」
「あと、そういう人物は、近いうちにイグナーツ様やアルベルト様に近づいてくると思いますよ」
リュディガーの言葉は杞憂では済まない、間違いなく近いうちに訪れるだろう。
いやだなぁ~。
騎士科に編入したリトスからの留学生のソーニョ。オティーリエを狙ってるヴァッハ。最後に女神の宣託を受けたというギーア嬢。
そうだ、シルトとランツェに追加で調べてもらわなきゃ。
オクタヴィア・ギーア嬢の経歴と、療養していたというのがどこの国だったのか。
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