第24話 もっと想像力を働かせてほしい
王族である僕らに言えば全部解決すると言わんばかりのゾマーの態度に、メイヤーがあちゃーと言わんばかりに顔を押さえる。
「問題を軽く考えすぎてる」
このどうしようもない空気の中、そう言ったのはイジーだった。
「え、あ、あの……」
「相手がどんな意図をもってそんなことを言い出したかわからないが、俺たちが何か言えばそれで相手が黙ると思っているのか?」
「で、でも王子殿下からの言葉なら」
イジーが何を言わんとしているのか、ゾマーはいまいち理解していないようだ。
もー、仕方がないなー。
「あのさぁ、ゾマー。相手は僕らに近づくことが目的なんだよ? そんな相手に僕らのほうから近づいてどうするの? 相手の思うツボになるとは思わない?」
「そ、それはそうですけど……」
「君は宗教関係者を甘く見過ぎてる。君は軽い気持ちで、僕ら王族が窘めれば、相手が大人しくなると思ってるでしょう? だから僕が『ウイス教のごたごたに巻き込まれたくないなら離れろ。関わるな』っていう忠告に、『なんでそんなに警戒するんだ? バカなことを言ってる女生徒を王子が諫めれば、それで済む話じゃないか。王族が言えば下位貴族の人間なら大人しくなるだろう。なのに、女生徒を注意するのではなく、見捨てるのは冷たいだろう』って安易に考えてるでしょう? 違う?」
僕の言ったことは、それほど外れていなかったのだろう。
ゾマーは自分の考えを当てられたという驚きと、その考えのどこがいけないのかという少しの不満が混ざった様子を見せる。
ついでにイジーとメイヤーとオティーリエが、憐憫の眼差しをゾマーに向けていた。
「さっきも言ったけど、ギーア嬢の目的は知らんけど、『ウイス教』を口に出している以上、そこが絡んでくるんだよ。もうすでに繋がってるか、これから繋がるのかは不明だけど、どちらにしろそのうちウイス教は、彼女を利用してラーヴェ王国の中枢に食い込んでくるよ? 彼らの目的は自分たちの神こそが唯一の神だから、シュッツ神道なんて廃宗させて、すべての人は女神ウイステリアを崇め奉るウイス教徒になるべきだと考えてるからね。それでも君はまだ、それの何が恐れることなんだろうって思ってるでしょう? ウイス教がラーヴェ王国の国教になるだけでしょう? それの何が問題なの? って。ウイス教がラーヴェ王国の国教になる危険性を簡単に説明しようね」
ゾマーは僕が話すたびに、以前の流れを思い出しているのかもしれない。
徐々に僕が何を言いだすかわからないけれど、自分の考えの甘さを突かれると気づき始めたようだ。暗い顔をして僕を見てくる。
「シュッツ神道は土着信仰で多神教だから、教理はあるけれど教義はない。それを信徒に押し付けることはない。ラーヴェ王国は宗教が政に口出しすんなっていう考えだし、だからシュッツ神道とは上手くかみ合って共生できている。だけどウイス教が国教になってごらん。ウイス教はシュッツ神道とは違って、がっつり政に口出ししてくるんだよ。ウイス教の教義が、ラーヴェ王国の法になるわけだから、まずシュッツ神道は廃宗され信徒は弾圧され、ラーヴェ国民は全員ウイス教徒になる。ウイス教の教義を礼拝だけではなく、お布施や寄付は強制され、定期的に納金することが義務づけられる。言っておくけど、国への納税とは別でのお布施や寄付だからね。国への納税の他に、ウイス教へのお布施が、納税と同じく義務付けられるんだからね」
「え?!」
なに驚いてんだよ。
「ラーヴェ王国に国教が定められて、それがウイス教になれば、ウイス教の教義に逆らった者は破門となるし、生まれてくる子供の祝福を受けることも、結婚式もお葬式も挙げることができなくなる。そういった法がラーヴェ王国にできちゃうんだ。君はそこまで考えずに、『女神の宣託を受けたって吹聴したら、ウイス教に目を付けられて、どんなことになるかわからない。見捨てるなんてかわいそう。王子なんだから、助けてあげればいいじゃないか』って気持ちで、話を聞かないやべー奴とはさっさと縁切れよと言った僕に『そんな酷い』と言った。じゃぁ僕らが君の言うとおり、ギーア嬢と関わって、結果ウイス教がラーヴェ王国の国教となり、ラーヴェ王国の法が変わりました。王家と同様の権力をウイス教がラーヴェ王国で持つことになります。ラーヴェ王国の国教がウイス教になって、廃宗されたシュッツ神道の信徒たちはどう思うだろう? そうなったきっかけは、君の言った些細な一言だと知ったら、彼らはどう思うだろうね? 君、シュッツ神道の信徒に相当恨まれることになるんだけど、その覚悟ある? あるなら君が責任をもって、ギーア嬢の後見人となって、僕たちと引き合わせてくれる? 彼女が何か起こしたらその責任、君にもとってもらうことにするからね?」
もうこの辺は、風が吹けば桶屋が儲かると同じ、極論すぎる解釈になるんだけど、でもゾマーみたいにフワフワした考え方してる奴の目を覚まさせるにはちょうどいいでしょ。
そして話を聞いたゾマーは、そこまで話が発展するなんてこれっぽっちも想像していなかったのだろう。ひたすらに、ぶんぶんと首を横に振る。
「む、無理です。す、すいません。俺、そんなつもりじゃなかったんです。ごめんなさい」
「なんでそんなに簡単に『ごめんなさい』なんて言うの? 僕が脅迫して、ゾマーのことイジメてるみたいじゃないか」
「ちが、俺がちゃんと悪かったと思ってます! 俺、危ないことに巻き込まれそうな女生徒を助けてほしいって思っただけで、あ、アルベルト様とイグナーツ様は王族だし、それができるのにって。その、もし女生徒が助かったら、俺がアルベルト様に助言したからだって、そういう自慢がしたくて」
「つまり、兄上を利用しようとしたのか?」
どすの利いた低い声をだし、イジーがゾマーを睨みつける。
ゾマーさぁ、正直すぎるにもほどがあるでしょうよ。
「だから考えて物言えって言ったのに」
傍にいたメイヤーがゾマーの迂闊さに、深くため息をついた。
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