第23話 王族は万能装置ではない
固まってしまったゾマーに、メイヤーが早く話せと促すも、本人はなかなか喋り出さない。
「ゾマー、お前が仕入れた話だろう」
「リ、リーリエが言ってきたんだよ」
「だからそれをちゃんと話せって」
この二人、いつの間にちゃんと話すようになったんだろう?
メイヤーに突かれて、それでも僕らに報告しなければいけないという気持ちが強かったのか、ゾマーは緊張したまま話し出した。
「オクタヴィア・ギーアは淑女科の生徒です。この話を俺にしてきたのは、俺の友人の女生徒で、あの……アルベルト様と一度お話ししたことがあると本人は言っていたのですが、知っていますか? リーリエ・グラーフというんですけれど」
「ゾマーと一緒にいるベックとも仲が良いよね。知ってるよ」
前に一度、ベックと一緒に落ち込んでいるゾマーをなんとかしてくれないかと言ってきた女生徒。
婚約者がいるとか言ってたけど、やたらとゾマーの肩を持っていたから、探りを入れたら、なんだかよくわからない反応をしていた子ね。
「そうなんですね。その彼女は淑女科に進んだんですが、そこで隣の席になったのが、先ほど言ったオクタヴィア・ギーアという女生徒です。リーリエの話によると、ギーア嬢は上学部からの編入なんだそうです。今まで身体が弱くて、他の国で治療を受けていて、だいぶ良くなったのでラーヴェ王国に帰国し、王立学園に通うことになったと言っていました」
ところどころ引っかかるものはあるものの、身体が弱くて下学部には通えず、上学部からの入学という話は、それほど珍しいことではない。
「それで、そのオクタヴィア・ギーアという女生徒なんですが……、最近になって変なことを言い出したらしいんです」
「変?」
「はい、自分は女神ウイステリアから王子殿下を導くように神託を受けたって」
女神ー!! またおめーか! またなんか、やらかす気かよー!!
「オティーリエ様、大丈夫ですか? 顔色が……」
ブルーメ嬢は傍にいるオティーリエへ、心配そうに声を掛ける。
女神の名を聞いたせいか、オティーリエが悲鳴をあげないように、両手で口を塞いでいた。オティーリエにとって、女神はもう自分の運命を捻じ曲げようとする厄災と言ってもいいぐらいだ。
本人は関わり合いたくないけれど、でも女神はなにがなんでもオティーリエを巻き込もうとしている。
「それで、そのお嬢さんは、女神から宣託を受けたと吹聴してるの?」
するとゾマーは悩まし気な顔をする。
「リーリエは不用意にそんなことを言うなと、彼女に言ったそうです。ラーヴェ王国は宗教に対しておおらかなので、女神の名を口にするのはそこまで神経質になることではないですけれど、女神からの宣託があったというのはさすがに……」
ウイス教の人間、特に教会関係者が聞いたら、聖女に持ち上げられる可能性大。ついでにそれを足掛かりにしてラーヴェ王国の中枢に食い込む気でいるだろうな。
「しかも王族の方々に関することとなったら、さすがに問題になると、俺でも解ります」
ラーヴェ王国は、宗教が政に干渉すんなって国政に定めてるから、ただ国教にしろとウイス教から言われても撥ねつける。
でも、ここに王族に関する預言やら宣託やらを持ち出して、その厄が的中した場合、ウイス教は絶対に口出ししてくるだろう。
我らのウイス教を国教にせず蔑ろにしたから厄が降りかかったのだと。
めんどくせー連中だな。
っていうかさ、神に仕える身なら大人しく祈ってろ。
「う~ん、その女神の宣託言ってる女生徒が、どこまでその話を吹聴してるかだよね」
「今日、ヘッダ様たちが何も仰っていなかったので、淑女科でその話が広まっているということはないと思います」
ヘレーネ嬢の言葉に僕も頷く。
そんな頭おかしい令嬢の存在を知ったら、ヘッダが嬉々として報告してくるだろうし、ヒルトも気を付けるように言ってくるはずだ。
「おそらく、その話が広まっていないのはゾマーの友人であるグラーフ嬢のおかげだろうけれど、グラーフ嬢はそのギーア嬢のことをどう思ってるんだろう? 危なっかしくって目が離せない感じ?」
「何度か注意しているそうです。あと、そういったことを吹聴する危険性って言うんですか? そういうことも伝えてはいるそうです。そのあと相手も少し大人しくなったようなんですが、でも、リーリエや親しくしている相手には、その女神の宣託を受けているってことを隠してないようで、事あるごとにその話をしていると……」
「グラーフ嬢はともかくとして、それ以外のご令嬢たちの『親しい』が、どれぐらいのものかによって、ギーア嬢の状況は変わってくるね」
そう言って僕はゾマーを見る。
「とりあえず、僕ら王族に関係した情報をくれたことには感謝するよ。どうもありがとう。あとは、ゾマー。君はグラーフ嬢がギーア嬢とこれからどういう付き合いをする気なのか、確認しておいた方がいい。グラーフ嬢がギーア嬢を放っておけない、最期まで面倒見るつもりだというなら、まぁ、そのままでもいいんだけど、教会関係者から目を付けられることは避けられないからね。それだけは伝えてあげたほうがいいね。ゾマーも巻き込まれることになるから、どうするか考えるんだよ」
「え?」
「え? じゃないよ。おかしなことを言ってる相手と仲良くしてる友人を持ってるんだから、ゾマーだって他人事じゃなくなるに決まってるでしょう? 巻き込まれるのが嫌なら、グラーフ嬢にギーア嬢と離れるように説得しな。それともグラーフ嬢ごと切るか、だよ」
「そ、そんな……」
「なにが、『そんな』なんだよ。情報をくれたお礼だから、『宗教関係に首突っ込むと危険だ。巻き込まれる前に離れろ』って解決策を教えてるのに、なんでそれがいけないことのように、非難してくるわけ?」
ゾマーは何か勘違いをしてるんじゃなかろうか?
王族は万能じゃないんだよ。ややこしいことが起きて、僕らが出ていけばすべて解決なんて、そんなのは本当にフィクションの話だ。
今回のことだって、僕とイジーが女神の宣託を受けたという令嬢と話をしたら、余計に拗れるってどうして考えないんだろう?
王族の言うことだから素直に聞くと思ってる?
そんなうまく行くわけないんだよ。
だって相手は、本来なら声に出して言うのは憚られる内容だって、誰でもわかってることを平気で口に出しちゃってるんだよ?
そんな人物が、僕らを前にして、冷静に話を聞けるわけないじゃないか。
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