第22話 同級生からの相談? それとも報告?

 オティーリエたち女子と一緒に、上学部の学舎近くのショップ街に通い詰める日々が続いてから数日後のことだった。

 朝、イジーと一緒に教室に入ると、メイヤーとゾマーが揃って僕のところにやってきた。

 メイヤーが肘でゾマーのことを突き、お前が喋れと促す仕草を何度かしてから、ゾマーが恐る恐るといった様子で口を開いた。

「あの、お伝えしたいことがあって、今日時間貰えますか?」

「いいよ」

 僕の返事にゾマーは驚いた顔を見せ、メイヤーはそんなゾマーに対して呆れたように小さく息を吐き出す。そして顔色を悪くさせているゾマーの代わりに、僕に告げる。

「じゃぁ、放課後、時間をください」

「うん、長くなるの?」

「長くなるというか、アルベルト様とイグナーツ様に関することです。俺たちではどう判断したらいいかわからないのと、これはお二人に伝えておいた方がいいと思いまして」

 なんだ、てっきりメイヤーとその婚約者であるユング嬢、それからゾマーの三人に関することだと思ったんだけど、違うのか。


 とりあえず、僕だけではなくイジーも関わっているようなので、女子には先に帰ってもらおうとも思い、みんなが集まったお昼の時にそのことを話したら、ヘッダにダメ出しされてしまった。

「アルベルト様、その油断が一番危ないとお知りになって?」

 ヘッダはにっこり笑ってそう切り出すと、僕らの姿がオティーリエの傍にないとわかったヴァッハが、ここぞとばかりに接近してくる。あぁいう人種はこれぐらい大丈夫だろうという些細な隙を瞬時にかぎ分け、必ずそのチャンスを逃がさない。と、怒涛の勢いで言われてしまった。

 やべーな、確かにそうだわ。

 そんなわけで放課後、メイヤーとゾマーの話を聞くのに、オティーリエたちにも付き合ってもらうことにした。

 ついでに、ネーベルとリュディガーが、本日は自分たちが僕らを迎えに行くから、メイヤーとゾマーの話を聞いて、教室で大人しく待っていてくれと言われてしまった。

 ついでにヒルトから、以前ベーム先輩と話したときに使われた、周囲に話していることを阻害する魔導具を渡される。

 使い方をレクチャーしてもらって、貸してもらうことにした。


 放課後になって教室の隅で、ヒルトに借りた魔道具を発動させ、メイヤーとゾーマの話を聞く。

「オクタヴィア・ギーアと言う女生徒をご存知ですか?」

 切り出したのはゾマーだった。

「誰?」

 聞き返すとメイヤーはやっぱりと言う顔で、ゾマーは顔を青くさせた。

「イジーは知ってる?」

「いいえ、知りません」

「オティーリエたちは?」

 女子組にも訊ねてみたが、三人とも首を横に振る。

「その方、下学部から学園にいらした方ですか?」

 ヘレーネ嬢が鋭い突っ込みをした。

「わたくしの記憶通りなら、そのような名前の女生徒、下学部にいらしてなかったかと。あと、ギーアとはギーア男爵のことですか?」

 ヘレーネ嬢の問いにゾマーは頷く。

「ギーア男爵令嬢だと自ら名乗っていました」

「……ギーア家にご息女はいないはずなのですが?」

 またしても、ヘレーネ嬢の発言に、何とも言い難い空気になる。

「待って待って、ちょーっと待って。ギーア家ってところに娘がいないのに、その家の子供を名乗ってるわけ? そんなのある? っていうか許可されてないでしょう?」

「アルベルト様。ギーア男爵家は訳ありの家なのです」

 ヘレーネ嬢が言うのは、ギーア男爵家というのは、もともとの母体があってその母体の名前が、ギーア゠フォルトシュリット伯爵家なのだという。

 それは本家と分家という間柄ではないのか? と聞いたら、一門としての縁が切れているらしい。

「四代前の話になるのですが、ギーア゠フォルトリット伯爵家とギーア男爵家に諍いがあったのです。男爵家のご息女が、本家である伯爵家のご息女に対して無礼を働いて、そこで本家であるギーア゠フォルトリット伯爵が激怒し、ギーア男爵は一族から切り離すと宣言され、国にその申請手続きをされました。ギーア゠フォルトリット伯爵は、完全にギーア男爵と違う家門となり、領地やその他もろもろのことも分断されました。それ以降、ギーア男爵家は大人しくはなったのですが、経済状態は良い状態ではなく、領地もいつ国に返納してもおかしくないのです」

 とんでもない話だな。

 ついでに娘がしでかした無礼とはどんなものなのか聞いたら、分家の娘が本家の娘の持ち物を強奪したり、婚約者を横取りしたりといったマウントをとっていたらしい。

 そりゃー、伯爵家のご当主が怒るだろうよ。

「ギーア男爵家については分かったけれど、そのギーア家にご令嬢がいないっていうのは?」

「先ほど説明しましたが、ギーア家は娘が粗相をして、ギーア゠フォルトシュリット家から怒りを買ってしまったわけです。つまり『女子』が鬼門というか、産まれても歓迎されない傾向であり、大きな声では言えませんが、生まれたらすぐに養子に出されるそうです。運がいいことに、事が起きてからギーア男爵家に生まれるのはほぼ男子で、二度ほど女子が生まれたものの、二人とも生まれてすぐに養子に出されています」

「つまり……ギーア男爵家は、過去の出来事から女子が生まれてもすぐに養子に出される家なので、例えばどこからか女子を養子に取るとか、男爵に隠し子の娘がいて引き取るとか、そういったことがない?」

 僕の言葉にヘレーネ嬢は頷く。

 よくわからんな。

「まぁ、そのオクタヴィア・ギーアと言う女生徒が、ギーア男爵の娘かどうかは置いておくとして、その女生徒が、僕とイジーにどうかかわってくるの?」

 この話を持ってきたゾマーを見て、僕がそう訊ねると、ゾマーはますます緊張した様子で固まってしまった。

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