第20話 リトス王国からのちょっかい
ソーニョと一緒にいる生徒はいつも一緒にいる友人なんだろうか?
親し気に話してる三人の姿を遠目で確認してると、同じように三人の姿を見ていたネーベルがわずかに目を細めている。
「どうした? なにか気になることでもあった?」
「……あの黄色みの強い金髪の生徒、騎士科じゃなくって文官科の生徒だ」
下学部にいた時なら知り合いだったって言うのはなんとなくわかるけれど、ソーニョは上学部からの留学で、しかもコースは騎士科。
ネーベルもそこが気になったのだろう。
「疑ってばっかりだけど、作為を感じるよねー」
僕の言葉にイジーが無表情になっていく。イジーってただでさえ表情筋が死んでるのに、警戒するとさらに強張るからなぁ。
「大丈夫、大丈夫。僕らに近づいてきてないし、あっちが何か仕掛けてくるって決まったわけじゃないから」
「ソーニョは警戒対象なんですよね?」
「リトスからの留学だからね。ただの……一介の伯爵子息ならいいんだけど」
まだソーニョの調査は終わっていない。僕の方に報告が上がってきていないからなぁ。
「……母上に話したほうがいいのではないでしょうか?」
「王妃殿下は知ってるよ」
「え?」
「王立学園に入学する前に、王妃殿下から言われてるの。リトスからイジーに関して怪しい動きがあるかもしれないから、気を付けてほしいって」
この辺の情勢は、イジーも理解してる。
王妃様はリトス王家に近かった公爵令嬢で、だからこそ、王妃様の子供であるイジーに対して、リトス王家から『王妃の子供なのだから王太子にするべきだ』とか、『リトスからイジーの側近となるべき人物を送る』だとか、そういったもろもろの動きがあったのだ。
王妃様はリトスからの要請は全部撥ねつけ、親族であるご両親と弟さんの手紙のみ許可をし、それ以外のものは全部送り返している状態だ。
ついでにこっちのラーヴェの情報も漏らしていないから、僕ではなくイジーが王太子になることもリトスは知らない。
王妃様、国王陛下の正室としてラーヴェに嫁ぐことになったときから、ラーヴェ王国に骨を埋めることをガンギメしちゃってるのと、もとをただせば、元婚約者の教育をちゃんとできていなかったリトス王家にも腹を立てているらしいので、故国だからと言ってリトスに与する気はないらしい。
「僕がそばにいるから、リトスに関係してるかもしれない人間は、容易にイジーに近づけない。でも隙をついて接近してくるかもしれない。イジーはそこら辺を警戒しておいてね?」
「はい」
「言っとくけど、イジーに近寄ってくるのは、側近ポジを狙ってる男だけじゃなく、ハニトラを仕掛けようとしてくる女もいるからね?」
「え?!」
んもー、イジーってばそう言うところが初心なんだからぁ。
「それが一番、警戒なくイジーに近づける方法なんだよ?」
「で、でも、俺にはヘッダが……」
「婚約者がいるいないは、関係ないんだなぁ。あっちの狙いはイジーの寵愛を得るのが目的だからね? 正妃となるべく婚約者がいても、側妃っていう立場があるでしょう?」
「ラーヴェの王家が側妃をとるのは、王妃との間に子ができない場合のみです」
「そうよ? でも、何かあった場合の候補として、名をあげられるでしょう? それに相手側は側妃っていう立場にこだわってるわけじゃないんだよ。愛妾でもいいし、恋人でもいい。要はイジーの寵愛を得ているって立場が重要なの」
「……俺は婚姻相手を蔑ろにする気はありません」
「わかってるよ。イジーは対人に関してそんな器用じゃないもんね。だけど相手はそんな事はどうでもいいんだよ。イジーを自分に夢中にさせられればいいって考えなんだからね」
「兄上とヘッダが、俺に好きな人が出来たら教えてほしいって言ったのは、その為ですか?」
「僕の場合は、半分はその通り。もう半分はヘッダのためだよ。どうせ結婚するなら、親愛や敬愛だけじゃなくって、恋ができる相手のほうがいいに決まってるじゃない。僕はそう思う。だからイジーに好きな人が出来て、その相手に問題がないなら、ヘッダと交代してもらおうって思ってる」
僕の説明にイジーは戸惑ったような目で僕を見つめる。
「それはヘッダに失礼だと思ってる?」
「……はい」
「でもさ、婚約者の発表を卒業後にしてほしいって言ってきたのはヘッダなんだよね。どうしてヘッダがそういうことを言い出したのか、そこのところを考えてみて? 先に言っておくけど、ヘッダがイジーのことが嫌いだからっていうのはないからね? 付き合い長いからわかると思うけれど、ヘッダは自分が望まないことは、頼まれても断る子だってわかってるよね?」
ヘッダ本人も婚約のことは納得済みだと言っていたしね。
確かに、現状ではイジーの婚約者はヘッダしか適任者がいないけれど、最高権力者からの申し出だから、断ることはできないなんて安易な考え方をする子じゃないんだよねぇ、ヘッダは。
そもそもハント・エアフォルク一族は、自分の好きなことにのめり込む人間が多いのだ。
国王陛下の元側近も、自分の好きなもの……国王陛下にのめりこみ過ぎたわけだしな。
当主であり公爵となる人物は、直系の中でもそういった気質は控えめで、一族や家門を守ることに長けた者が就任するらしい。
この世の不思議を解き明かしたいヘッダも、研究者気質なところがあるから、自分のしたいことだけしかしないのだ。
どうしてもしなければならない場合、ならどうするかを考えて実行する。
イジーとの婚約も、王家の申し出だから受けねばいけないという考え方ではなく、自分のしたいことと照らし合わせて、利があると思ったから引き受けたに違いないのだ。
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