第19話 ガチ恋されるタイプだ

 ふてくされている僕を他所にネーベルは話を続ける。

「ヴァッハに関しては、とにかく上級生の女子に人気がある。同級生の女子の場合だと、男子との付き合いに積極的なタイプに声を掛けられてることが多い。けどヴァッハ自身が女子に粉を掛けたってことはないみたいだ。女子のほうから積極的にヴァッハに近寄って行ってるらしい」

「自分から声を掛けてるわけじゃないけれど、女子受けがいいってことは……、テオが言ったように、どの女子に対しても邪険な態度をとらないっていうのと、あと相手を持ち上げるのが上手いんだろうね」

 男子と諍いを起こしてないのも、そんな感じで上手く相手を持ち上げて、敵にならないようにしているのかもしれない。

「ソーニョもヴァッハに似ているようだけど、こっちは自分から声を掛けてる」

「どういうこと?」

「ソーニョは自分から女子に声を掛けてるんだよ。困っている人の手助けって態なんだけどな」

 片や何もしないでも声を掛けられ、片や積極的に声を掛けて種をまいてるって事か。

 この差は、ヴァッハは下学部からいるのに対し、ソーニョは上学部からの入学だからってところもあるだろう。

 来年あたり今年蒔いた種が芽吹いて、自分から声を掛けずとも女子が寄ってくるんじゃないだろうか?

「それとソーニョに声を掛ける女子は、ヴァッハに声を掛ける女子とは真逆のタイプなんですね。積極的なのは同じなんですけれど……」

 リュディガーはどう説明したらいいのだろうかといった様子を見せ、ネーベルが続きの説明を引き継いだ。

「ヴァッハに声を掛ける女子は、遊びは遊びとわかってるタイプ。言い方が悪くなるけれど、遊び慣れているというか、学生時分のひと時の恋を割り切ってる女子。ソーニョに声を掛ける女子は、マジもんの恋愛感情持ってるタイプ。将来の婚約相手として狙ってるタイプだな」

 同じ積極的なタイプでも、確かに種類が違うな。

「そう言えばさぁ、テオが言ってたフォルトって生徒。なんでレオナルド・ソーニョだけを揶揄ったんだろう?」

 実はテオからその話を聞いた時から、ずっと引っかかってたんだよね。

「どういうことですか?」

 リュディガーに訊ねられて、気になったことを付ける。

「女子受けがいいのは、レアンドロ・ヴァッハも同じだ。女子に騒がれるのはヴァッハも同じなんじゃない? なのに、なんでソーニョだけを揶揄ったんだ?」

「ヴァッハのことも揶揄っていたのでは?」

 イジーの返しにそれでも納得できない。

「なのかなぁ? でもそれだったらその話を聞かせてくれた時に、ヴァッハも揶揄われていたって話してくれても良くない?」

「言われてみれば……」

「もしかしたらヴァッハは、気配を消すのが上手いのでは?」

 いつの間にかいなくなってるって言ってたしなぁ。

 ヴァッハは誰かとつるむことないようだし、女子と一緒にいる姿を見て、揶揄おうと思っても、その本人が姿を消して、揶揄うことができないのかもしれない。


 それにしても、ソーニョの顔は、一度確認しておきたいな。

 テオもネーベルもソーニョのことを警戒してるしね。

 話を聞く限り、十人にソーニョのことを訊いたら、おそらく八・九人は『あいつは良いやつだよ』って答えるだろう人物像なんだよなぁ、ソーニョは。実際テオもソーニョに近づきたくないのは、昔の魅了駄々洩れだったオティーリエを彷彿させるから嫌なのであって、ソーニョ自身を悪く思ってるわけではない。

 ネーベルがソーニョを警戒してるのは、見張らせていたイジーの元乳兄弟、ナル・カメールと何度か一緒にいるところを目撃しているからだ。

 ナル・カメールは一・二年の時に何かとイジーと張り合ってる様子を見せていた。

 あからさまにイジーに対して悪い印象を与える話をしていたわけではないけれど、ときどき『イグナーツ殿下は王子としてなっていない』って感じのことを言っていたようで、最初は仲良くしていた生徒とも距離を置かれているらしい。

 そこに来てソーニョとの接触だもんなぁ……。

 何かあると言ってるようなものだ。

 あと、ナル・カーメルのことも自分の目で確認しておきたいけど、イジーを連れてネーベルとリュディガーのクラスに行くのもな……。

 気にし過ぎなのかもしれないけれど、できるだけイジーとナル・カーメルを会わせさせたくない。

 だけどイジーを一人にさせるのも心配だし、それにイジーはたぶん僕についてきたがるよね。

 入学当初は、僕と違うクラスだったことに落ち込んでいたし。

 んー、どうしたらいいだろう。

 腕を組んでうんうん悩んでいたら、つんと袖を引っ張られる。

「アル、噂をすれば……だ」

 ネーベルが小声で声を掛けて、視線を雑貨店の窓の外へ向ける。

 ネーベルの視線を追った先にいたのは、三人ほど固まって道路を歩く男子生徒の姿。

 茶髪と黄色みの強い金髪と、赤みがかった金髪。

「あの赤みがかった金髪がレオナルド・ソーニョだ」

 成長期終わってんのか、ヴァッハと同じぐらい背が高い。クッソ、僕だってねぇ、ちゃんと身長伸びてんだからな!

 あと、テオが言ったのもわかるな。視線を惹き付ける美形だ。同じ年齢とは思えんほど大人びてる。もう男の子じゃなくって、男って感じだなぁ。

 確かにあれはヴァッハとは違う女子受けする……、そう、さわやか好青年。ガチ恋される、いわゆる本命にされるタイプだ。

 だが、僕の弟のほうが百倍美形でカッコいいぞ! なんせ母上とは違うベクトルの美女である王妃様の息子だからな!



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