第18話 年上のご令嬢に受けがいい
ヴァッハがオティーリエに興味を示しているのは間違いないだろう。
ブルーメ嬢に声を掛けたのも、遠目でオティーリエと間違えたからか、もしくはどっちかわからなくって確かめたのかもしれない。
「小さい頃にヴァッハに会ったってことはない?」
僕がそう言うと、オティーリエが気まずそうな顔をする。
「あの頃は……」
あ、魅了でホイホイしてたんだっけ?
「お茶会とかじゃなくってさ、アインホルン領とか、どこかの地方の領に行ったときとか」
「あの方、特徴的な容姿ですよね」
「うん」
「一度見たら忘れられないと思うのです。小さい頃と今では成長していろいろ変わってくると思いますが、さすがにあの特徴は変わりませんよね?」
そうだね、金髪にローズレッドの眼、それから褐色の肌。
成長しても一発でわかるだろう。
「私の記憶にある限り、幼い頃に彼と遊んだとか、顔を合わせたとか、そういったことは一度もありません」
断言しちゃうか。
そこまで言い切っちゃうなら、オティーリエと顔を合わせたことはないだろう。
「じゃぁ、ブルーメ嬢」
「え?」
「ブルーメ嬢はどう? 小さい頃会ったことはない?」
いきなり話を振られて驚いた様子のブルーメ嬢だが、しばらく考えこんでから首を横に振った。
「私も憶えがありません。幼い頃は母の傍から離れずにいました。あの声が、母が私を置いて亡くなると言っていたから、その恐怖で一時も母から離れたくなかったのです」
確かにそれも一理あるか。
「そう言えばその声っていつ頃から聞こえてた?」
「いつ頃から……、そうですね。気が付いたら、聞こえていた感じですね。どう説明したらいいんでしょう。いつも一人じゃないって感じは、ずっとあった気がします。でも小さなころは、あの声は母の声だと思っていたんです。はっきり違うとわかったのは、母の具合が少しずつ悪くなり始めた頃でしょうか? 母がもうすぐ寝たきりになると言ってきて、そこでその声が、母ではないと気が付いたんです」
ブルーメ嬢の話に、オティーリエは顔を青くさせている。
オティーリエが一番女神の被害を受けてたからなぁ。
特に魅了と、それからラノベのような出来事が起きて、自分が主人公になったのかと錯覚してしまったのは、間違いなく女神のせいだ。
「なるほどね。じゃぁ、結構小さなころから聞こえてたんだ。しかも言ってることは一部を除くと大体あってるし、ますます信じ込んじゃうか」
「はい、あの頃はとにかく、母と離れることが恐ろしく、家の中でも外出先でも母に引っ付いていました。ですので、レアンドロ・ヴァッハ様と会っていたとしても、二人でだけで遊んだということはないと思います」
「んー、イヴたちが来た頃は、もう誰かと関わろうとしてなかったもんね」
「はい、放っておかれたこともありましたが、それで一人で外に行くことはなかったです。基本的に部屋にこもっていました」
なら、ヴァッハと幼少期に何処かで一緒に遊んだって感じの、ラブロマンス小説にありがちな想い出があったってわけではないか。
一方的にヴァッハがオティーリエに言い寄ってるのかな。
「う~ん、わからん」
「単純に考えたほうがいいんじゃないか?」
上からネーベルの声が降ってきた。
見上げると、いつの間にフリースペースに入ってきたのか、ネーベルとリュディガーが傍にいた。
「学園都市にやってきて、どこかでオティーリエ様を見かけて一目惚れした。入学して同じクラスになったから、喜び勇んでお近づきになろうと思った。でも、アルやイグナーツ様といった王子殿下とテオドーア様という辺境伯子息と仲が良い。アルたちがいるときに迂闊に近づいたら、アルたちに警戒されるなと」
「ネーベルの考えが一番理に適ってるか」
みんな集まったし、フリースぺースから上学部の学舎に近いショップ街へと移動することにした。
「ヴァッハのこといろいろ調べた。確かにテオドーア様が仰ったように、普段はチャラッとしている生徒だな。ヒルトに頼んで確認したんだけど、淑女科にいる女生徒にも受けがいいそうだ」
「文官科にいる女生徒もヴァッハに好意的な女生徒は結構いますね」
雑貨店に入って商品を見ながらきゃいきゃいはしゃいでいるオティーリエたちを見ながら、ネーベルとリュディガーの話を聞く。
「下学部にいた時は、ヴァッハに対して受けが良かったのは同学年よりも上の学年の女生徒たちだった。特に上学部の先輩たちな」
こういったことを言うのはなんだけど、性的なものに意識し始めるのって、学園に入学し始めるころからだ。
女性の場合は、恋愛感情に性的なものが混ざるようになるんじゃないかな?
つまり……、イケメンに性的な魅力を感じて恋愛感情を持つようになる。
そういった精神面は女性のほうが早く芽生えるだろうし、そして慣れるのも早いと思う。
下学部のころはまだ慣れていないし遠慮もあるけれど、上学部になれば学園生活に慣れ親しんで、そういったことにも意識を向ける余裕が出始める。
ヴァッハに反応するのが上学部の女生徒だったっていうのは、同年代は見飽きていて、だけど下の学年に性的な魅力のある生徒がいるって気が付いたからかな?
「身体が大きかったから目立ったのか?」
「あぁ、そのことですが、ヘッダ様に確認したんですけれど、ヴァッハって入学当初はアルベルト様とあまり変わらない身体の大きさだったそうですよ? 二年ぐらいからどんどん身長が大きくなっていったそうです」
リュディガーの言葉にピクリとしてしまう。
はぁ?! なにそれ! 僕と同じぐらいの身長だったなんて、そんな、そんな、ズルいじゃんかよぉ!!
僕、好き嫌い無く食べてるのに! なんだ、なに食べてでかくなった?!
みんなみんな、僕より大きくなりやがってぇ!!
「アル、八つ当たりするなよ」
「八つ当たりしてないよ」
ぶぅっと頬を膨らませていると、ネーベルたちがやれやれ困ったみたいな感じで僕を見ていた。
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