第17話 美形で背が高いなんて、まるでヒーローだ
オティーリエたちと一緒に行動するようになってから、例のレアンドロ・ヴァッハを何度か目視した。
テオが言ったように、ヴァッハは確かに美形の類に入る容姿だ。
だけどあいつ、純粋なラーヴェ国民じゃねーだろ?
金髪にローズレッドの瞳。これだけならまぁ、ラーヴェ王国でもよく見る色彩だけど、浅黒い肌をしてる。
あれはリトス王国よりもさらに南の方の国でよく見る肌の色だ。
あっちって確か移動民族……、前世で言うところの移動民族がいるんだよね。いわゆるロマとかそういうやつね。
隙をついてオティーリエに声を掛けているらしく、僕とイジーの姿を見ると『やべ、バレた』みたいな顔をして、さっさと退散してしまう。
そういう動きがなぁ……、怪しいんだよなぁ。
んで、ヴァッハを見て思ったんだけど、なんか引っかかる。
昔、本で読んだか誰かに聞いたか、その辺にまつわる話を聞いたことがあるんだよなぁ。なんだったっけ? 思い出せない。
そしてちょっと悔しいのだけれど、なんか……あいつ同級生とは思えないほど、背が高かった。
悔しい。
背が高いと言えば、なんかテオもちょっと高くなってる気がする。
それからイジーもさぁ、いつの間にか目線がさぁ、少し……結構、見上げなきゃいけなくなってきていることに、気付いてしまった。
いやいやいやいや、実はね、実は、テオの実家であるメッケルに行ったときから、すこーしずつ、あれ? って思うところがあったんだよね。
特に、イジーとテオなんだけど、時々二人とも膝をさすったり、クルトやリュディガーに背中をさすってもらったりしているのを見かけていたのだ。
リュディガーは学園都市に来た頃から、声がガラガラって感じになっていた。
テオとイジーも一年の終わり頃には低くなり始めてたし、クルトも二年の半ばあたりにはすでにその兆候があった。
そしてそして、ずっと一緒にいたネーベルと離れて、お昼と放課後に会うようになってから、なんだか声が違うなって……。
ぼ、僕だって背、伸びてるよ?! い、一年のころに比べれば! でも、隣にいるイジーを見上げるようになって、僕は気づいてしまったのだ。
もしかして、僕ってみんなの中で一番背が低い? みんなより、成長期来るの遅くない?
でも! おじい様は背が高いし! 僕だって背が高くなるはずだ。
そんな事を考えながら、僕とイジー、そしてオティーリエたち女子組と、食堂の隣にあるフリースペースでネーベルとリュディガーを待っている。
今日は、上学部の方のショップ街を見て回ることにしているのだ。
ネーベルたちを待っていたら、ヴァッハがスペース内を覗きに来たのだが、僕とイジーの姿を見てさっと何処かへ行ってしまった。
「う~ん、あれは一体どう見ればいいんだろうねぇ? イジーはどう見る?」
「ヘッダが言っていた邪気がない云々はともかく」
「うん」
「オティーリエを狙ってるのは間違いないと思います」
イジーの言葉に、オティーリエの顔が青ざめる。
「ちなみに、イジーがそう思った根拠は?」
「探してました」
「目的語を付け加えて? オティーリエの姿を探してたの?」
「はい。ヴァッハがこのフリースペースを覗いたとき、真っ先にオティーリエの姿を見つけて、こっちに来ようとしたんです。でも俺たちがいたから」
そのまま、こっちに来ることなく覗き込んだという態で、通り過ぎていったと……。
「テオが言った通りなのか、それとも、オティーリエに何かあるのか」
「で、でも、声を掛けられたのは、わたくしだけではありません。アンジェリカ様もです」
オティーリエは自分だけがターゲットではないと、思い込みたいみたいだなぁ。
「んー。あのさ、下学部の時ブルーメ嬢は、ヴァッハに声を掛けられたことある?」
僕の問いかけに、ブルーメ嬢は首を傾げ考え込む仕草をする。
「いえ、ありません。同じクラスでいらしたイグナーツ様なら御存じのはずですが、アルベルト様とお話しするまで、私は誰とも人付き合いをしようとしていませんでした。それにあの、やはりちゃんとしていなかったので、私が人付き合いをしないと思うよりも、周囲の方々は私に近づきたくないと思われていたのではないでしょうか?」
イジーを見ると、ブルーメ嬢の言葉に同意するように頷く。
「でも声を掛けてきたんだよね?」
「アンジェリカの身嗜みがちゃんとできるようになってからですね」
そう答えたのはヘレーネ嬢だ。
「ちょっといい?」
オティーリエとブルーメ嬢を並ばせて、僕はフリースペースの出入り口へと移動する。
遠目から、二人を見ると、やっぱり髪の色が近いせいか、背格好も同じぐらいだし、似てるなぁ。
何度か二人の姿を確認してから戻ると、イジーが不思議そうな声で訊ねる。
「なにかありましたか?」
「う~ん、主観的になっちゃうと思うんだけど、遠目で見ると、オティーリエとブルーメ嬢は間違えそうだなぁって思った」
「二人とも背格好が似てますからね」
ヘレーネ嬢の言葉にオティーリエとブルーメ嬢が顔を見合わせる。
「似てる、かしら?」
「どうでしょうか?」
「遠目で見るとって話だよ。髪の色も近いしね。ただ、ブルーメ嬢は少しクセ毛なのかな? 髪の下の方がウエーブ掛かってるから、遠目でもよくよく見れば違うなっていうのは分かるよ。顔は全然違うから、近づけばすぐにわかる」
オティーリエは本当に、美少女だからなぁ。僕が知る中で一番の美少女はオティーリエだ。
対してブルーメ嬢は、ヒロインだけあって確かに可愛い。けど、オティーリエほどパッと目を引くほどの美しさはなく、何っていうか……、愛らしいって感じ。
オティーリエが薔薇なら、ブルーメ嬢はガーベラって感じ。
ちなみに、ヘッダは牡丹。ヒルトは百合。ヘレーネ嬢は白木蓮。
イヴは……向日葵かな?
ほら、お花はどんなお花だって綺麗だけど趣が違うからね。
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