第15話 公女にまとわりつく男子生徒
早速、翌日のお昼、オティーリエたちも一緒に食べることにした。
ブルーメ嬢はひたすら恐縮した様子で、イヴはなんで私までと言わんばかりだったのだが、ガーベルのお弁当を見た途端、目を輝かせた。
「やっぱり王族とか高位のお貴族様とかって、口に入れる料理まで違うのね」
「使っている食材は、学食のものと一緒だよ」
食材仕入れは、学食と各寮一括の購入って決まっているらしい。
足りない場合は、都度個々で、マーケット街で購入したり取り寄せたりするそうだ。
僕の説明にイヴは驚いた顔をする。
「え?」
「僕の料理長によると、料理は味だけじゃなくって、料理を乗せる器、そして料理と飾りつけの美しさ。すべて合わせて完成する芸術品なんだそうだよ」
「……食べてなくなっちゃうのに、芸術品なの?」
「そうだよ。食べるときにだけ、お目にかかることができる、あっという間に消えてしまう一瞬の芸術品」
お皿の中に料理という作品を作る芸術家が料理人なのだとガーベルは言っていた。
でもガーベルはこういう、宮廷なんかで出されるような料理もだけど、野営で作る料理もおいしいんだよねぇ。
「確かに、このテリーヌなんかは、食べてしまうのが惜しい、ですね」
ヒルトの言葉に、にこにこ笑いながらヘッダも続く。
「目で楽しんで舌でも楽しむ。素晴らしいですわね」
ガーベルたちが張り切っただけあって、今日のお弁当は、女子受けが良かった。また明日も張り切りそうだなぁ。
食後にシルトにお茶を入れてもらって、オティーリエの話を聞くことにした。
「しつこく話しかけてくる方がいらっしゃるのです」
オティーリエの切り出しに、僕はクラス内の生徒の様子を思い返す。
いたって普通? まぁゾマーのこととかはあるけれど、男子が我先にって感じにオティーリエに突っ込んでいく様子は見たことないなぁ。
女子同士もそんなおかしな感じはないと思うけど、こればっかりは何とも言えない。
同じクラス内でも、女子と男子じゃ見方も違うし、女子には女子の目に見えないやり取りがあるからなぁ。
でもクラス内の男子がオティーリエに侍りに行ってる様子は見てない。
「クラス外の生徒?」
訊ねるとオティーリエは頷く。
「実は下学部の時、同じクラスでして、その時もやたらとお声を掛けてくる方だったのですが、ヘドヴィック様もいらしていたせいか、そこまでといった様子ではなかったのです」
「あっ! もしかしてあいつ? よくオティーリエ様に声掛けしてきてた」
イヴも心当たりがあるようだ。
あ、そうかイヴも同じクラスだったんだっけ?
「名前は?」
「レアンドロ・ヴァッハ伯爵令息です」
「ん~、伯爵だよね。法衣貴族か?」
こめかみをぐりぐりしながら、ラーヴェ王国の領地の名前を思い出す。
うん、ヴァッハなんて言う領地は聞いたことない。『伯爵令息』って言うなら、ヴァッハは伯爵位の名前になるはずだ。
「ヴァッハなら、そいつ騎士科の生徒じゃん」
テオの発言に思わず振り向く。
「確か、爵位は兄貴が継いでるとか言ってたぜ? 遅くに出来た子供だから、兄貴とはほぼ親子ぐらいの年の差なんだと。貰える爵位もねーし、自分で身を立てるしかないとか言ってたわ。まぁ、そういう身の上ならオリーに声かけてもおかしくねーだろ」
「……なんでそんなこと仰るの?」
オティーリエは恨めし気な視線をテオに向ける。
「だってお前アインホルン継ぐんだろ?」
二年生の夏にアインホルン公爵継嗣が、寝たきりになったのは、もうすでに他の貴族には回っている情報だ。
アインホルンも継嗣の乗馬事故のことは隠していない。それは疚しいことは何もなく、本当に純粋な事故だったと周囲に知らしめるためだ。
継嗣が事故って動けなくなっても、アインホルン家には後三人子供がいる。
上学部の学長である次男と、長女のオティーリエ。そして来年、学園都市にやってくるだろう三男。
次男は学長を辞任せず、そして長女が領地経営科に進んだということは、学園内にいる貴族の生徒は、オティーリエが爵位を継ぐとみている。
実際その通りで、オティーリエはその話を他の生徒から尋ねられても否定しない。肯定もしてないけどね。
「みんな知ってる。ヴァッハみたいな立場の奴なら、女公の婿になりてぇって考えるに決まってるじゃねーか」
テオの指摘にオティーリエが声を荒げる。
「そうじゃなくって!」
「あらあらあら、まぁまぁまぁ。いやですわ~。わたくしが傍から離れた途端に、自制が利かないんですの?」
「ヘドヴィック様!」
「大声を出すのはおやめなさい。はしたなくてよ」
ヘッダの言葉にオティーリエはぎゅっと唇を噛みしめる。
「その癖もおやめなさい」
これはなんだか、お姉さんが隙を見せた妹を叱ってるみたいだなぁ。
ヘッダは末っ子なんだけど、公爵家の子供としてできていたのはヘッダの方だから仕方ないか。
「テオ、そのヴァッハってどんな感じの生徒なの?」
ヘッダの注意にオティーリエが落ち込んでしまって話せない状態になってしまったので、情報を持っていそうなテオに訊ねる。
「んー、一言で言うなら」
「言うなら?」
「なんか、チャラチャラしてる」
チャラ男かい!
「顔はな……イジーには劣るけれど、まぁ悪くねーんじゃないか? 女子相手なら誰にでも邪険に扱ったりしないから、女子受けがいい」
イジー、王妃様に似てるからさ。僕ら男子の中じゃぁ、イジーが一番美形なんだよなぁ。
「話してても悪い感じはねーよ? あと、あんま集団行動には向かねーのかな? とは思う。協調性がないわけじゃないけど、気が付くと居なくなってるから。その辺は下学部のときに同じクラスだったヘッダのほうが詳しいだろ?」
「そうですわね。邪気がない方、と言ったらよろしいかしら?」
テオに差し向けられて、ヘッダも同意する。
「邪気がない?」
「あの方、面白い方ですわよね」
そう言って笑いを漏らすヘッダに、テオはむっとした顔をするけれど、肝心の婚約者であるイジーは何の反応もない。
この対比よ!
ほらぁ、イジー。だからヘッダに女性の扱いがなってないって言われちゃうんだよ。
気にならなくても君がヘッダの婚約者なんだから、どういう意味だ? とか聞いてあげなくっちゃさぁ……。
んー、道のり遠い!!
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