第14話 ランチを一緒に

 テオから騎士科の現状を聞いてから数日後、オティーリエが申し訳なさそうな顔をして声を掛けてきた。

「アルベルト様、お願いがあります。ご迷惑をおかけしてしまうと思うのですが、しばらくご一緒にいさせていただけませんか?」

 オティーリエと一緒にブルーメ嬢とヘレーネ嬢も一緒にいた。

「なんかあった?」

 僕の問いかけに、オティーリエは神妙な表情で頷く。

「あとで話を聞く?」

「お願いします」

 イジーも一・二年の時はテオに引っ張りまわされてクラスメイトとの交流はあったけれど、傍にいたのはほとんど男子生徒で、女子との交流はそれこそ授業でグループ作業をするときぐらいで、女子との付き合いに慣れてるわけじゃない。

 婚約者として交流しているヘッダは、小さい頃からの知り合いだし、傍にいたヒルトもなぁ、戦闘力高めのつよつよ女子だから、イジーが異性として見る意識が薄いんだよ。

 ここらへんで、顔見知りではあるけれど、小さい頃から気心知った付き合いをしていたわけではない、ブルーメ嬢とヘレーネ嬢と一緒の行動は良いかもしれない。

 オティーリエはもとより、ヘレーネ嬢は元引きこもりでもちゃんと侯爵令嬢としてマナーを受けてるし、ブルーメ嬢は……ちょっと不安なところもあるけれど、前に話を聞いたときは、ちゃんと自分が悪かったところも理解している。何よりもオティーリエとヘレーネ嬢が一緒なら、令嬢らしからぬことをしでかすとは思えない。

 ブルーメ嬢が前みたいに変な方向に行こうとすれば、オティーリエとヘレーネ嬢が止めてくれるだろう。

 イジーも、昔馴染みではない女子相手なら、少しは異性と同性の扱いの差がわかるかも。

「勝手に決めちゃったけど大丈夫?」

 こっそりイジーに囁くと、イジーは小さく頷く。

「実はヘッダに」

「ヘッダに?」

「女性の扱いを勉強しろと言われました」

 何やっちゃったのぉ?

 イジーとヘッダの交流に関しては、ノータッチだったんだけど、心配になってきたぞぉ?

「ヘッダが言うには、俺は気が利かないようです」

「エスコートに慣れてないって事かな?」

「はい、王子様顔をしているのに、中身は王子様からは程遠い。王子の役目は世の女性に夢を与えることも含まれている。気の利いたことが言えないのであれば、態度で示せとまで言われました」

 ヘッダちゃ~ん。

 いや、確かに、確かにそうなんだけどねぇ?

 キャラ的に! 陽キャじゃないイジーに、たらしのような言動は無理でしょ?

「そうだねぇ……。ヘッダの言いたいことは、う~ん、微に入り細を穿つほどまで行かなくても、さりげなく女性に手を貸せって事じゃないかな?」

「び、に、いり?」

「微に入り細を穿つ。つまり、すごく細かく気を配るって意味ね。僕が言いたいのは、そこまでしなくてもいいって事さ。ちょっと大変そうだな? と思ったら手を差し出してあげる」

 するとイジーはもじもじとし始める。

「その……」

「うん?」

「ちょっと大変そうだな、という見極めが……」

 あぁ! そこからなのね?

「う~ん、じゃぁこういうのはどうかな? イジーの目の前にお婆さんがいます」

「はい」

「重そうな果物がいっぱい入ってる籠をもって杖を突いて歩いてる。ちょっと足元がおぼつかないな~。それを見て、イジーはどうする?」

「急ぎの用事がなく、時間があるなら声を掛けます」

「うん、それで?」

「行先を聞いて、近場ならそこまで荷物を……」

 そこではっとした顔をする。

「わかった? 若い女性に対しても同じだよ。例えば段差があるところで、ここは危ないなと思ったら、手を差し伸べてあげる。もしくは足元に気を付けてと一言言ってあげる。こんなものでいいんだよ」

「なんとなくわかりました。けど、それをすぐに実践できる自信はありません」

「まぁ、そこはね、ゆっくりやって行こう?」

 僕の言葉にイジーは何度も頷く。

 僕も人に言えるほど、ちゃんとエスコートできてるわけじゃないから、マナーの先生に声を掛けたほうがいいかもしれない。

 特に僕らは王族だから、できませんじゃすまないものね。


 とりあえずオティーリエのお願いを聞き入れることにしたので、僕とイジーはしばらくオティーリエたちと一緒に行動することになった。

 当然のごとく、お昼や放課後も一緒の行動になるのだが、オティーリエは継承権を持っているうえに公爵家の娘、ヘレーネ嬢は侯爵家の娘、ブルーメ嬢はヘレーネ嬢の家の寄子家で学友という立ち位置になっているから、周囲の反感を買うことはないだろうけれど、よくない噂を立てられる可能性があるので、淑女科にいるヘッダとヒルトそしてイヴも一緒にお昼をとることにした。

 ヘッダとヒルトがいれば、反感はさらに抑えられるだろうし、噂もねぇ……。

 やっかんで噂を立てたら、ヘッダが目を輝かせて楽しむのが目に見える。

 そう、餌の仕留め方を教えるために、生きたネズミを子猫たちの前で甚振る母猫の如く、オティーリエたちに社交での戦い方を教えるために、噂の発生源をつきとめて、楽しそうに追い詰めるぞ。

 その際ヘッダは自分たちには何の瑕疵もなく、悪いのは相手だと思わせる空気に持っていき、噂によってとても傷ついてショックで、上手く印象操作するからな。

 女子組で、物理で戦闘力高めのつよつよ女子はヒルトだけど、心理の知略で戦闘力高めのつよつよ女子はヘッダだ。

 ヘッダのあれを敵に回す恐ろしさを知らん奴は、貴族社会で生き残れんぞ。

 僕、男で本当によかったわ。


 しばらくの間、女子が六名お昼を一緒に食べることになったから、女子用の分も用意するようにガーベルに頼むと、なんだかとても張り切った様子で、他のコックたちとワイワイ言いながらメニューを考え始めてしまった。

 じょ、女子用だからね? 量は僕らと一緒じゃ駄目だからね? 少なめにしてあげてね?




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