第11話 それはもしやマッチポンプなのでは?

 騎士科に入ったその留学生が、正真正銘リトス王国の伯爵家の子供だって言うなら、問題はない。

 ただね、王族・大公家の人間の場合、お忍びだとしても、ラーヴェ王国の王立学園に留学しに行きますって言う連絡をね、入れるのが筋っていうもんなんだよ。

 大事なことなので二回言うけど、お忍びだとしてもね!

 だって、相手に何かが起これば外交問題になるんだよ? お忍びならなおの事関係者には連絡入れろって話よ。

 そして僕とイジーは王族なんだから、隣国の王族関係者が学園都市でなんかあった際のフォローだとか、しなきゃいけない。

 この手の外交に関わる報連相は必須だ。

 だけど、僕もイジーも、リトス王国の王族、王族に近しい大公家の人間が、うちの国に留学しに来るなんて話、聞いてねーんだわ。

 リトスから連絡が入ってるなら、学園都市にいる王族という立場の僕らに、その情報が降りてこないわけがない。

 例えば、相手側から身分差の垣根なく、同世代の子供と付き合いたいので、僕らにも内密にしてほしいと言っても、僕とイジーはその情報を知っていなきゃいけない立場だから、それはラーヴェ王国としては許可できない話である。

 再三言うけど、リトスの王族がラーヴェ王国の学園都市で、イジメにあっただとか、怪我を負わされたとかになったら、本当にただ事じゃ済まないからね。

 お互いに、お忍びだったからで済まされる問題じゃないのだ。


 シルトとランツェに留学生の背後関係を探ってもらうとして、まずはだいたいの人とは友好的に接することができる陽キャのテオが、どうしてその相手とは合わないのか知る必要がある。

「それで? テオはクルトが言った、ちょっとおかしい生徒のどこが引っかかった? 何かされた? キリキリ吐いてくれるかな?」

「こ、怖ぇーよ! どうしたんだよ?」

「なに言ってんの? これも戦略だからね。彼を知り己を知れば百戦殆からず。だよ」

 この言葉を国王陛下以外に使うとは思わなかった。

「どういう意味ですか?」

「自分のところだけではなく相手の情勢も知っていれば、何度戦っても負けない」

 イジーの問いかけに答えると、イジーだけじゃなくテオまで真顔になる。

「名前は?」

「レオナルド・ソーニョ」

「平民じゃないよね?」

「伯爵家の人間だって言ってた」

 伯爵家ね……。

 リトスにソーニョなんて地域はない。

 ってことは、家名が領地の名前になるような、代々の領地を持っている伯爵ではない法衣貴族。もしくは領地を下賜された伯爵か。

 母親がそういった伯爵家の出か……ってことだな。

 素性を隠してるなら、馬鹿正直に本名を名乗ったりはしないだろうからね。

 そういう場合は大抵の場合、嫁ぐ前の母親の家名を使わせてもらっているはずだ。

 怪しいなぁ。

「それで、テオはそのレオナルド・ソーニョと何があったの?」

 するとテオはなんだかごにょごにょと口籠る。

「なにかって言うほどじゃねーよ」

「でも気が合わないんだよね?」

「……説明が、難しい。俺が直接被害に遭ったわけじゃねーし」

「いいから話しなよ」

 僕に促されて、テオが渋々話し出す。

「なんか、気が付くと相手が悪いような感じにされてる」

「どういうこと?」

「騎士科に進む生徒は、やっぱどっちかって言うと、頭脳よりも体力だとか腕力だとか身体に優れてる奴らが多いんだ。バカって言ったら身も蓋もねーけど。けど、だからってマナーが全くできてないってわけじゃねーぞ? ただあいつ、フォルトはちょっとお調子者っていうか、人を揶揄うのに加減ができないところがあるんだよな。あとそう言う奴だから、気が利かないところがある。でも、まぁ、フォルトみたいな奴は、下学部でも一人や二人はいたじゃん?」

「ムードメイカー的な役割って事か」

「そんな感じ。んで、俺ら男同士だし騎士科の男子生徒は、揶揄われてもいちいち真に受けたりしねー奴らばっかなんだよ。っていうか、うざかったらうぜぇって言うし、やめてほしかったらやめろって言い返すから、そういうのあんま気にならねーんだ」

 まぁ、鋼の心とは言わないけれど、ちょっと強く何か言われた程度で心が折れてたら、騎士は務まらんだろうしな。

 あと、僕ら下学部の時に、先生と進路指導の個人面談してるんだよね。

 その時に、『この子、こんなに繊細なら、武官としてやっていけそうにねーな』とか、逆に『文官希望にしては脳筋過ぎねーか?』って先生が判断するだろうし、向いてないコースに進ませるとは思えないしな。

「そのフォルトがいつの間にかクラス内で浮くようになってきた」

「なんで?」

「それがわかんねーんだよ。なんか気が付いたらそうなってたって感じで。もちろん俺たちだって、やり過ぎたらちゃんとやり過ぎだって言ってたし、クラスには女子もいるから、女子には俺ら男子のノリを押し付けたりすると顰蹙を買うし、やらかしそうなときは途中で止めてたんだよ」

「そのフォルトって生徒がクラス内で浮くことになった理由が、留学生のレオナルド・ソーニョってこと?」

「……たぶん」

「曖昧な言い方だなぁ」

「だから説明しにくいって言ってるじゃねーか。それにソーニョの奴は、クラス内で浮きまくってるフォルトのことを庇ってるから」

 庇うねぇ。

 マッチポンプじゃねーのそれは。

 自分でフォルト少年をクラス内で浮くように仕立て上げて、みんなが嫌厭して近づかないようになった途端に、自分だけは味方だってふりをして近づくやつ。

「でも、そのフォルトって生徒がクラス内で浮くような、きっかけみたいな出来事があったでしょう?」

 そう訊ねるとテオは考える仕草をする。

「きっかけ、か……。ソーニョは女子受けがいいんだよな。それをよくフォルトが揶揄ってた気がする」

 女性にモテることを揶揄われたのが気に入らなかったから、揶揄ってきた相手をクラス内で浮くように仕向けた?

 そんな下らない理由で? って思うのは、そういったことで、僕が揶揄われることがなかったからかな?

 女子にモテることを揶揄われること自体が嫌なのか? それとも揶揄われた内容、相手の言い方がレオナルド・ソーニョの気に障ったのか?

 わからないなぁ。




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