第12話 いつの間にか悪者にされる
テオにもっと詳しい話を聞くと、嫌みのような揶揄いではなかったようだ。
女子受けがいいと言えども、レオナルド・ソーニョはクラスの女子を侍らすというようなことをしているわけではなく、どちらかというと男子生徒と一緒にいるほうが多い。
クラスの女子には親切には親切だけど、他の男子生徒から反感を買うような、大げさなものではなく、いわゆるレディーファースト的なもの。
例えば課題を集めるのを手伝ったり、教室の出入り口で話し込んで、教室に入りにくそうにしている女生徒に気が付いて、さっとその場から移動したりと、そういったちょっとしたことなのだそうだ。
そしてそういった親切は、女性限定ではなく同じクラスの男子生徒にもやっている。
騎士科の女生徒は、女性の身で数少ない騎士を目指すことは、精神的にも肉体的にもかなり厳しいことなのだと、進路の面談の時にも言われていただろうから、男子から女性扱いされないなどという不満など漏らすことはないし、むしろ体力づくりを邪魔するような親切は不要と言った様子らしい。
そして同じクラスではあるけれど、女性騎士には女性騎士のやり方があるので、座学は一緒だけれど、武術の授業は別なのだという。
だから、レオナルド・ソーニョに親切にされたからといって、騎士科の女生徒たちがレオナルド・ソーニョに惚れてシンパになると言った様子ではなく、そういう意味では、どちらかというと婚約者がいない淑女科の女生徒のほうが、そういった扱いをされることを期待して、積極的にレオナルド・ソーニョに絡んでいくことのほうが多いそうだ。
そのため、淑女科の女生徒たちに、紳士な対応をするレオナルド・ソーニョに、フォルト少年が時々、『あの子、お前に惚れたんじゃないか?』とか、淑女科の女生徒に黄色い声援を送られると、モテ男と囃し立てて揶揄っていたらしい。
「そうやって囃し立てられるのが嫌だったんじゃないか?」
「ところがソーニョは、フォルトに揶揄われても、にこにこ笑ってそんなことない。フォルトのほうがモテてるって、さらっと躱してんだよな。フォルトがしつこく囃し立てたりしたときなんかは、『いや、あの女生徒は君のほうを見ていたよ』とか、さりげなくそれ以上エスカレートしないように誘導してんだよ。もし本心ではフォルトの揶揄いがうぜぇって思ってたなら、ちゃんとそういったことを相手に伝えると思う」
それは考えられるけれど……。
「例えば、もうすでに注意をしてて、だけどそのフォルトが揶揄いをやめなかったってことはない?」
「う~ん、確かにフォルトはお調子者だけど、そうやって面と向かって言われたら、やめると思う」
なんだか変な話だなぁ。
「話を聞く分には、レオナルド・ソーニョはちゃんとしてる人じゃん。なのに、テオは合わないんだよね? 何処が合わないの?」
「なんだろう……。お姫様の時のオリーに似てるから、だ」
オティーリエ?
「あぁ、そうか。わかった。フォルトがクラスで浮くようになったのは、ソーニョと仲良くしてる奴らが、突っかかってたからだ」
「どういうこと?」
「フォルトの軽口とか囃し立てに、ソーニョと一緒にいるやつらが過剰に反応するんだよ。モテないからって僻むなとか。ソーニョに対して失礼だろうとか。それで、ソーニョは自分の周囲にいるやつらのことをまぁまぁって宥めて、フォルトにはわざとじゃないのは分かってる。自分は気にしてないってフォローする。今にして思えば、昔のオリーとその周囲にいた奴らみたいだ。言葉にしにくいモヤッとした感覚なんだよな。なんか俺は、いやーな感じがする。近づきたくねー」
なるほど、気付かないうちに悪者にされるアレか。
あの頃、僕って自分の宮に引きこもってたから、オティーリエの周囲にいた奴らの流言は耳に入れてなかったし、気にしてなかったんよね。
でもいま、それをやられたら、どうだろう? まず発信源特定して、徹底的に追い込むかな?
ちらっとテオを見ると、テオはいつもの余裕がない。
「いまそのフォルトってどうなってんの?」
「俺がひっぱりまわしてる」
あぁイジーにやってたみたいなことしてるのか。
「早いうちにソーニョに関わらせないようにしたから、クラス内で孤立、ってことにならなかったけど、ただやっぱフォルトが何か言うと、ソーニョの周囲にいるやつらがピリピリして教室内の雰囲気が悪くなるからな。あいつらには関わらせないようにしてる」
なるほどねぇ……。
「昔のオティーリエか」
「……兄上」
「どうした?」
「そのレオナルド・ソーニョという生徒は、魅了持ちなのでは?」
そうか……、魅了ってなにも女性だけが使えるものじゃない。男だって使えるはずだ。
ヴァンパイアが獲物を吸血するときなんか、そんな感じだよね? あれって催眠ってよりも魅了でしょう?
もっと動きが控えめだったら気が付かなかったけど、でも、周囲の反応を考えると、捨て置くってわけにはいかない。
どちらにしろ、調べておく必要があるのは確かだ。
「シルト、ランツェ。レオナルド・ソーニョの本名と背後関係、調べておいて。あとついでにウイス教徒かどうかも」
「「かしこまりました」」
相変わらず存在感を消して僕らの給仕やお茶の用意をしてくれてる双子は、何でもないことのように、そして当然のように、レオナルド・ソーニョの調査を引き受ける。
「ま、待て待て待て~い!! ちょっとついていけねぇ!」
僕と双子のやり取りに不穏ななにかを察したのだろう。
テオが声を張り上げる。
「なんでソーニョのことを調べるんだ? 何を警戒してるんだよ」
「なにって、テオが変だって思ったんでしょ?」
「まさか俺が言ったから?」
「それだけじゃないよ。調べるのは、念のため」
リトスからの留学生。昔のオティーリエと同じ周囲の反応。
引っかかるのはこの二点。
気のせいならそれでよし。
でも、もし、リトスの王族、もしくは王妃様の元婚約者だった大公の子供だった場合、その情報が、どうして僕らに降りてきてなかったか。
リトスが故意に情報をラーヴェに回さなかったのか。それともリトスの王家も与り知らない単独行動だったのか。
もしくは、ラーヴェ王国の王宮に、リトスの間者が潜り込んでいるのか。
そのことを探る必要が出てくるのだ。
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