第8話 今の王家に足りないもの

「そんなふうに周囲を巻き込んで娶った王妃殿下とはなかなか子供が産まれなかったでしょう? これがよくなかったんだよね。あ、言っておくけれど、僕はこの件に関して王妃様だけのせいだとは思っていないよ? 周囲の反応のことを言ってるだけだからね」

「あ、はい」

 この世界、魔術が結構発達していて、DNA検査のようなことができる割には、いまだに不妊に関しては胎が悪いみたいな風潮なんだよね。

 胎だけじゃなく種も悪いんだっつーの。

 あと大人も子供も性知識が杜撰過ぎんだよ!! 入れて出せば子供ができるって、確かにそうだけど、もっと細かくそうなる説明をせんかい。

 やり方だけ教えたって、意味ねーんだよ! しかも男にいたっては、無知な現代日本人男性のように、女性の月のものは、量も日にちも自由に調整できると思ってやがるのがいるんだよなぁ。そんなわけあるか。

 しかも出産は命がけだっつーのに、一部の人間の妊婦に対しての労りのなさ。

 まるで鬼畜の所業じゃないか。地獄に落ちればいいのに。

「でも周囲がそうやって過剰に反応した理由はさ、王家の濃い血を引く人間が、少ないせいなんだよ。先代国王陛下もさ、王家の濃い血を引き継ぐ子供は、今代の国王陛下の他に、側妃との間に出来た王妹殿下だけしかいなかったでしょう? しかも王妹殿下は未練なくハイレイシス王国の大公殿下の元に嫁いじゃった。今のラーヴェ王国って、王家直系の血筋を持つ者が足りてないんだ。だからこそ、周囲はよけいに王家の血筋を太くすることに固執するんだよ。国王陛下が側妃をとった背景には、王妃殿下になかなか子供ができないからって理由だけじゃなく、王家の濃い血を引く子供を多く残したいってことも含まれてるんだ」

 血を繋げるなら、母上一人じゃなく、もう一人ぐらい入れても良かったのに、王妃様を唯一の妻にしたいって考えて、側妃は一人だけでいいってはねつけた。

 しかも血を繋いでいくには、一番難しいとされている家門の姫君。

 本当なら、そんな家門の姫君を側妃に召し上げるなら、申し訳ないと頭を下げるべきところなのに、頭を下げるどころか、相手の頭を踏みつける行為をしやがった。

 おじい様が怒り狂うのは当然だろう?

「それは、俺にもそういうことが望まれている。ってことですよね?」

「うん。イジーは王家の濃い血を後世に残さなきゃいけない。国王になってイジーがしなければいけないことは、跡継ぎの子供の他に、一代大公家になる子供、それから嫁入り婿入りできる子供を作ることだ」

「王家の直系の血を引く子供が少ないことは分かりました。だけど、どうして一代大公家なんて……」

「その大公家は次代で公爵家になってもらわなきゃいけないからだよ。イジー、さっきも言ったけれど、ラーヴェ王家は現在直系の血を引く子供が少ない。同時に、王家に近い血を持つ高位貴族の家門、いわゆる公爵家は二家しかない。問題はここなんだよ。ラーヴェ王国を支える貴族の勢力が、他国に比べると格段に低い」

 僕の話にイジーははっとした顔をする。

「確かに、貴族が力を持ち過ぎるのは良くない傾向になりがちだけど、現在はそういう時期じゃない。王家に近しい公爵家が、二家しかないのが問題なんだ。それから侯爵家もね。僕が理想とする形態としては、公爵家は四家、侯爵家は五家あっていい。公爵家の四家はね、本家である王家の衰退を止める役割と、見張りを担う。四家あるうちの一家が、王冠をわが手にと考えるかもしれないけれど、他に三家あれば抑止にもなる」

「たしかに……、そうですね」

 僕の話を真剣に考えているイジーには悪いんだけど、見落としてるところを指摘させてもらう。

「こういうことをさ、本来なら国王陛下が考えなきゃいけないんだよね」

「あ……」

「『真実の愛』だとか、『運命の恋人』だとか、そういう寝言をほざく前に、まずは自分が守るべき血筋と国のことを考えろって話になるわけよ」

「はい……」

「長年、王家に携わっている教育係だって、この辺のことは教えてるはずなんだよ。今の王家の血を持つ子供がいないなら特にだ」

「あの、それじゃぁ。あの方は……、叔母上はどうしてラーヴェ王国から出ていかれてしまわれたんですか?」

 王族ならば血筋を残すのが一番重要なことだと知っていながら、王妹殿下はこの国から離れた。イジーはそのことを言っているのだろう。

「あの方、僕と同じような扱いされていたでしょう?」

「話を、聞く限りでは」

「しかも王妹殿下の母君の実家は、マルコシアス家とは違って、それほど強い権力を持っていたわけでもないし、王女を支援できるお金もなかった。なのに大公殿下は何も持っていないとわかっていながら王妹殿下を情熱的に口説いて欲してくれた。王妹殿下は自分のことを粗末に扱う国なんて、いらないと思ったんだろうね」

 季節の挨拶のみしかやり取りをしていないのがいい証拠である。

「これもそれも、国王陛下の身から出た錆だよ。母が違っても、妹を大事にしなかったツケが回ってきただけの話だ」

 きっと王妹殿下は、いつ沈むかわからない泥船には、乗っていたくないと思ったに違いない。

「本当は国王陛下がやらなければいけなかったことを、イジーにさせるのはすごく気が引ける。しかも、その役割を押し付けたのは僕だし」

「いえ、違います。兄上が国王になったとしても、兄上の子はラーヴェ王国の国王にすることはできないのだと、そういう取り決めで、リーゼロッテ様を側妃として召し上げることになっていることを母上から聞きました。父上はマルコシアス家の方々に礼を欠いた行いばかりする。……情けない」

 だってよー。

 国王陛下、可愛がってる実の息子に失望されてるぞ。

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