第4話 女神に介入されやすい共通点
交流のお茶会キャンセル理由は様々で、幼馴染みと出かける約束をした。幼馴染みの具合が悪くなって見舞いに行くことになった。幼馴染みが同年代のグループから仲間外れにされて傷ついているから慰めたい。等々。
おめー、何考えてんだ? って言いたくなるほどの言い訳。キャンセル理由。そして会えばその幼馴染みの話ばかり聞かせてくるのだという。
そんなこんなで王立学園に入学し、学園都市に来ることになったわけなのだが。
そこでフィッシャーは、ブルーメ嬢に、自分の幼馴染みを紹介し、仲良くやってくれよと言い出したらしい。
「……次男なんだっけ?」
「はい」
「次男でも、ちょっとなんかおかしくないか? フィッシャー伯爵夫妻が、政略ありきの婚約であることを話していないわけないよね?」
「そうですね。ただ……パウル様が幼馴染みの方を贔屓するようになった原因の一つは、私の態度だったり、ちゃんとした身だしなみが出来ていなかったこともあると思うので、パウル様だけが悪いとは言えません」
「そうだね」
「それに、あの声なのですが」
あ、そうだった。それが一番重要な話だった。
「あの声は、イヴとパウル様のことはたくさん話していたのですが、パウル様の幼馴染みについては何も言っていなかったんです」
どういうこと?
「私の身に起きる悪いこと。お母様が亡くなってしまうことや、お父様がイヴのお母様と一緒に私を虐げてくるということ、それからこれは外れてしまっていたのですが、イヴが私の持ち物を欲しがって、ドレスやアクセサリーと言ったものを奪っていくこと、パウル様のことも自分の婚約者にしようと企んでいること、パウル様も可愛いイヴに心を奪われて私のことを蔑ろにする。こういったことをあの声は告げてきました」
イヴのこと以外は、ほぼ当たっていて、フィッシャーの幼馴染と言う存在はイレギュラーって事か?
「今もその声は聞こえるの?」
そう訊ねると、ブルーメ嬢は首を横に振る。
「私がどれほどおかしいことをしていたのかと気づくと、あの声は一切聞こえなくなりました。今はもう全く聞こえません。ただ……」
「ただ?」
「最後に聞いた言葉が、とても、不穏というか」
「不穏?」
「はい。あの声、最後に『また失敗した。なんでいつも上手くいかないの。あの子が関わるといつも失敗する。顔は好みだから、私のモノにしようと思ったのに、全然上手くいかない』って。とても不満そうな感じでした」
なんだそれ。
状況的にそれを言ったのは女神なんだけど、妙に俗っぽいな。『神』とは思えない発言じゃないか?
いや、でも、自分勝手な理不尽さは、神様っぽい感じではあるよな。
それから『あの子』って誰のことだよ? 自分のモノにするっていうのはどういう意味で? 自分の……現身にするって事か?
わっかんねーな。
そうだ、オティーリエの時はどうだったんだろう? オティーリエも生まれ変わる前は女神の笑い声が聞こえたとか言ってたしな。こっちの世界に転生して、女神の声は聞こえていたんだろうか?
これは後で確かめておかないと駄目だよなぁ。
「今はもうその声が聞こえないなら、大丈夫かなぁ? もしまた聞こえるようになったら教えてくれる?」
「は、はい。わかりました」
それにしても、女神に介入されて、その洗脳にかかるのって、何か共通点ってあるんだろうか?
一番考えられるのは……。
「あのさ、いきなり変なことを聞くんだけど、ブルーメ家の人はシュッツ神を信仰している?」
「え? あ、はいそうですね。我が家はシュッツ神道を信仰しています」
「ヘレーネ嬢は?」
「ヘンカー家もそうです」
ブルーメ嬢の傍にいたヘレーネ嬢に訊ねると、ヘレーネ嬢もシュッツ神道の信徒だった。
ラーヴェ王家も代々シュッツ神道の神を信仰しているし、マルコシアス家もそう。
ヘッダとオティーリエはどうだ?
メッケル北方辺境伯領にヴォータン主神殿があるし、ヒンデンブルク家の人間であるテオはシュッツ神道だろう。
あ、ちょっと待てよ?
「ブルーメ嬢。君の父君とイヴの母君はどうだろう?」
「お父様とお継母様ですか? どうでしょうか? ウイス教のトゥリスを持ってはいますが、敬虔なウイス教徒かと言われると……」
ブルーメ嬢が言ったトゥリスとは、いわゆるロザリオと同じもので、数珠状の輪に女神像のペンダントヘッドがついている。
ウイス教徒はみんなこのトゥリスを持っているのだ。
ラーヴェ王国と言うか、この時代の人は、僕の前世である近代日本人と違って、信心深い人は多いし、無宗教と言うわけではない。
大抵の人は、シュッツ神道かウイス教のどちらかを信仰している。
女神の介入でどっぷり洗脳されるのは、ウイス教徒の人間なんじゃないかなとも思ったんだけど、ブルーメ嬢は僕に関わるまでは、思いっきり影響されていたしなぁ。
ただ、覚醒したのは、ウイス教徒ではなかったからという見方もあるんだよね。
どちらにしろ、この辺のことはもう少し調べてみないと何とも言えないか。
「アルベルト様」
う~んと唸りながら考えこんでいたら、ブルーメ嬢が僕をまっすぐ見つめていた。
「ブリュンヒルト様にお礼をお伝えくださいますか?」
「ヒルトに?」
「はい、ブリュンヒルト様がイヴを淑女科のコースに行くように説得してくださったので」
え? そうだったの?
「どこかのお屋敷に使用人として入るにしても、淑女科のコースに入っていれば、メイドではなく侍女として身を立てていけると、そう説得をしてくださったのです」
それはそうなんだけど、侍女って基本貴族籍の娘でないとだめなんだけどなぁ……。
「ブルーメ家の籍にいれたの?」
「はい。上学部に進級と同時に、イヴの籍をブルーメ家にいれました。イヴは嫌がっていましたが、将来の勤め先に有利になると言えばしぶしぶ」
なるほどねぇ。
イヴのことだからなぁ、先々のことを考えれば、なにがなんでも貴族にはならないとは、言わなかったか。
たぶん、何処かのお屋敷で侍女職を務めて、ある程度お金が溜まったら、侍女も貴族も辞める算段だろうな。
らしいなぁ。
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