第59話 二年の終わり

 そんな感じで、王妃様やイジー、もしくはどちらかと一緒に、外交でやってきた他国の要人がいるパーティー(夜会ではない)に出席したり、年始とご挨拶とお食事会に出席したり、ストレス溜まって『宵闇』と『夜明』を振り回したり、年始のまったく楽しくなかったお食事会のリベンジをイジーと二人でやり直したり、まぁ色々やってるうちに冬の長期休暇は終了して、学園都市に戻った。


 学園都市に戻って、最初の行事は例の剣術大会で、今年もイジーとテオ、そしてヒルトも出場し、やっぱり個人戦はヒルトが優勝をかっさらった。

 ヒルトが出場すると知るや否や、女生徒たちの歓声がすごいことすごいこと。

 同学年の女子はもとより、上学部の先輩たちもヒルトに声援を送っていて、一年生たちの中にはヒルトが男子学生で騎士科の生徒だと勘違いしていた人もいたと思う。

 いやほんと、剣術は強いし男装の麗人だし、女子の理想の男性像を詰め込んでるからなぁ。

 でも、ドレス姿も綺麗だったよ?

 ほら、僕と最初に会ったときとか、母上の結婚式に参加してくれたときとか、ドレス姿だったけど違和感なかったしね。

 ヒルトは大人になったら、カッコいい美人になるね。


 イジーとテオもいいところまでいったんだけどねぇ。

 テオは騎士科に行くみたいだし来年は決勝戦まで行かなくても、もっと行けるかもしれない。

 ついでに今回もテオは僕に団体戦を一緒に出ようと駄々をこねてきたが、丁重にお断りした。

 もー、何遍も言ってるけど対人戦は無理なんだってば。


 剣術大会が終わった後、僕とネーベルは、ヒルトとイジーとテオを労う会を開くことにした。

 場所はいつも僕らが利用しているショップ街のカフェ店。

 もうずいぶん常連になったし、店長さんに貸し切りできるか交渉してみたら、快くオッケーを貰い、剣術大会に出場した友達を労うパーティーと言うコンセプトを説明して、お料理を作ってもらったのだ。

 僕らだけじゃなく、ヘッダとオティーリエ、それからヒルトと仲良くしているイヴ、ついでにブルーメ嬢とヘレーネ嬢も呼んでもらった。

 イヴはヒルトだけじゃなくオティーリエとも親しくしているし、ブルーメ嬢とヘレーネ嬢もオティーリエとヘッダとの繋がりがあるしね。


「最近、全く顔を見なかったけれど、元気そうだね?」

 ワザとなのかそれとも偶然なのか、何やら個人で動いていたヘッダにそう声を掛けると、ヘッダはにんまりと目を細める。

「これでもこの学園都市の創立一族ですので、いろいろ頼まれごとが多いのですわ」

 なるほど? 理事の件でいろいろ動いていたと?

「イジーに好きな子が出来たら、報告するように言ったんだって?」

「えぇ、アルベルト様もお気づきでしょう?」

 ヘッダが言いたいのは、イジーはヘッダには恋をしない、である。

 恋をしないというか、その手の感情をヘッダに向けていない、向ける気配がない、と言ったらいいのだろうか?

 幼い頃からの付き合いだし、この学園都市に来てからも、婚約者としての交流はしているが、それは決められたことの延長で、お付き合い時間を過ごしているだけなのだ。

 二人の仲は良好だと思う。

 幼少期からの友人なのだから、悪くはないだろう。

 イジーも気の置けない友人としてヘッダのことは尊重しているし、婚約者として扱ってはいるけれど、そこに恋情と言ったものはないのだ。

 ある意味二人の婚約は政略だから、仲が良い状態を保っていられるなら、恋をしなくても問題はないんだよね。

 前にも言ったけれど、イジーがヘッダ以外の人に心を向けたとしても、それでヘッダを邪険にしたり粗末に扱ったりということは、しないと思う。

 ほら、イジー自身がまだ恋心を誰かに抱いた様子がないから、本当にそうなったときのことは、まだわからないんだよね。人柄的に、そういった横柄な態度を今まで親しくしていた相手にはしない気がするんだよ。

「アルベルト様。ご心配されずとも、ちゃーんとうまくできますわよ。このヘドヴィック・シェーネ・ハント゠エアフォルクに、すべてお任せくださいな」

 疑ってはいないよ。

 ヘッダは王妃という身分よりも、宰相職のほうがあっているのかもしれない。

「……ヘッダはどこに行きたいんだろうねぇ?」

「わたくしは自分の生きたい場所に行きますわよ? もちろん、周囲に迷惑をかけるようなやり方は致しませんわ。こういったことは得意ですの」

 だから恐ろしいんだよ。

「わたくしとイグナーツ様の婚約に関しては、アルベルト様のお手を煩わせることはしないと、そこはお約束いたしましょう」

「……国からの出奔はしないでね」

「あら? アルベルト様にそのようなことを言われるとは意外ですわ」

「そんなことないよ。僕、これでもヘッダのことは、重要視しているもの」

 外に出られて、その才能を振るわれたら、たまったものじゃないよ。

「ふふ、ありがたく思いますわ。まぁ、もう一つの公爵家がアレでは、ハント゠エアフォルクを重鎮に置きたくなりますわよね?」

 アインホルン公爵家か。

 去年の夏、僕らがテオのメッケル北方辺境地に行った頃、アインホルンの継嗣が乗馬事故を起こし、全身不随状態になった。

 現在は寝台から出ることがかなわないそうだ。そのうち動かぬ体に気鬱が重くなって命を絶つっていう筋書きなのだろう。

 アインホルン公爵家の継嗣がそうなった以上、新たな跡継ぎ候補は、現在上学部の学長をやっているアインホルン家の次男なのだが、彼はまだこの学園都市の学長職から離れる気配がない。

 オティーリエが淑女科ではなく領地経営科のコースに進んだ理由は、スペアであったはずの次男が家に戻って次期当主としての準備をしなければいけないのに、その動きがないからだ。

 つまりオティーリエがスペアのスペア。いや、次男がこのままなら、自分が次期当主にとってかわると意思表示をしたのである。

 この辺のところは予定調和だ。前々から、ヘッダとオティーリエが、準備していたようだからね。

 オティーリエも大変だろうけれど、安易なほうに流されるのではなく自分で選んだ道だから、辛くてもやらなきゃいけないと思っているのだろうな。

 追い込み過ぎて病まなきゃいいけれど、そこはヘッダが上手いことやってくれるだろう。

 盤上を動かすことに長けているのは、やっぱりヘッダなんだよなぁ。


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