第58話 王家のしきたり
冬の長期休暇がやってきたわけなのだが。
やっぱり冬は年末と年始があるせいか、年始は公務のあれやこれや、主に領地で起きた問題や要望の処理や検討をまとめる書類を作ったり。
どちらかと言うと視察の公務よりも、報告された内容をまとめた書類づくりだったり、たまに神殿の行事に、王族代表で出席したりと言ったことのほうが多かった。
それから、もうそろそろ王族として来賓の持て成し、パーティーや茶会などなど外交的なものに出席してはいかがだろうかという声が。
いや、外交するのはいいんだよ?
まだ王籍に入ってるわけだし、他国と友好を保つのも王族としての義務だ。
僕は将来、臣籍降下って言うか侯爵になる。そしてその時の為に隣国の商人とも顔繋ぎは必要だしね。
だけど、僕の心情としての、一番の問題が出てくる。
一緒に外交するのが、イジーや王妃様ならいいんだけどさぁ、国王陛下と一緒なのはマジで勘弁してほしいわけよ。
僕がそんなことを言い出すにも、ちゃんとした理由があるんだよ。
まず、一応王族内でも年始のご挨拶と言うものがあって、側妃が国王陛下と王妃様にご挨拶に行くわけだよ。
本来ならそのご挨拶は、第一王子であり継承権第一位、次期王太子であった僕も一緒にすることになってたんだけど、何故か母上だけのご挨拶で、僕の参加はなかった。
そして母上をフルフトバールに避難させたその翌年の年始に、そのご挨拶を僕がすることになった。
まぁ、うん、本来ならやって当たり前のことだったから、するのは構わんのよ。
だから、国王陛下と王妃様に、あけおめ・ことよろ(要約)的なことを言って、さっさと僕の宮に戻ったんだよね。
そうしたら、宰相閣下に怒られた。
なんでも、ただ挨拶をするのではなく、ちゃんと家族団らん的なものをお食事しながらしないといけなかったらしい。
だけどさぁ、僕の記憶によれば、母上もめっちゃ着飾って出ていった割には、すぐに戻ってきてたんだよね。
だから、ご挨拶って言ってたし、それだけでよかったんじゃね? っと思ったんだけど、それじゃダメって言われたので、翌年は周囲の人たちの指示に従って、挨拶した後に別室に移動して家族のお食事会が始まったわけなのだが。
なんだかねー、居心地が悪かったよねー。
その一番の理由が国王陛下なんだけど、あの人、王妃様やイジーには積極的に話題を振って、にこにこ笑って話してるんだけど、まー、物の見事に僕のことは無視でしたよ。
一応ね、僕のほうからも国王陛下にお声掛けはしたんだよ? そうしたらさ、言葉少なに『あぁ』とか『そうか』とか返事をした後すぐに、『それよりも』って王妃様やイジーに話しかけるのね。
これを二・三回やった後、僕は理解したね。
あー、この人、僕と話す気はねーんだってね。
それでさぁ、このお食事会、必要なんですか? って、王妃様と宰相閣下との通例のお茶会で訊ねたら、王妃様には苦笑いをされ、公式行事のようなものだからと言われてしまった。
母上がいた時は、その公式行事に参加しなくても、よかったわけじゃない?
なので、その行事については一身上の都合でキャンセルさせてくださいと上申し、三年目に花束とメッセージカードを贈るという荒業を使って回避し、僕の宮にいる使用人たちと一緒に年越しパーティー楽しんだよね。
もうずっとこれで行こうと思ったら、翌年からちゃんと出席するようにと、国王陛下から通達が来たんだよ。
なにがしてーんだ、あのおっさんじゃなくって国王陛下。
それからというもの、毎年新年のご挨拶と気まずーいお食事会には出席してるんだけど、相変わらず国王陛下には無視され、僕と会話をするのは王妃様とイジーだけ。
僕もこれだけのことされちゃぁ、国王陛下と会話する気もない。
出されてる食事は、ガーベルではない王宮専属料理長の作ったものだから、確かに美味しいんだけど、もうひたすらに空気がまずい!
だから、出てくる料理に集中して、時々傍にいる給仕の人に料理のことを聞いて、ガーベルに作り直してもらうことに心を馳せ、毎年乗り切ってる。
僕と国王陛下の関係が、こういう状態であることを、他の国の方々に知られちゃまずいでしょ?
だから外交接待を伴う催し物の出席については、国王陛下の同伴ではないものにしてほしいと、宰相閣下筆頭にそういった手配をしている大臣たちにお願いした。
我儘言うなとか言わないで。
だってさぁ、国王陛下が第一王子である僕のことを無視するわ、話しかけてもちゃんと返事はしねーわ、こんなのラーヴェ王家の醜聞よ? こういうところは他所に見せちゃいかん所でしょう?
イジーが王太子になることは別に隠すことでもないけれど、できればよその国には、次期国王陛下になるのがイジーであることを立太子するまで内密にしたいのよ。
周辺諸国……、特に王妃様の故国から変な人たちを送り込まれて、国王となる前のイジーの周辺を固められたら、戴冠後になに仕出かされるかわかったもんじゃねーんだわ。
最悪、リスト王国からラーヴェ王国の簒奪始まっちゃうだろう?
その前にちゃんとラーヴェ王国の人間でイジーの周囲を固めて、バカどもが付け入るスキがないようにしておきたい。
何ならイジーが立太子と同時期に結婚してもらってもいいぐらいだ。
まぁこれは、あくまで王妃様と宰相閣下、それから国政の要職についている大臣たちがそうさせたいっていう予定だからね。
この予定通りに、全部きちっとうまくいくとは誰も思っていない。
ただ大体の流れとして、このように持っていきたいって話なのだ。
あと、イジーの気持ちの問題もあるからね。
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