第54話 久しぶりに会えたのに
ベーム先輩の相談だか何だかをされてから、あっという間に日々は過ぎ、二年目の学園祭の時期がやってきた。
一年の時の僕らの展示物は結構好評だったので、今年は他の学年やクラスでもマネして展示物系が多いらしい。
その代わり講堂利用クラスが少なくって困っているという話が、シュタム会からあがっているようだ。
それで、じゃぁ今回は講堂で、何か出し物をしようかと言う話になった。そしてどうせなら、劇や演奏会とは違うものにしないか?と言う話になった。
しかし、なかなかいい案が出てこなかったので、武舞の披露はどうかと提案してみた。
僕はたびたびヴィント神の神殿に呼ばれて、奉納演武をしているし、それをみんなに教えるのはやぶさかではない。
しかしだ、宗教問題に発展しそうだとも思ったので、ウイス教徒の生徒や、シュッツ神道の加護持ちの人がいないか一応の確認はとらせてもらった。
僕らのクラスの生徒には、ウイス教徒の生徒はおらず、そしてシュッツ神道の加護持ちは、僕とヒルトだけだったので、演武をするのに反対意見が出てこなかった。
もしかして僕に気を使ってるなら、そういうのはなしにしてちゃんと言ってと告げたのだけど、みんなからそれはないと言われたので、とりあえず演武を有力候補にいれた。
候補なのは、演武は神事に関わるものだから、専門家の意見を聞かねばならないと思ったからだ。
学園都市内にある神殿を訊ね、学園祭でヴィント神の奉納演武を披露してもいいか。ついでにシュヴェル神の加護持ちの人が、ヴィント神の奉納演武をしても大丈夫なのかと、確認と許可を貰いに行ったのである。
そうしたら、演武は是非見せてほしいと食い気味に許可を貰えて、加護持ちが他の神の奉納演武を舞っても、それで怒る神はいない。もし気にするのなら二部構成にして、二つの演武を披露してはどうかと提案された。
なんなら演武指導の協力しますよと、神官さんたちの反応が滅茶苦茶よくって、素人演武だから、ちゃんとした人たちから見たら、ところどころ省略されていたり、つたない感じになるかもしれないけれど、と言ったのだけど、気持ちがこもっているのなら、つたなくても省略されていても問題ないと言われたのだ。
クラスのみんなもやる気だったので、二年の学園祭は、講堂での二部構成の奉納演武に決まった。
ついでに、イジーとテオたちのクラスは、七不思議にまつわる展示。ヘッダとオティーリエのクラスは講堂で合唱の披露をするそうだ。
準備期間は、演武の練習の他に、演武に使う神楽鈴もどきを自分たちで自作したり、おそろいの衣装(といっても、制服の上に羽織る簡易な物)を用意したり、忙しい準備期間はあっという間に過ぎて、三日間の学園祭の日がやってきた。
僕らのクラスは初日の午後一で、当然のように今年もおじい様とおばあ様がクレフティゲ老と一緒に見に来てくれた。
「すごかったわ、アルベルト。まるで、ヴィント神が降臨したかのような迫力でした。リーゼに見せてあげれなかったのが残念だわ」
演武が終わった後、僕に会いに来てくれたおばあ様が手放しで褒めてくださった。
「フルフトバールに戻ったらいつでもお見せしますよ」
「そうね。そうよね。貴方がフルフトバールに戻ってきたら、いつでも見れるわね」
「アルベルトの当主就任の時に、演武を披露するのも良いかもしれんな」
「まぁ! なんて素敵でしょう!」
おじい様の言葉におばあ様が少女のようにはしゃいだ声を出す。
「母上はお元気ですか? 僕の弟か妹ができる兆しは?」
僕の問いかけに、お二人とも苦笑いを浮かべる。
さすがにあからさますぎたかと思っていたんだけど、二人の様子は何か……。
「母上になにかあったんですか?」
「いや、リーゼはいたって健康だ」
おじい様は僕の懸念を否定するけれど、じゃぁ、さっきのあの間はいったいなんだ?
「アルベルト、本当よ。本当にリーゼは大丈夫」
おばあ様は大丈夫だとそういうけれど、でも何か僕の中でざわざわしてる。これは悪い感じの胸騒ぎだ。
「ヘンリエッタ。アルベルトにはまだ」
おじい様がおばあ様を止めようとするけれど、おばあ様は首を振った。
「いいえ、ダメよ。ギル。わたくしたちがアルベルトに会えるのは、今のところこの学園祭のみだわ。こういったことを先延ばしにすればするほど、アルベルトが傷つくことになります」
「だが……」
「男の人はこういうことに弱いのだもの。困ったこと。アルベルト。少しおばあ様たちのお話に付き合ってちょうだいな」
クラスのみんなに断わりを入れてから、僕はおじい様とおばあ様と一緒に、講堂の近くにあるカフェテリアで話を聞くことにした。
「結論から先に伝えます。リーゼはこの先、貴方の弟妹を産むことができません」
はっきりとそう告げるおばあ様に、僕は傍にいたおじい様を見る。
「毒……。毒の飲食には気を付けていたはずです! だってそばにヘンゼルがいた! ガーベルだって」
「そうじゃないのよ。アルベルト」
僕の言葉を遮って、おばあ様は続ける。
「薬もまた毒になるということなの」
おばあ様が言った薬は……、いわゆる避妊薬、に該当するものらしい。
もちろん母上がそれを自ら進んで飲んでいたわけではない。
なぜなら、母上は僕の他にもう一人、国王陛下と子供を作らなければいけなかったのだ。それが、母上を側妃として召し上げる条件だったからだ。
本来はその子供が、おじい様の跡継ぎになるはずだったのに、母上に二人目の子供はできなかった。
単に、国王陛下のお渡りがなかったというのもあるだろうけれど、それ以外にも、母上は側妃宮にいる間、知らずに避妊薬を飲用していたらしい。
「子供が全くできないというわけではないのよ? あの薬を使っていても、子供ができた方はいらっしゃるわ。ただね、飲用期間が長ければ長いほど、できにくくなるの。リーゼの身体は赤子が育つかどうかわからないのよ」
つまり、育たず流れやすい状態の身体になる。
おそらく母上は、もう二度と、子供が産めない。
僕は、母上から生まれる可愛い弟妹とは、会うことができないのだと、知った。
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