第48話 親の友情の為の婚約
ベーム先輩の話は、以前ルイーザ先輩に聞いた話と大して変わらない内容だった。
大筋で言えば、父親が友人同士で小さい頃に顔合わせして、意気投合した。二人は学園に来るまでは仲が良く、それを見てお互いの両親が相性もよさそうだし婚約をしてはと言う話になって、二人の婚約が決まった。
王都から離れた場所の領地で過ごしていたから、同年代の遊び相手はお互いしかいなかったものの、学園にやってきたら、同じ歳の同性の友人が出来てそっちでの付き合いのほうが楽しくなっていった。
ベーム先輩の周囲には、幼少から婚約者がいる同世代が少なく、すでにルイーザ先輩と婚約していることを仲良くなった友人たちに物珍しがられ、ちょくちょくそのことで揶揄われるようになったそうだ。最初はあまり気にしていなかったけど、徐々にそういった揶揄いが煩わしくなり、ルイーザ先輩と距離を置くようになる。
そうこうしているうちに上学部への進学が近くなり、そこでまたしても友人たちに、ベーム先輩は婿入り先が決まっているから進学も悩まなくていいよなと言われ、本来なら文官科を選ぶところを、躍起になって騎士科へと進学した。
騎士科に進学したら、途端に女子からの受けが良くなり、モテるようになって、淑女科の女生徒からアプローチされるようになったと。
ルイーザ先輩から聞いた話をベーム先輩主観で聞かされたわけだが、いちいち言い訳がましいというか、ベーム先輩の思考の稚拙さが浮き彫りになる注釈が入るのでうんざりした。
まず、同級生からの揶揄いの原因が婚約していることだと思うと、ルイーザ先輩に対して、『ルイーザと婚約しているから揶揄われる』という、理不尽な八つ当たりのような感情をいだくとか、進路にいたっても、子爵家当主となるルイーザ先輩に対しての劣等感や、自分を必要とされていない疎外感で、騎士科を選んでしまったとか、浮気についても、何事も自分で考えて決めていくルイーザ先輩と違い、甘えて頼ってくれることが新鮮で、そういった可愛げがないルイーザ先輩に焼きもちを焼いてほしかっただとか。
結局のところ自分の都合のいい言い訳をして、『僕、悪くないよね?』と言いたいのが見え見えだった。
一緒に聞いていたネーベルも、ベーム先輩に向ける眼差しは軽蔑を含んだもので、それを隠す気も全くなく、それどころか本人に聞こえないくらいの小声で、「頭、大丈夫かよ」と漏らしていたのだから相当だ。
何かを期待されるのも嫌だったので、話を全部聞いた後、僕はベーム先輩に告げた。
「ベーム先輩のお話は、まったく共感できません」
僕のその言葉に、ベーム先輩はなんでと言わんばかりの顔をする。
「そもそも、ベーム先輩たちの婚約は親同士の都合の話で、政略ではないんですよね? 揶揄われるのが嫌なら、その旨、ご両親に話せばよかったじゃないですか」
「いや、でも、この婚約は父上たちが乗り気で……」
こんの、ヘタレ野郎が。
「結婚するのは誰なんですか?」
「え?」
「え? じゃなくって、結婚するのはベーム先輩じゃなく、親御さんなんですか?」
「い、いや、それは……」
「それは、で言葉を区切らない。最後まで言ってください。誰なんですか?」
「俺が結婚、する」
「そう結婚するのはベーム先輩自身です。そしてルイーザ先輩との婚約と結婚は親御さんの希望であって、政略ではないのだから強制力はないんです。嫌ならすぐに解消できるものなんですよ。なんでご両親に打ち明けなかったんですか」
黙ってしまうベーム先輩に、卑怯だなぁと思う。
自分の中ではちゃんとわかっていることなのに、言葉に出さない卑怯さだ。
「打ち明けなかったのは、ベーム先輩はルイーザ先輩をキープしておきたかったからですよね? キープと言うか、結婚相手として申し分ない」
ベーム先輩が頑なに口に出さないことを僕が言葉にした途端、動揺を見せる。
ほら見ろ、やっぱりそうなんじゃないか。
「だってベーム先輩、今は伯爵家の子息ですが、跡取りではないので、成人したら貴族ではなくなりますよね? 爵位をいくつも持っていらっしゃるお家でもないようですし、ベーム先輩が成人しても貴族でいる方法は、爵位を持っている方との婚姻しかありえない。ご両親、特にお父上に、小さい頃から言われていたんでしょう? ベーム先輩は次男だから爵位は継げない。貴族でいるには、爵位を持つ相手と結婚するしかない。ルイーザ先輩は子爵家の跡取りなので、結婚すれば貴族でいられる。ルイーザ先輩と結婚しないなら、自力でどうにかするしかないって」
ただねー、ベーム先輩のお父上は護衛騎士団の団長だから、コネ? 伝手? そういう貴族のお嬢さんとの婚約の話は、他にあると思うんだよね。
もし、ベーム先輩がルイーザ先輩の婚約を拒否し、文官になって爵位を継ぐ兄君の手伝いをするだとか、武官として騎士団、もしくは軍部に入るだとか、そういう道を選んだとしたら、職場繋がりの伝手を使って貴族のお嬢さんとの婚約を持ってきたんじゃないかな?
護衛騎士団長が息子であるベーム先輩に、ルイーザ先輩と結婚するしか貴族でいられないと、選択肢が一つしかないようなことを言って、意識の誘導のようなことをしたのは、単に自分の友情を優先したに過ぎないんだよ。
ずるいよなぁ。
そうやってさぁ、自分たちの友情の継続のために子供を利用するのって。
っていうか子供使わなきゃ続かない友情なら、いつか破綻するんだからやめなよ。そんな壊れるものに子供を巻き込むなよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。