第47話 悪乗りする友人ほど信用できないものはない

 そもそもベーム先輩が言ってる『みんな』っていうのは、仲の良い友人で、なおかつ、浮気している人だけでしょう?

 具体的な数字で言えば、一人二人程度のはず。

 仲間や友人の間で、婚約者以外の相手がいるだとか、いい関係になってる人がいるだとか、そんな風に言っていても、実際にそんなことをしている人は、そんなにいないと思うよ?

 見栄張りだよ、見栄張り。あとその場のノリだとか、円滑な交友関係をするための軽口。ついでにそういった会話に乗らないと、つまらない人間だと思われて、仲間外れにされるかもしれないという配慮。

 全員が全員、浮気を推奨しているわけではないだろうし、実行に移していたりもしてないんだよね。

 その場限りの冗談だとか、話を盛り上げるために大げさに言ってるとか、そんな感じなんだよ。

 ベーム先輩が友人に婚約解消になりそうだと相談したとして、帰ってくる答えは『え? マジでやってたの?』か『あんなのあの場限りのノリに決まってるじゃん』か『冗談だよ冗談。本気でやるわけない』なんじゃないか?

 同じ穴の狢なら婚約者に謝れよと言うか、もしくは、そのまま婚約破棄すればいいじゃないかと煽るか。どれかだね。

 煽ってくる相手は友人なんかじゃなくって、ベーム先輩の足を引っ張りたい相手だろうから、友人のふりして落ち目になるのを高みの見物したいんだろう。

 ちょっと、確認してみようかな?

「よくわからないのですが、ベーム先輩のご友人には相談されたんですか?」

「友人たちには、相談できないんだ」

「なぜ? 『みんなやってる』ことなんですよね? ベーム先輩の友人もやっていらっしゃるんでしょう?」

 当然のごとく、ベーム先輩は僕の言葉にそうだと肯定できない。

 だって『みんな』じゃないんだもんね。

「違う。そうじゃなく、みんな、ではないんだ。仲間は冗談で言っていて、俺は……、俺はそれを冗談ではなく真に受けて、俺だけじゃなくみんなもそうなんだと思い込んでいた。いやそう思いたかったのかもしれない」

 ほらね、やっぱりそうだった。

「楽なほうに流された」

「どちらにしろ、ルイーザ先輩と一度お話しされたほうがいいのでは? ルイーザ先輩に失礼なことをしていたのなら、相手に許されなくても謝罪するのが筋と言うモノでしょう?」

「やはり、許してもらえないんだろうか?」

「逆にお聞きしますが、自分が同じことをされたら許せるんですか?」

 途端に、ベーム先輩は視線をさ迷わせる。

 もうその態度で自分がやったことが、婚約者の逆鱗に触れたやべーことだと理解してるんじゃないか。それでもって謝っても許してもらえないっていうのもわかってるんだろうね。

「じゃぁ、後は婚約者であるルイーザ先輩と話し合ってください」

「待ってくれ!」

 え~? なんなんだよ。なんで引き留めるんだよ。

「他に何かあるんですか?」

「あ……、リューゲン殿下はルイーザから何か話を聞いてるのだろうか?」

「相談らしきことはされました」

「何を相談してきたんだ?」

「僕は本人の許可がないのに、相談された内容を他の誰かに漏らすことはしません」

「俺はルイーザの婚約者だ」

「婚約者だからなんです? 貴方はルイーザ先輩ではない。そんなにも知りたいなら本人に直接聞いてくださいよ。もしくは本人に許可をもらってきてください」

 どっちもできないからこそ、こうやって僕から聞き出そうとしているんだよね。

 でも、その相談内容を知ってどうするのさ。

 結局はルイーザ先輩と話さなきゃいけないのに、なんで、こうやって他人を巻き込むんだよ。

「ベーム先輩、貴方は僕に何の話がしたいんですか?」

「なんのって」

「今までの話を聞いていると、ベーム先輩が婚約者であるルイーザ先輩を怒らせるようなことをして、関係悪化してしまったというお二人の状況の報告だけです。そんな話を僕にされてもどうしようもありません。ご自分の罪の告白をしたいのなら、神殿か教会の告解室でなさってください」

 僕は聖職者じゃねーんだわ。

 そもそもベーム先輩は懺悔したいんかい。

 そーじゃねーだろ? 自分がやった浮気に、同じ男ならわかってくれるよね? っていう共感を得たいだけなんだろう? それでもって僕が同意したら、王子殿下も男なら浮気はするって言ったという印籠を使いたいだけなんでしょ?

 知るか!

 心底どうでもいい。

「待ってくれ! 話す! 全部話すから!!」

 ルイーザ先輩からお悩み相談で、二人の関係が拗れてる原因のことは、すでに聞かされてるし、話してもらわなくてもいいんですが?

「ただ、その、女子には聞かせられない!」

 やっぱり浮気してること話す気かよ。

「では席を外します」

 しかしヒルトは動じることなく、そう言って立ち上がる。

「ヒルト。先に帰っちゃだめだよ」

 いくらヒルトが強くても、今は手ぶらだし、それに女の子なんだからね。この話し合いが終わったら、ちゃんと寮まで送らせておくれ。

「わかりました。ついでにこちらを」

 そう言って、スカートのポケットから何かを取り出すと、手の中で操作をしてから、テーブルの上に置く。

 林檎の形をした手のひらサイズの置物だった。

「アルベルト様たちの会話を周囲に聞かれないようにする魔導具です。周囲に気兼ねなくお話しください」

 そう言ってヒルトは僕らから離れていく。

 ここまでヒルトにさせておいて、くだらないこと言いだしたら許さんぞ。

 僕の無言の圧を感じたのか、ベーム先輩は顔色を悪くさせ小さくなる。

「それで、何を話していただけるんでしょうか?」

「ルイーザとすれ違った」

「すれ違った?」

 すれ違いなんて程度の話じゃねーだろうが。

「い、いや、き、嫌われた原因なのだが」

 最初からそう言えよ。

 全部話すとか言いながら、言葉を飾るな。

 貴族には見栄は必要。それは分かる。だけど、公的な場所ではなく、話を聞いてほしい、全部話すと言っておきながら、自分に非がないような言い方をするんじゃないよ。

 そんなことなら、それこそ仲良しなお友達に相談しろ。



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