第41話 いい考えだと思ったのにダメだしされた
「ディータ様を次の国王にさせる算段をしてるところ申し訳ありませんが、たぶん、それは無理ですよ」
やれやれと言った様子でクルトが口を挟んできた。
「なんで? だって天辺獲りたい人なんでしょう?」
「まぁそうなんですけど、ディータ様は天辺を獲りたいというよりも、エイドリアン様の上に行きたいって考えなので」
エイドリアンというのはテオの一番上の兄君の名前のようだ。
「国王になったら上に行くじゃん?」
「ディータ様がエイドリアン様に向ける感情って、もっと即物的なものなんですよ。簡単に言うと、エイドリアン様の悔しがる顔を見たい。それに尽きます」
身近な肉親が最大ライバルってやつなのかな?
そういう場合、兄弟格差があるんじゃないかと思うんだけど、テオは上の兄姉たちに、何らかの負の感情を持っているようには見えない。
何よりも、あのマティルデ様が自分の子供にそんなことするかぁ? あと自分の旦那がそんなことしてたら……、さっさと離婚、もしくは当主交代させてるはず。
「言っておくけど、ディータ兄の上昇志向はもとからだからな。あと、半分はエディ兄のせいでもあるし」
僕の考えを見透かしたのか、テオは面倒そうに、しぶしぶと言った様子で話し始めた。
「簡単に言うとディータ兄はブラコンを拗らせてんだよ」
「どういうこと?」
「それを説明するには、まずエディ兄のことを話さなきゃいけないんだけど、エディ兄はちょっとイジーと似てんだよ。感情が表情に出てこないのな。たぶん嬉しいとか楽しいとか感じてはいるんだけど、そういった感情が表に出てこないから、なにをやってもつまらなそうに見えるって誤解されてる」
「それが何か悪いの?」
「悪くねーよ? 周囲が勝手に誤解してるだけだから。つまりさ、父上の跡継ぎとしてやってることも、辛いだとか苦しいだとか、そういった苦悩する様子を見せずに、涼しい顔をして何でもこなしてるのを見てると、ディータ兄は面白くねーんだよ。これはエディ兄の傍にいる人たちも、似たような感じだと思う」
だから、周囲が勝手に誤解してるわけか。
本人はちゃんと苦労してるし行き詰っていたり、辛いと感じたりしているけれど、それが表情に出てこないから、何でも飄々とこなしているように見えて、そこに嫉妬されてるのか。
「それに拍車をかけているのが、エディ兄の弟妹に対しての気遣いのなさだよ。っていうか基本的に、弟妹に関心がねーんだな。『どうでもいい』ってわけじゃなくって、『あぁ、そうか』って感じ? そこも、ディータ兄には癪に障るところなんだよ。相手にもされてないのかって」
「う~ん、拗れてるねぇ」
「だろぉ? だからさぁディータ兄は、天辺獲りたいんじゃなく、エディ兄を負かしたい。自分が得ると思ってるものを奪って、悔しがる顔が見たいんだよ」
「ふ~ん? そうなんだぁ」
それなら、ディータ様に国王陛下やってもらうのは無理かぁ。なら。
「あっ! お前、今もっとやべーこと考えてるだろう?!」
「なんでそんなこと言うのさ」
「わかるんだよ! こういう話にアルがあっさり引き下がるときは、もっとやべーことを思いついた時だ」
「失礼なこと言うなぁ。ディータ様の動機を聞いたら、そんな性根じゃぁ国王陛下やらせるのは無理だってわかったから諦めるよ」
僕がそう言うもテオは疑いのまなざしを向けてくる。
酷いなぁもうちょっと信用してくれてもいいと思わない?
「でもさぁ」
「ほらぁ! 出たアルの『でもさぁ』。そのあととんでもねーこと言い出すのは分かってんだよ!」
「とんでもねーとか言わないで」
「じゃぁなんだよ」
「テオの上の兄君がメッケル辺境伯を後継することにこだわっていないなら、ディータ様にその立場を譲って」
そこまで言ったら、テオははっとした顔をする。
「止めろ! 言うな!」
「ラーヴェ王国の国王になる手もあるよね」
僕とテオの発言は、ほぼ重なっていた。
「言うなって言ったぁ!! 止めろって言っただろぉ! お前がそういうこと言うとなぁ、その通りになりそうで怖いんだよ!」
「アルベルト様って、ご自分が振り下ろした一撃が、どれほど強力なものか自覚していないでしょう?」
クルトまで酷いこと言い出した。
「テオもクルトも酷いよ。なんでそんな僕が悪いみたいなこと言うんだよ」
僕はただ、僕とイジーがざまぁされないために、最善を尽くそうとしているだけじゃないか。
「王家のゴタゴタにメッケル辺境を巻き込むなよ!」
「わかったよー。もー、言ってみただけなのにさぁ」
「その言ってみただけの内容が、タチ悪ぃんじゃねーか」
「なんでだよ。テオの上の兄君は、何が何でもメッケル辺境伯の後を継ぎたいって考えなの? 長子だから最初から敷かれているレールに乗っただけでしょ? もしメッケル辺境伯が、自分の跡継ぎをテオにするって言い出したとして、兄君は『ぜったいやだー。僕が当主だもん。辺境伯には僕がなる!』って言う? メッケル辺境伯が決めたことに、『あぁ、そうか』って譲っちゃうんじゃないの?」
「そ、そうかも……」
言葉に詰まるってことは、やっぱり、テオの上の兄君ってそういう人なんだ。
「そうかも、じゃないですよ。なに流されてるんですか。アルベルト様に丸め込まれてどうするんです?」
すかさずクルトに言われて、テオは僕を睨みつける。
「卑怯だぞ!」
「アルベルト様が卑怯なのではなく、テオ様が単純なんでしょう?」
そーだそーだ。テオの弱点は、そう言うところだぞ?
気を許した相手の言うことを素直に信用して、後で利用されたり騙されたりしたことに気が付く、冒険ファンタジー物のラノベ主人公のようなところがあるんだから気を付けなよね?
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