第38話 ヴォータン神殿の神事長のお言葉

 メッケル北方辺境領にあるヴォータンの主神殿にたどり着くと、そこにはテオとクルトがいた。


「ずるい!!」


 テオは僕らの顔を見て、開口一番にそう言った。

 なんだ、テオまでずるいずるい病、発症したのか?

「なんで俺に教えてくれねーんだよ!!」

 夏休暇に入ってすぐ、公務が終わったら避暑でメッケル領にあるヴォータンの主神殿に行くよ。暇だったらヴォータンの主神殿で会おうねって内容の手紙をテオに出していたのに、なんでそんなに怒るのさ。

「メッケル領に行くよって手紙出したでしょう?」

「そーじゃねーよ!!」

 じゃぁ、なんなんだよ。


「俺だってアルたちと一緒に旅行したかった! キャンプとかいうやつしたかった!!」


 ぷんぷんしているテオの後ろで、クルトが必死に笑いをこらえている。

「仲間外れにされたみたいで拗ねてるんですよ」

「テオの地元に行くよって言ってるのに?」

「行先はどこでもいいんですよ。仲の良いアルベルト様やイグナーツ様たちと、一緒に旅がしたかったんです」

 なんだよ~。テオってば僕らのこと好きすぎじゃない? 困った弟分だなぁ~。

「もー、テオは仕方がないんだからー」


「その呆れ口上やめろー!!」


 子犬のようにわんわんキャンキャン言ってるテオを他所に、出迎えてくれたヴォータン主神殿の神官に声を掛ける。

「手紙を出したアルベルト・マルコシアスです」

「お待ちしておりました」

 このヴォータン主神殿にもあらかじめ手紙を出していたので、神官は僕らの到着を快く迎え入れてくれる。

「どうぞ奥に、神事長が中でお待ちです」

 僕らのやり取りを黙って見ていた神官に、笑みを浮かべながら敷地内へと促され、一応ネーベルとクレフディゲ老に声を掛けてから、僕だけ中に入らせてもらう。


 中の来客室のような場所に通されると、司祭服に身を包んだ老齢の神事長がいた。

「お初にお目にかかります。リューゲン・アルベルト殿下」

「アルベルトでお願いします」

「心得ました。長旅、大変お疲れだったでしょう?」

「楽しかったですよ」

「それは良うございました。さぁどうぞお座りください」

 神事長にソファーを勧められて腰を下ろす。

「今回アルベルト殿下のご用件は、お持ちになっている武器に祝福でよろしかったか?」

「はい、魔獣狩りに使うものなので、神様の恩恵をいただきたいと思ってます」

 女神殺しができるようにしてーなーっていうのが本音なんだけど、いくら宗教違いでも言っちゃ駄目なことぐらいわかる。


 それに、シュッツ神道とウイス教の関係って、よくわかんないんだよなぁ。

 表立った確執はない。というかシュッツ神道はウイス教を全く相手にしていないのだ。

 信仰を広めようとウイス教の信者が勧誘していても、お好きにどうぞって感じ。

 シュッツ神道の神官たちが、ウイス教を相手にしないのは、元から多神教というのもあるけれど、自分たちが何かをするまでもなく、シュッツ神道の神々の怒りに触れる恐ろしさを知っているからだ。


 過去にウイス教の信者というか神官や関係者が、シュッツ神道に対して、邪教だとか悪神を信仰してるだとか、そんな悪評をラーヴェ王国や周辺諸国に流したことがあった。

 シュッツ神道からウイス教に改宗させようとしたんだろうね。

 だけど、ウイス教の総本山、ウイス教国の大聖堂に雷が落ち大火災が起きた。

 その雷は一度や二度ではなく、何度も落ち、そのうち総本山にいる聖女が女神ウイステリアの神託を受け、ウイス教からシュッツ神道の悪評を流したことを公表したことによって終息し、それ以来シュッツ神道とウイス教は不可侵となった。

 ウイス教はどうだか知らないけれど、シュッツ神道は神々の怒りを収めるためには、ウイス教には関わらないという選択をしたのだ。


 そういった経緯があるので、シュッツ神道の関係者に、ウイス教の女神の話をするのは禁句だと、暗黙の了解になっている。

 だから、僕の『夜明』と『宵闇』を女神殺しに使いたいので祝福くださいなんて言えやしない。


「フルフトバールにあるシュッツ神道の神殿は、ヒンメル神とエデル神の神殿です。フルフトバールで祀っている二柱は、天候災害が少なく農作物の実りが豊かなようにという意味合いなので、魔獣狩りに使用する武器に祝福を頂くのは不適切かと思いました」

 建前は大事。

 何でもかんでも素直に話せばいいもんでもないのだ。


「それならば、マルコシアス家はヴィント神の加護をお持ちなので、そちらでもよかったのでは?」

「ヴィント神は僕らマルコシアス一族に対しての加護です。武器への祝福はまた違うかと思います」

 神事長はうんうんと頷きながら僕の話を聞いてくれていたが、しかし困ったような顔をしながら話しだした。

「なるほど、そういうことでしたか。アルベルト様、でしたら武器への祝福は、全能神ヴォータンよりも、軍神・戦神ともいわれる剣神シュヴェルか、鍛冶神シュミートのほうがよろしいでしょう」

「え?! ここでは無理なんですか?」

「いいえ、無理というのではないのです。かける祝福の用途が違うのですよ」

 用途が違う? どういうこと?

「アルベルト様がお持ちになっている武器が、アルベルト様の家族や子孫、マルコシアス一族の繁栄を願うならば守護宝として、ヴォータン神の祝福は成すでしょう。しかしアルベルト様の武器は家宝にするのではなく、身を守るため、そして魔獣の被害を防ぐためにお使いになる。なれば得る祝福は、一族の繁栄ではなく、戦うことの祝福、強さの祝福になります」

 も、盲点だったー!!

 っていうか言われてみればその通り! 守りではなく攻めの付与なら、神事長の言うとおりだ。

 女神に対抗するなら、創生者のリーダーであろう全能神って考えてたんだけど、神殺しするなら、戦うことに特化している神様のほうが専門じゃないか。

 とほほ、なんでそんな初歩的なことに気が付かなかったんだよ~。

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