第37話 美味しい料理
ウサギは串をうって、ガーベル特製のタレと塩の二種の焼きにして、鳥はクリームシチューに。キノコはゲルプが近くにあった清流から沢蟹をとってきてくれたので、むかごと一緒にアヒージョ。
パンっていうかナン? それともチャパティっていうの? フライパンで焼けるパンのタネをあらかじめ仕込んでくれていたので、焚火で焼き上げてくれた。
まずはウサギの串焼きから。
表面がタレの焦げ目でパリッとして、中は肉汁がじゅわっと出てくる。うん、肉の臭みもなく、繊維はほろほろとして、脂は多すぎず少なすぎず。なんだろう食感的に鳥に似てる。そう焼き鳥。
ガーベルがちゃんと下処理してくれてるから、骨は全部抜かれて、食べやすい。
塩は素朴な味わい。っていうか塩のほうが肉の本来のうまみが出てる。
お次はクリームシチュー。
持ってきたジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、キノコも入ってる。野菜の甘みがシチューににじみ出て、美味しい。
ジャガイモはトロミつけの為に入れたそうなので形がほとんど残ってないけど、ニンジンはあの特有の青臭さはなく、玉ねぎはちゃんと火が通ってるのに、しゃきっと感が残ってる。
鳥はそのままじゃなくって肉団子にしてくれて、軟骨も入ってるのか、たまにコリッとした触感がいい。
夏だけど、北上しているし、日が落ちて気温が下がってるせいか、このシチューの温かさが身に染みる。
ナンっていうかチャパティっていうかパンもどきにつけて食べると、お腹のなかがほわ~ってなる。チーズも入ってるぞこのクリームシチュー。
イジーとリュディガーはこのクリームシチューが気に入ったのか、何度かおかわりしていた。
アヒージョはフェアヴァルターたち大人組に好評だった。
ニンニクの香りって、食欲もだけどお酒飲みたくなるんだろうなぁ。
オリーブオイルで煮込まれたニンニクは、中までしっかり火が通っていて、舌で押しつぶせるぐらい柔らかい。
アヒージョに入っているむかごは、先に焼き目を付けているせいか、煮崩れなく形が保たれていて口の中に入れると、むかごの熱さもあったけど、ジャガイモとは違うほっくほっく感。美味しい!
沢蟹の何とも言えない香ばしさ。キノコのシャクシャク食感。そしてニンニクの香りが付いたオリーブオイルがしみ込んだズッキーニの美味さよ! すべて完璧。
「鳥はともかく、ウサギはやっぱり熟成したほうが美味くなりますね」
ガーベルはお肉の熟成にこだわっていた。
でもとれたて捌きたてもおいしいよ? ちゃんと血抜きもされてたし。
「このアヒージョってやつ、酒のアテにしたいですね」
「酒がほしいな」
「この肉団子、ホロホロです」
クレフディゲ老とフェアヴァルター、そしてゲルプは舌鼓を打ちながら、ガーベルの料理を絶賛している。
イジーの護衛のトロイエも、最初は毒見なしでイジーが料理を口にすることに、顔をしかめていた。でも今は、ガーベルの料理を夢中になって口にしている。
トロイエがいい顔をしない割には、文句を言ってこなかったのは、たぶん王妃様に口出しするなと言い含められたに違いない。
王妃様は結構こういったことに関しては、おおらかなんだよね。
危険がって言ってくる侍従や護衛騎士たちに、王族である限り、何処にいたって危険は伴う。王宮に閉じこもって執政する王に、民の何がわかる? と、一喝して許可を出してくれたのだ。
まぁ許可を出してくれた一番の理由は、マルコシアス家のアッテンテータがいるとわかってるからなんだろうけどね。
「この串焼きのタレはなんだか不思議な味だな。あまじょっぱい」
「あぁ、それは若殿に教えてもらって、ヤーパネスから取り寄せた調味料で作ったものですよ」
クレフディゲ老の言葉に、ガーベルは嬉しそうに答えた。
そう、お醤油、みりん、酒、手に入ったんだよ~。
醤油もだけど、みりんと酒には興味津々で、特に酒、これにはめちゃくちゃ喜んでた。
あ、こっそりクレフディゲ老とフェアヴァルターに、温めたお酒が入ったコップを渡してる。
そしてお酒を一口飲んだクレフディゲ老とフェアヴァルターは、ぱぁぁぁっと目を輝かせる。
「「ガーベル!」」
「一杯だけですよ。若殿たちがいるのをお忘れなく」
「せ、せめてもう一杯」
「ダメです」
んー、ひっじょーに、キビシー!!
「これもヤーパネスから取り寄せたのか?」
「えぇ、コメ? とかいうもので作ったそうですよ。あと、イモで作るものもあるそうです」
焼酎ですね! わかります。
そうだ焼酎が手に入ったらなら、あれができるのではないか? 果実酒!!
果実酒と言えば、梅酒なんだけど。梅があれば、お酒につけなくても、梅シロップつくれる。
夏だから余計に梅シロップのジュース飲みたいよぉ。
梅の木、何処にあるんだろう? ここは妥協してプラムか? いやでもやっぱり梅だよ梅!
梅が見つかったら、梅酒、梅シロップだけじゃない、梅干しだって作れる!!
顔が、きゅってなるぐらいの、すっぱい梅干し食べたい! 炊き立てほかほかの湯気が立って、ピカピカ輝いてるご飯に載っけて食べたい!! おにぎりにしてもいいよぉ!!
ガーベルの料理をたらふく食べてるのにお腹すいてきた。
白米は悪魔だから仕方がない!
翌朝、ふんわり漂うニンニクの香りで目が覚めた。
テントから出ると、もうフェアヴァルターたちはすでに起きていて、皆も起こして近くの清流で顔を洗って戻ってきたら、ガーベルに呼ばれた。
「若殿」
僕が近づくと、ガーベルはにこにこしながら、昨日アヒージョを作った鍋のふたを開ける。
ふわっと立ち上るニンニクの香りとそれからチーズの香り。
その鍋にあったのは昨日のアヒージョの残りで作ったリゾットだった。
「コメ! 白米手に入れられたの?!」
「手に入ったのはゲンマイという奴です。若殿がゲンマイだったらセイマイしないとって仰っていたでしょう?」
精米機がないから、玄米から精米にする方法は、瓶に入れてコメが白くなるまでひたすら木の棒でつくんだけど、やってくれたんだぁ。
大変だったろうに。
当然のごとく、アヒージョリゾットはみんなに大好評だった。
また食べたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。