第33話 魔道具の開発難しい

 ブルーメ姉妹との接触から数週間たった。


 夏の予定は僕のほうでやっておくことにして、イジーは引き続き、テオと一緒に七不思議探索中だ。

 彷徨うデュラハンの調査はもう終わってるし、することがなくなった僕は、学園都市に来る前から、こつこつと研究していたインカム作成をネーベルと一緒にしている。

 何度もトライアル&エラーの繰り返しで、行き詰ってしまって、そこからしばらくの間、ネーベルにインカムの研究は中止だと取り上げられていたのだ。


 でも夏にみんなで馬に乗って遠出するし、これを完成させて、夏の旅行の時に使いたい。


 放課後、図書館で魔石の本を読んだり、魔術の教師に魔石のことでいろいろ質問したりしているものの、まったくいい案が浮かばない。

 行き詰まった僕をネーベルが気分を変えに行くぞと、外に連れ出してくれた。


 下学部近くにある広場の芝生に座って、途中で購入したバゲットサンドを頬張る。

 んー、レタスと玉ねぎがしゃきっとして、スモークしたエビとハムがいい塩梅。ローストビーフのも買えばよかった。


「ピアスの魔石にスピーカー機能、首輪やチョーカーの魔石にマイク機能。ここまではいいんだよ」

 問題は、魔石に入ってる魔力がすぐ切れてしまうということ。

 体感で十分しか持たない。魔力が切れないようにオンオフ機能を付けるのもありだけど、それじゃぁ何のための通話機能なんだって話になる。

 一日一回、魔力を魔石に注入するとしても、できれば二十時間は魔力をもたせるようにしたい。


 次の問題は通話距離。

 見通しのいい場所でなら、一キロ範囲、障害物があるなら、200メートルは離れていても使えるようにしたい。

 けど、これがねー、上手くいかないんだよなー。

 ノイズキャンセルはうまくいったんだけど、魔石に入ってる魔力の持続と、通話距離がどうしてもうまくいかない。

 何が悪いんだろう。


「魔力がたくさん入る魔石にするっていうのは、無しなんだろう?」

「そもそも魔石っていうのはさ、大きければ大きいほど、魔力がたくさん入るからなぁ。インチキな話になるんだけどさ、このインカムは、フルフトバールの魔獣狩りなら、まぁ使えるんだと思うんだよね。通話距離の問題は残るんだけど」

「え? 十分しか持たないのにか?」

「……魔力巡り」

「あっ!」

 ネーベルが小さく声を上げる。

 フルフトバールの魔獣狩りは、みんな魔力巡りができる。

 狩りに使っている武器に魔力を乗せるように、身に着けているピアスとチョーカーに魔力を乗せれば、使えるには使えると思うんだけど……、魔石の魔力は消費されていく。

 魔力が少ない者には使えない。

「やっぱり魔術回路を見直すかぁ」

 回路が書かれている紙を見ながら、僕もネーベルも頭をひねる。

 魔術師が見れば、きっと一発で僕らがひいたこの回路の欠点がわかるんだろうけど、できるだけ自分たちで完成させたい。


「アルベルト様?」

 名前を呼ばれて、声をしたほうを見たら、ヒルトとイヴがいた。

 え? どういう組み合わせ?

「こんなところで……。御食事するなら椅子があるところでしてください。ネーベルも一緒にいるなら気を付けろ。ガゼボに移動しますよ」

 ありゃ、怒られた。

 持っていたカバンや、バゲットサンドが入った包みをもって、空いてるガゼボへと移動させられてしまった。

「飲み物買ってきます。何がいいですか?」

「んー、柑橘系の飲み物なら何でもいいよ」

「わかりました。イヴは何がいい?」

「え? いいわよ。一緒に……」

「俺が行く」

 ネーベルがそう言って、ヒルトと一緒に出店のほうへと言ってしまった。


「わ、悪いことしちゃったわ……」

 二人の背中を見送りながら、イヴがぽつりとつぶやく。

「遠慮しないでいいよ」

「でも……」

「あの二人、婚約してるから大丈夫」

「……えっ? ヒルト様、ネーベル様と婚約してるの?!」

「うん、してるの。たまには二人の時間も作ってあげないとなぁ」

 最近ヒルトは女子との付き合いに力を入れて、ネーベルとはあんまり一緒にいないんだよね。

 ネーベルもいつも僕に付き合ってくれてるし。

「紅蓮の王子様に婚約者がいたなんて知らなかった」

 紅蓮の王子様って、もしかしなくてもヒルトのことだよね?

 そっかー、ヒルト、女子からそう呼ばれてるのかぁ。

 んー、確かに、ヒルトは男装してもビジュアル良いし、女子へのエスコート完璧だし、理想の王子かも。

「イヴはヒルトといつの間に仲良くなったの?」

「この間、アルベルト様たちと知り合ってからよ。第二女子寮まで送ってくれた時にね」

 なるほどねー。

 まぁ、ほらヒルトは、あのくせだらけのヘッダと付き合えるから、イヴの苛烈なところもうまくやっていけるんだろうな。

 

「あれからブルーメ嬢と話はした?」

 僕の質問にイヴは眉間に皺を寄せる。

 そんなに嫌なんかい。

「アンジェリカの存在にイライラするのよ」

 んー、これは女神の介入なのか、それとも単純に相性が悪いのか、判断が付かないな。

「それは、ずっと下向いて黙って、返事は『はい』『わかりました』しか言わなくて、こっちの話を聞いてんのか? って気持ちになるから?」

「それもあるんだけど、もっと簡単な話なの」

「簡単?」

「まず伯爵令嬢という立場ね。それから金銭で不自由していない。あと、平民ではとてもじゃないけど受けれない教育もされている。何もかも恵まれているじゃない? まぁ同時にそれだけの責務があるんだろうけれど」

 父親に引き取られるまで、イヴは平民としての世間知は身に付けていても、根本的な『学習』と言うものは、神殿での手習い程度しか知らなかった。

「私、平民だけど、字が読めたり計算ができるのは、大事なことだと思っているのよ」

 読み書きは平民でも必要だ。

 必要というか、詐欺にあったり、その詐欺の片棒を担がされないための、自分の身を守るという武器になる。

「それから勉強ができれば、就職先が幅広くなるのもわかってる」

 この世界、学歴はある程度の目安になる。

 平民でも学歴があれば町役場へ勤めたりできるはずだ。

「マナーも大事よね。ヘレーネ様に会うためにお茶会のマナー頑張ったわ。マナーは、この先、貴族に接するような職場なら、ちゃんと覚えていたほうがいい」

 先を見据えてるなぁ。

「アンジェリカは、生まれながらそういった物を手に入れる恩恵を受けているのよ。ムカつくわ。父親に引き取られなかったら一生触れることができなかった私とは大違い。だから嫉妬。何でも手に入れることができる環境にいることへの嫉妬。周囲に大事にされている嫉妬」

 嫉妬……、嫉妬かぁ。

 僕は国王陛下に贔屓にされていたイジーに、嫉妬はなかった。

 あったのは、今と同じく、すべてをイジーに押し付ける罪悪感だけだった。

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