第34話 確かにヒロインは愛されるお姫様
僕はイジーに対しての嫉妬はなかったけれど、イジーはどうだったのだろう?
いろんなことをイジーに押し付けて、僕は一人で自由になることに、それこそ『ズルい』って言われても仕方がないことだと思ってる。
「イヴの言葉は、僕の心にもダメージを与える」
「え?! やだ、ごめんなさい。失礼なこと言っちゃった?」
「ううん。そうじゃなくって、僕も兄の立場なのに、イジーに全部押し付けちゃってるから」
僕がそう言うと、何を言ってるんだって顔をされてしまう。
「アルベルト様たちは仲が良いじゃない。私たちとは違うわ」
「う~ん、まぁそこは歩み寄り?」
「それができるならいいじゃないの。私とアンジェリカはそれ以前の話よ」
歩み寄りができないのか。
でもなぁ、イヴはブルーメ嬢に嫉妬してると言ったけれど、それは恵まれた境遇に対しての嫉妬なんだよね。
何でも持っているブルーメ嬢が憎いだとか、ブルーメ嬢が持っているものを全部奪ってやるとか、そんな感情や思惑からくる嫉妬ではないのだ。
「アルベルト様から見て、アンジェリカって貴族のご当主、できると思う?」
また答えにくいことを訊いてくるなぁ。
「難しい質問だね」
「どの辺が?」
「まず僕は、それを判断できるほど、ブルーメ嬢のこと知らない」
「この間のあれを見ても?」
「あれだけで、判断できないよ? ただ……、なんか思い込みは激しいよね」
もっとも、ブルーメ嬢のあれは、実際のところ女神の干渉だったんだろうけど。
だけど女神の声を聴いたというのが、今までのパターンと違うから、そこは引っかかる。そんな直に干渉してくんのか? って感じ。
それから、そのことをウイス教の関係者に知られたら、聖女扱いされそうだ。
「貴族の何たるかもわからない平民が、分かったこと言うなって思われちゃうだろうけど、アンジェリカは、貴族のご当主どころか、そういうご当主を支える奥方の役目さえもできないと思う。あの子、本当に箱入りお嬢様だわ。当主の勉強していたのかって疑うほど、当主としてできてない」
イヴの言うとおり、前ブルーメ女伯が亡くなった後、ブルーメ嬢が代理である父親と継母を抑え込めなかったのは、ブルーメ家の後継者として、そして次期ブルーメ伯爵として、足りてないなと思う。
八歳児に何ができるかという話になるんだけど、でも、後継者として教育を受けていたなら、屋敷の使用人の掌握は必須だろう。
屋敷の使用人たちが、ブルーメ嬢こそが真の当主だと思っていたならば、幼くとも当主として扱っただろうし、伯爵代理でしかない父親につくこともなかったんじゃないかな?
まずそこが一番重要なんだよ。
領主としての采配、後継者としての家政、それらは、できなくても仕方がないと思う。
だけど、当主である母親に仕えていた使用人を自分の下に付くように、そういった動きができなかったことが、ブルーメ嬢の失態なのだ。
「アンジェリカって……、物語のお姫様みたいじゃない?」
ちょっとドキッとしてしまった。
「お姫様?」
「ホンモノのお姫様じゃなく、物語のお姫様よ。実際の高貴なお姫様はいろんなことができなきゃ駄目じゃない? 貴族の奥方だって、ただお茶会に出てるわけじゃないんだし、することたくさんあるでしょう? ヘレーネ様やオティーリエ様を見てると余計にそう思うわ。でも、アンジェリカは違うのよ」
「どう違うの?」
「物語に出てくる英雄や王子様に愛されるだけのお姫様みたい」
鋭い! うわ~、イヴってばめちゃくちゃ勘がいい!!
「物語のお姫様って、周囲に傅かれて大事に大事にしまわれて、権力者の若い王様とか王子様とか、そんな人たちに可愛がられて愛されるだけの存在じゃない?」
「うん」
そういうお姫様の役割は、厳しい政務を行ってる若くてイケメンの王様や王子様に癒しを与えるという『お仕事』があるわけなんだけどね? メンタルケアー要員?
僕もイジーもそんなもので癒しは得られんけどな。
国王陛下は……、王妃様に膝枕とかイチャイチャしてもらえれば癒されるかも?
「アンジェリカってそんな感じ」
イヴを見ると、つまらなそうな顔をしていた。
「こんなことばっかり言うから、アンジェリカのこと僻んでるって言われちゃうのよね」
「イヴが僻んでるっていう人はさぁ、誰かを貶めないと気が済まない人なんだよ。もしくはマウント取りだね」
「マウントって、なんのことだ?」
ヒルトと一緒に戻ってきたネーベルの両手にはタンブラー型の木製コップが収まっている。その片方を差し出されて受け取る。
「イヴがブルーメ嬢に対して僻んでるっていう人の思考? 思惑?」
「イヴもどうぞ」
ヒルトから差し出されたコップを受け取りながら、イヴはお礼を言う。
「ありがとう」
「それで、誰がイヴにマウント取りなんかしてるんですか?」
ヒルトに訊ねられて、答えに窮してしまう。
「誰っていうか……、イヴの立場を羨んでる人」
「羨む? なんでですか?」
「んー、はたから見たら、イヴはラッキーガールだ」
「ラッキー? アンラッキーの間違いじゃない?」
突っ込みを入れるイヴに、僕は苦笑いを浮かべる。
「それはイヴから見た話。他の……、特にイヴと同じ立場であった平民の子から見たら、イヴは充分ラッキーガールだよ。だって自分たちと同じ場所にいたのに、イヴの実父はお貴族様で、イヴたち母娘を迎えに来て、今は貴族の仲間入りだ。羨ましいって思っちゃうよね?」
僕の言葉にイヴはやっぱり嫌そうな顔をして、ネーベルとヒルトは反応に困った様子だった。
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