第30話 異母弟とお喋りタイム
イヴの言葉にブルーメ嬢はショックを受けてしまった。
「まさか、その自覚がなかったわけ?」
なかったんだろうね。
でもこれは、ブルーメ嬢だけが悪いのではなく、イヴが最初に言ったように侍女の職務怠慢でもあると思うよ?
ご主人様の心に寄り添うのは、有りだけど、だからと言って何でもかんでもご主人様の言うとおりにするのは、臣下としての責任を放棄してるのと同じだ。
ブルーメ嬢に言われたから、身なりを整えなかったって言うのは、逆を言えば身なりを整える重要性をご主人様に理解させることができなかったということでもある。
侍女が自分の説得ではどうにもできないと思ったなら、上の責任者である使用人の統括、例えば家令や侍女長に伝えるだとか、指示を仰ぐとか、そうするべきだったんだよなぁ。
もしそれさえも、ブルーメ嬢に止められていたと言うなら、まぁ……、それもブルーメ嬢の責任であると思うんだけど、でも、お仕えするお嬢様であり、次期当主で伯爵になるブルーメ嬢の身なりに対して、誰も何も言わんのもおかしいだろう?
家令や侍女長は、何をしてるんだとお付きの侍女を叱責してるはずだ。
だから、このブルーメ嬢の身なりに対して、ブルーメ嬢は自分が周囲からどう見られているのか理解せず、ついでに自分の侍女の評価を下げている自覚もなかった。
侍女はブルーメ嬢への情を持ち過ぎて、言いなりになったと言うところじゃないかな?
なんか……、昔、王妃様の故国から連れてきた、あのお付きの侍女を連想しちゃうよね?
ご主人様に心酔しすぎて、周囲が見えなくなりそう。
そのうちあんなふうにお仕えするご主人様の為だからって、頼まれてもいないことをしそうな感じがするよ。
「アンジェリカ、悪いけど今回のことはお父様に報告させてもらいます」
「ま、待ってっ。お願いよ、アンリは悪くないのよ。私が」
「そう、貴女が悪い。貴方のせいで、アンリは貴女の傍から外されるわ。自覚しなさい」
「あ……、あぁ……、ご、ごめんなさい……。わたし……」
泣き出してしまったブルーメ嬢をよそに、ヘレーネ嬢は僕とイジーにカーテシーをする。
「申し訳ありません。アンジェリカはこちらで引き取らせていただきます」
「アンジェリカ様、寮に戻りましょう」
ヒルトがブルーメ嬢にハンカチを差し出し、手を差し伸べて立ち上がらせると、そのままヘレーネ嬢へと引き渡す。
ヘレーネ嬢は泣きじゃくるブルーメ嬢を支えながら部屋を出ていく。
「イヴ様もご一緒に」
「私、平民だから様って付けないで」
「では、私のこともヒルトとお呼びください」
ブルーメ嬢に引き続きイヴにも手を差し伸べるヒルトに、イヴも毒気が抜けたのか、素直に言うとおりに手を取って立ち上がる。
「アルベルト様、お先に失礼します」
ヒルトは僕らに声を掛け、イヴを促す。
「……助けてくれたのに、変なことを聞かせてごめんなさい。あと、匿ってくれてありがとう」
再度、イヴは僕らに匿ったことに対しての礼を言って、ヒルトと一緒に部屋をでていった。
「……疲れたねぇ」
だらしないと思うけど、テーブルに突っ伏してしまう。
ネーベルとリュディガーももう一度席に着くと、シルトとランツェが新しいお茶を入れ替えてくれて、僕らの前におく。
「テオとクルトはどうした?」
「先に寮に戻るって」
やっぱり逃げたのかぁ。
テオはあぁいう危機回避能力高いからなぁ。
「そう言えば、イジー。ブルーメ嬢に何か言い掛けてたけど、何か言いたいことあったの?」
「あの恰好はわざとしているのかと聞こうと思ったんです」
なるほどね。
「リュディガーがね、イジーがブルーメ嬢のこと気にしてるみたいなんだけど、どうしたらいいですかって、前に相談されたんだ」
「え? そんなことがあったんですか?」
イジーは驚いて傍に座るリュディガーを見る。
「だ、だって、イグナーツ様。ブルーメさんのことガン見してるから、てっきり……」
ごにょごにょと最後の言葉を濁すリュディガーに、イジーは深く息をついた。
「心配させてごめん」
「俺も……、イグナーツ様に直接言えなくって……」
「気になるなら言ってほしい。ちゃんと答える。俺がバカなことをしてると思ったなら、それを止めるのはリュディガーだ」
「はい、そうします」
二人の間で、話がまとまったところで、僕の話の続きをさせてもらう。
「とりあえず、その時は、しばらく様子見しようって言ったんだけどね。そのあと、なんだっけ、ほらフィッシャーのことがあったじゃない?」
「学園祭の練習の時の?」
「そう、それ。その時イジーは、ブルーメ嬢は対人がうまくできないんじゃないかって言ってくれたでしょう?」
「はい」
「イジーがブルーメ嬢を気にしてたのは、同じクラスで浮いてたからってわかったから、ちょっと安心したんだよね」
信用してなかったとか、そう言うんじゃなく、女神の介入がイジーに起きるんじゃないかって言う不安があったのだ。
「クラス内のブルーメ嬢は、周囲になじめなくって、手を貸そうとしているクラスメイトにも反応がなく、兄上が言ったように、心の病気なのかと思ったんです。そういう子は学園に通えるものなのかと疑問でした」
「病気の場合は、学園に入るのも免除されることがあるからねぇ」
でもそういう人は、大抵、貴族社会に出てくることもなく、領地の屋敷の奥に閉じ込められて一生終わるとおもう。
実際のところ、ブルーメ嬢のあれはフリで、心の病気ではなかった。
人見知りなのは、本当かもしれないけれど、カウンセリングが必要になるほどの重篤なものではない。
このあと、ブルーメ嬢がどうするかはわからないけれど、ヒルトを通してオティーリエとヘレーネ嬢に、ブルーメ嬢のことを気にかけてもらうように伝えてもらおう。
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