第36話 楽しい学園祭

 あっという間に準備期間は過ぎて、今日から三日間の学園祭が始まる。

 学園祭は学園都市全体でお祭りになるけど、メインはあくまで王立学園に通う生徒たちが、自分たちの手で行うお祭りだ。

 そして、朝から晩までお祭りをしているというわけではない。

 学園祭自体は十時からはじまり十五時に終わる。生徒たちは開始一時間前に学園にきて準備するのだ。

 そしてこの期間は、王都や領地から生徒の保護者たちが、学園祭を見にやってくる日でもある。


 そう、王妃様だけではなく国王陛下もやってくるんだよなぁ。


 いやぁ~、しばらく接触しないっていうか、完全に没交流状態だったから、すっかり存在してたこと忘れてたわ。

 でもまぁ、そりゃぁ来るよね? だってほら、イジーのパパなんだし、可愛い息子の晴れ舞台を見に来るだろうよ。もっとも今回イジーは裏方なんだけど。

 そんなわけで、うちの母上とクリーガー父様には、国王陛下が来るからご遠慮いただいた。めちゃくちゃ残念そうにされてしまったけど、万が一バッティングしたら、本人はともかく周囲が修羅場になる。


 母上はもう完全に吹っ切ってるし、今はクリーガー父様とイチャイチャラブラブしてるから、国王陛下と会ったところでどうとも思わないだろうけど、国王陛下はどうだかわからないでしょう? なんせなかなか離縁に同意しなかったわけだから。

 王妃様と母上は、現在文通をしあってるペンフレンドという間柄になっているので、会っても問題ないんだろうけど、その二人が仲良くしている姿を見たら、あの人が斜め上の思考で愉快なことを言い出しそうな気がするからねぇ。

 もちろんそんなことになるとは言い切れないけど、こういうことは本当にわからないから、未然にふせぐ対策は必須なわけだよ。


 とはいっても国王夫妻が来るのは、イジーのクラスの劇をやる日だから、調整つければなんとかできるかなー? とは思ったんだけどね。

 どのみち学園都市には外部からやってきた来客の宿泊施設がないから、母上が来るとしたら、やっぱり王都のタウンハウスで宿泊することになるし、王都に入れば一度は社交の場に呼ばれるだろうし、それはもう嫌なんだってさ。

 だから、母上とクリーガー父様は引き続き領地にいてもらって、学園祭に来るのはおじい様とおばあ様だ。


 うちのクラスは展示だから、受付と展示品の見張りのために、数名の生徒が教室に残ることになっている。

 教室に残る生徒は一時間交代のローテーションを組んでいるので、うちのクラスは講堂での劇や音楽演奏をするクラスに比べれば、楽なほうだ。

 僕はクラスのみんなにお願いして、イジーのクラスが劇をする時間だけは外してもらった。イジーのクラスの劇と、あとはヘッダとオティーリエの展示物さえ見れれば、別にずっと受付やっててもいいしね。あ、お昼休憩だけは取らせてもらいたいけど。


 それにしても外部から人が入るとやっぱり賑やか。そしてなんだろう、ちょっと不思議な感じがする。

 すれ違う生徒も浮き立って、すっかりなじんだ学舎内なのに、異世界に紛れ込んだみたい。いや、僕の前世から見れば、この世界は異世界だけど。

 そう言うんじゃなくって……何っていうか、そう、非日常的なのだ。


 教室前の受付で、楽し気に通り過ぎていく生徒や来客やらを眺めていたら、おじい様とおばあ様が腕を組んで仲良く僕らのクラスにやってきた。

「アルベルト」

「おじい様! おばあ様!」

「久しぶりに学園都市に来たけれど、懐かしいわ」

「どうぞ中を見ていってください」

「アルベルト様。受付、交代しますよ」

 クラスメイトが声を掛けてくれたので、受付を代わってもらって、展示物の案内をする。

「ほう、シュラート物語か」

「英雄シュラートとローザ姫のエピソードね。彩色が美しいわ。アルベルトが描いたのはどれなの?」

「こっちです。絵は絵心のある人に下絵を描いてもらって、あとは各々色を乗せただけなんです。やはり絵が描ける人はすごいですね」

「それでも素敵よ。この教室はまるでシュラート物語の中に入ったようだわ」

 他のクラスに比べれば、展示物だなんて地味だって思われたけど、それでもみんな一生懸命作ったおかげか、見学者からはかなりの高評価を貰っている。

「よく、できておる」

 そう言っておじい様に頭を撫でられた。

 えへへ。頭を撫でられて嬉しいなんて、この年になったら子供っぽいだろうけど、嬉しいものは嬉しい。

 ネーベルやイジーたちと一緒に過ごすのは楽しいけど、やっぱりおじい様に褒められるのはね、特別感があるんだ。

 久しぶりにおじい様たちと会えて、良かった。


 二日目はアレに会う危惧があったけど、意外や意外、遭遇することはなかった。

 クラスメイトが言うには、国王夫妻が僕らのクラスの展示物を見に来たと言って大騒ぎしていたけど、その時間、僕は自由時間&遅い昼食を取りに行ってたから、完全にすれ違い状態で、顔を合わせることはなかった。

 っていうか、うちのクラスの展示物、見に来たんかい。

 世間の目を気にしたのかな? ほら第二王子依怙贔屓してるって言われないように、第一王子のこともちゃんと気にしてますよ~って。

 国王なんて外に出れば衆人からの注目浴びまくりだもんなぁ。そりゃぁガワだけでも取り繕わなきゃだめか。

 あと、きっと王妃様が何か言ってくれたに違いない。ご苦労様です。


 イジーとテオのクラスの劇を見に講堂へ行ったときも、護衛がわらわらいるから、いるなーというはのは分かっていたけど、あっちは僕がどこにいるか気が付かなかったはずだ。

 まぁそんなもんよ。


 最終日の三日目は、外部からの来客も一日目・二日目に比べると少なく、まったりした空気だった。

 そして三日目は十三時に終了となって、後片付けや学園内の清掃が行われる。いや、これが結構汚れるっていうかごみが出てるのよ。

 学園祭での出店屋台は、こういった問題が毎年あるらしい。

 お店がやっている屋台はごみ問題もちゃんと対策しているけど、問題は生徒が出店した模擬店で、結構大量のごみが出て、そのごみがあっちこっちに散乱しているのを目撃するのだ。

 最終日が早めに終わるのは、この散乱したごみの清掃に時間をあてるためで、そこで出たごみや、学園祭で使ってもう使用しなくなったものを学舎内の広場で炊き上げるようだ。

 いわゆるキャンプファイヤーのようなやつ。キャンプはしてないんだけど。


 学園祭自体はすでに終わっているけど、やはりメインはこのキャンプファイヤーなのだ。

 日が沈んでから広場に集められた端材やごみに火をつけ、友人や恋人たちと燃え上がる火を囲んで、楽しかった思い出を振り返る。


 今はこうやってみんなで、燃え盛る火を囲んでいるけれど、そのうち恋人同士でこの火を見るようになるんだろうなと思った。


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