第37話 一年生の終わり

 学園祭が終わるとあっという間に年末が近づいてきて、あっという間に冬の長期休暇がやってくる。

 冬の長期休暇は夏に比べると、体感的に公務が少ない感じがする。たぶん神殿からのお呼ばれが少ないせいだと思うけど。

 それでも王家の直轄領へ出向いてあっちこっち回って、夏に回った時に目について報告したところがどうなったのか確認しつつ、他のところで問題点が出ていないかの確認。

 あと直轄領の収支帳簿の確認。裏帳簿・二重帳簿・やってるやってないを見極めるのが難しいねぇ。

 お役所仕事ってよく言われるけど、土地に対して執政官の数が圧倒的に少ないんだよ。そして仕事内容と給料が見合ってなかったりもするから、横領とかそう言うのが蔓延するんだろうな。

 もちろんそれだけじゃなくって、最初からそれを狙ってる人もいるだろうけど、その貯め込んだ金、使わなきゃ意味ねーんだよなぁ。貯めてどうすんだよ。老後の心配なんざしてるんじゃないよ。

 そんなもん自分の給料やりくりして貯蓄しろや。

 二十一世紀の日本みたいに、何でもかんでも税金課せられて持っていかれる時代じゃねーんだからよぉ。

 貴族なら、もてあた精神もてや。


 あとはイジー念願の打ち合いをね、騎士団の訓練所でやったわけなんだけど……。なんだろう半端なくアウェー感満載でさぁ。

 ほら僕、むかーし、基礎体力さえもねー子供に、騎士団長派遣させて剣術なんて習わせてんじゃねーよって、あれが手配した騎士団長を突っ返したでしょう?

 騎士団長やら副団長やらエリート騎士やらが、わらわらやってきて、僕とイジーの打ち合いをガン見。

 もぉ、やめてよぉ。

 それでもちゃんとやったよ? 手を抜かなかったよ?

 ルールは、テオとやった時と同じ。

 木剣と長棒での打ち合いで、イジーは僕が持っている長棒についた布切れを木剣で破るか取るか、もしくは僕が持ってる長棒を落とさせるかしたら勝ち。僕はイジーの攻撃を防いで、木剣を落とさせたら勝ち。


 それでやっぱり武器を人に向けるのは、向いてねーなーとつくづく思ったわ。

 僕もだいぶ武器の扱いに慣れてきたから、首以外にも、「あー、ここに入れたら獲れちゃう」って、わかるようになっちゃったんだよなぁ。

 人体急所の場所はシルトとランツェに叩き込まれたからね。

 それで、ネーベルにも手を抜くなと言われたし、イジーの木剣を弾き飛ばさせてもらって僕の勝ち。

 なんだか余計に騎士団の人たちに睨まれちゃったけど、もう打ち合いはせんからな! 次、何かやるとしたら、魔獣狩りにしてくれ! 魔獣を狩った数で競わせて!!


 そんなこんなで冬の長期休暇も終わって学園都市に戻ると、学園都市での剣術大会があるわけよ。

 案の定、テオとイジーは個人戦に出場。

 それからヒルトも出場。


 それでさぁ、ここからがやべー話なんだけど、学園都市での剣術大会ね、ヒルトが優勝しちゃったんだよねぇ。

 上学部の騎士科の生徒も、最初は下学部のしかも女子だからって、侮っていたんだと思う。対戦相手は女子だから、下学部だからと、ちょっとだけ花を持たせてやってから負かそうと思っていたに違いない。

 けれど、一戦二戦と勝ち上がっていくヒルトに、最初は笑って見ていた上学部の参加者たちは、どんどん表情を険しくさせていって、最後はもう、女のくせに、下学部のくせに、生意気だ。みたいな空気になっていた。


 そんな空気の中で、ヒルトは相手に怯むことなく、むしろ相手の戦意をボッキボッキにへし折って優勝してしまったのだ。


 ヴュルテンベルク家は、剣の神シュヴェルの加護を受けてるし、ヒルトは小さなころから剣術の英才教育受けてるから、そりゃぁ相手が、男だろうと年上だろうと、そんなのハンデにもならんわな。

 何よりも、女子からの支持が半端なかった。

 ヒルトの試合はギャラリー席の女子率がめっちゃ多くって、声援がすごいのなんのって。

 いや、最初はさ、ヒルトの声援なんかも、ヒルトのことを知ってる僕らやクラスメイトだけだったんだよ? それが一戦ごと勝ち進めていくたびに、どんどん増えていったんだよね。

 上学部のお姉様方もヒルトのファンになったのか、ヒルトの試合には観戦に来るようになって、最後の決勝戦なんか、女子の見学者のほとんどは、ヒルトのファンだったに違いない。

 あの熱気はなんか、そう、にーてんご次元の役者さんを推してるお嬢さんたちと同じだった。

 それまでもヒルトは女生徒からの受けは良かったけど、あの剣術大会でさらに女生徒からの人気を集めた感じだった。


 そして二年に進級する前にあるのが、シュタム会の選挙だ。

 シュタム会というのは、いわゆる生徒会とか学生会とか、生徒の自治会のことである。

 このシュタム会、役員に会長・副会長・会計・書記・庶務と言ったものがない。

 会をまとめる役員長は、ヴルツェル・ブラウ、ヴルツェル・ロート、ヴルツェル・ゲルプ、と呼ばれる三人で、この三人がいわゆる生徒会長のようなものらしいのだ。で、もちろんその三人だけで会が回るわけがないので、ブラットと呼ばれるヴルツェル候補生を二・三・四年生から、各学年三名ずつ募集するそうだ。

 選挙はほとんど信任選挙で、四年のブラットがそのままヴルツェルになってもいいか? って信任選挙なんだけど、たまに自分が新たなヴルツェルになると立候補する場合もあるそうだ。


 選挙が終わった後、五年生の卒業式となる。


 二年に進級しても下学部はクラス替えがないので、入学してあっという間の一年だったなと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る