第34話 おかしさに気が付いたときはだいたいが手遅れ
「でもそれをさせちゃったのは、フィッシャーの対応の悪さが原因だもの。悪いのは君になるんだけど、そこ理解してる?」
「な、なんでですか?!」
心外だって顔をされてしまった。
「なんでって、だから言ってるじゃないか。ブルーメ嬢が君の幼馴染みを泣かせる言い方をしたのは、ひとえに君がブルーメ嬢に、幼馴染みとの距離感のフォローが出来てなかったからでしょう?」
「え?」
「え? じゃなくってね、君がブルーメ嬢に対して、幼馴染みとの関係のフォローが出来てたなら、どれだけ君が幼馴染みを優先しても、ブルーメ嬢が君の幼馴染みに突撃するわけないじゃない。君の幼馴染みがどうこうって話じゃないの。君自身が問題なの」
「意味がわからないって顔をしてるな。なんでわかんないんだ?」
ネーベルは僕が何を言わんとしているのかわかってくれてる。たぶんイジーもほかのみんなもわかってくれてると思う。
わかってないのは、フィッシャーだけだ。
「お前は、自分の立場に酔ってるだけだろう」
そしてネーベルはきつめの一発をお見舞いした。
「あら、言っちゃった」
「この手の奴には、はっきり言わないと理解しねーよ」
そう言ってネーベルはフィッシャーに続けた。
「二人の女性が自分を取り合ってる状況に、有頂天になったんだろう? 承認欲求爆上がりだもんな。お前の立場を考えれば、ご機嫌を取らなきゃいけないのはブルーメ嬢の方なのに、幼馴染みの肩を持ったのは、相手に頼られたっていうのもあるだろうけれど、ぱっとしない風貌の婚約者に、八つ当たりしてるだけだ」
「そうなの?」
「そうだよ。俺はブルーメ嬢の顔はよく見てないから何とも言えないが、遠目で見た感じ、あんまり身なりに手をかけたりしない、パッとしない子だなとは思った」
そう、確かにそれは気になった。
伯爵家のしかも跡取り娘なのに、なんか野暮ったい感じがした。俯いてたからよく顔は見れなかったけど、髪は手入れしてないのかぼさっとしてたし、制服のシャツもよれてたんだよね。ドアマットヒロインだから、実家の伯爵家が彼女にお金をかけてないというのは、見るからにわかるんだけど、でも、あれはすっごい違和感がある。なにかおかしい。リュディガーが「よくわからないんだけど変だ」って言ったのが、何となくわかった。
「友人知人に、お前の婚約者地味だなって揶揄われてたら、余計に嫌になったんじゃないか? 身なりを気にしない婚約者に。そんなのが自分の婚約者だって知られてることに。だから八つ当たりしたんだろう? 幼馴染みに泣きつかれたのは、八つ当たりするためのいい口実だったってことだ」
ちらりとフィッシャーを見ると、真っ青になっている。
「図星っぽいですね?」
「婿入り立場なのに、それはちょっと……」
クルトとリュディガーが、顔を引きつらせながら零す。
「ブルーメ嬢は、そこまでされてどうして何も言わないのだろう?」
そんな中、イジーだけがブルーメ嬢の対応に疑問をこぼした。
「教室でのやり取りを見た限り、フィッシャーが幼馴染みに泣きつかれたのは、何度かあったような感じだった。そのたびに教室であったときみたいに、ブルーメ嬢を非難していたんじゃないだろうか?」
「ブルーメ嬢の方にも事情があるんじゃないかな? どんな事情があるかはわからないけどさ。それにしたって、フィッシャーは、立ち回りが下手だよね。婚約を続けたいなら、もっと頭使わなきゃだめじゃないか」
ネーベルとクルトは、僕の言葉にうんうんと頷いてるけど、イジーとリュディガーは反応に困ったような様子だ。
そして当のフィッシャーは、やっぱり自分の対応の悪さを理解していない。
「な、なんで、そんなことを言うんですか? ミュルテが泣いてたんですよ?!」
「僕、さっきも言ったよね? その幼馴染みが君の婚約者にいじめられたーって泣くのは、君の対応の悪さが原因だって」
さっき言ったことを思い出したのか、それでも納得できないって顔をする。
「あのね、全部、悪いのは君なの。何処が悪いかわからないなら、教えてあげるよ。まず、婚約者以外の異性がそばにいること。幼馴染みだとか友達だとか関係ない。婚約者以外の異性と仲が良いこと自体が悪い。次に婚約者に対して何も知らないこと。なんで何も知らないんだよ。将来の伴侶だろう? ちゃんと相手を知りなよ。反論があるならどうぞ」
当然のごとく、フィッシャーは反論してこない。
「ないなら次にいくよ。今度は君の下手くそな立ち回りについてだ。異性の幼馴染みと仲が良いことは隠せ。疚しいことはなくても、ただの友達でも、婚約者は自分以外の異性の気配を気にするんだよ。僕だって嫌だよ。自分の婚約者に他の男の気配があったら。気分いいわけないだろう。だから異性の幼馴染みと仲が良いなんて、婚約者に見せびらかすような言動をするな。全力で隠せ。自分の周囲にいるのは同性の友人だけですってカモフラージュしろ。それができないなら、婚約者に特別なのは君だけだっていう態度を取れ。その場合、婚約者に幼馴染みを擁護するようなことは一切するなよ。特別扱いされてるのは自分だってわかってるなら、女性は君の幼馴染みのことなんか相手にしない。それでもいじめられたーって泣きつかれたなら、四六時中婚約者に張り付いて、幼馴染みに手を出さないように見張ってるんだよ。いいか? 幼馴染みに張り付くんじゃなく、原因である婚約者のほうに張り付いて、悪さをしないようにするんだ」
まぁ、そうやって、幼馴染みではなく婚約者のほうに張り付いていれば、そのうち幼馴染みのほうが嘘を言っていることに気が付くだろう。
フィッシャーみたいなのは、周囲が幼馴染みが略奪女だって言ったって信じやしない。自分で幼馴染みの言ってることがおかしいと気が付かない限り、盲目に幼馴染みの肩を持つのだから。
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