第29話 学園祭と剣術大会の情報

「あら? アルベルト君たちじゃない?」

 呼びかけられて声がしたほうを見たら、そこにはルイーザ先輩がご友人の令嬢と一緒にいた。

「こんにちは。ルイーザ先輩」

「こんにちは。買い物かしら?」

「はい、寮帰りの寄り道です」

「あと女の子ウオッチングしてます!」

 テオがそう言うとルイーザ先輩は楽しげにくすくすと笑った。

「前も思っていたけど、あなたたち本当に仲が良いのね」

 最後にあったときとは全く違う。なんだろう……、明るくなったって言うか、あの時の悲壮感がない。

 そう思ったのは僕だけではなくみんなもそう思ったと思う。


 ルイーザ先輩たちも僕らの隣の席で休憩をとることにしたようだ。

「再来月は学園祭だけど、みんなクラスの出し物とか決まっているの?」

 そうなのだ、学園都市をあげての学園祭が、再来月にあって、準備期間をひと月まるまるあてられる。

「うちのクラスはまだ案を出し合う準備会議中です」

「うちも~」

「そう、では上学部の先輩からアドバイス。飲食系は避けたほうがいいわよ」

 ん? どういうこと?

「上に兄弟がいる下学部で、そういった案を出すクラスが必ずあるのだけど、上手くいったためしがないのよ。毎年食材のロスが発生して、シュタム会でも問題になっているの。あと準備をする人が偏って、どうしたって不公平が出てくるわ」

「あー、もしかして平民からの学生や、下級貴族の子ばかりがこき使われたり準備に奔走したりってことですか?」

「えぇ、そう。それなのに華やかな表に出る役は上位貴族ばかり。先生たちも自由な発想っていうところばかり見て、公平性は考慮に入れないのよね。飲食系を全面禁止するのは、それはそれで味気なくなるから、許可を出すなら条件付けをさせるべきなのだけど。あと、単純に、私たち生徒が作った料理って、美味しくない」

 あっ! 確かに!!

 自分で料理したことがない貴族の子供は当然だけど、平民の子だって、お金持ちの子なら自分で料理なんかしないし、それ以外の神殿や教会から推薦で入学した子たちは、お手伝いはしても料理そのものをしているわけではない。

「やっぱり不特定多数の人の口に入る食べ物を取り扱うなら、プロに任せるのが一番よ。だから、もし飲食系に手を出すなら、こう言ったショップ街や飲食街でお店を出しているところに協賛してもらうというのも手よ?」

 なるほどね。

「参考になります」

 次のクラス会議の時にこのこと話しておこう。

「出店もそういうところが出してるから、協力してもらいたいなら、早目に申請したほうがいいわ。断られるところもあるしね」

 お店の数も決まってるしなぁ。下学部二学年だけでも十クラスあるし、そこに上学部の三学年。全部のクラスが飲食模擬店を出すわけじゃないけど、確かに取り合いになるかも。

 それ以外にサロンの出し物だってあるだろうしな。

 ルイーザ先輩の話を聞いている最中、クルトとリュディガーがいつの間にかメモをとっている。

「あと、何か注意事項とかありますか?」

「そうね……、模擬店の被りはたしかに多いのよ。それで許可できる模擬店でも、枠が決まっているものがあるから、いくつか候補案を出しておいたほうがいいかも。あと、そのこともクラス会議中に言っておいたほうがいいわ」

「なんで? 枠が決まってんだから、外れることだってあるだろ?」

 わざわざ会議に出す必要あるか? ってテオが言うと、ルイーザ先輩は苦笑いを浮かべた。

「発案者が納得しない場合があるのよ。よほど自信あるからこそなんだろうけれど、申請数が多いと、シュタム会の会議で枠決めの抽選が行われるの。で、外れを引いたクラスの中には、発案者が納得いかないって直談判しにくる場合もあるわけ」

 うわぁ……、それはまた、傍迷惑な。

「だから前もってその辺のことは、ちゃんと話しておいたほうがいいわ。毎年、学園祭が始まる前に、担任の先生から注意事項として、この話はしてもらっているのだけど、聞いてない子が多いのよね。だからクラス会議の最初のころに、禁止事項を周知してほしいのよ」

 ルイーザ先輩の口調からすると……、もしかしてルイーザ先輩って。

「シュタム会の役員をされてるんですか?」

「下学部にいた時にね。もう最悪だったわ。だから上学部に進級してから辞退させてもらったの」

 ルイーザ先輩はにこにこ笑いながらそう言ったのだけど、その笑顔がうすら寒い。

「ちなみに。枠が決まってる模擬店ってどういうものです?」

「さっき言った飲食系、あとなんだったかしら、ホラーハウスかしら?」

 学園祭お約束のお化け屋敷だな。

「ホラーハウス? ってなんだ?」

 わからないって顔をするテオたちに、ルイーザ先輩は親切に教えてくれる。

「教室を迷路っぽくして、お化けに扮して、入ってきた人を脅かすものよ。これは結構被りが多くて枠が決まってるわね」

 過去に記憶待った転生者がいて、学園祭でその手の出し物やったんだろうな。それで、引き継がれていったって感じもあるかも。

「ホラーハウスは過去の先輩たちから引き継がれていってるから、マンネリ化しつつあるけど、中には本当に怖いときもあるのよね」

 それ、絶対転生者が手を加えてるだろう。

 そのあとも、ルイーザ先輩は、学園祭のアドバイスを僕らにしてくれて、最後にイジーとテオを見ながら訊ねる。

「年が明けたら剣術大会があるけれど、それには参加するのかしら?」

 ん? あれ? 剣術大会って五年に一度だよね?

「剣術大会って二年前にありましたよね?」

「あぁ、それは王都で開かれる、成人の大会ね。学園都市での剣術大会は毎年あるのよ。規定は特にないから、下学部上学部混合で行われるの」

「それって、騎士科の人じゃなくても出れるのか?!」

 食いついたのはテオだった。身を乗り出してルイーザ先輩に聞きだす。

「えぇ、そうよ。一応団体戦と個人戦があって。でもこれも枠が決められてるから、出場するなら申請の締め切りに気を付けてね。まぁそれでも大体出るのは騎士科の人ばかりなんだけれど」

 騎士科、騎士科ねぇ……。

 ルイーザ先輩の婚約者、ベーム先輩は騎士科だ。出場するのかな?


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