第28話 いまだに好みのタイプがわからない

 ヒルトとの話の後、ちょっとぐったりしていたら、テオとイジーが僕らの教室まで迎えに来た。

 今日はこれからショップ街のほうに寄り道するのだ。

「アルー、迎えに来たぞーって。なんだ、具合悪いのか?」

 机にへばりついていたら、テオが不思議そうな顔をして聞いてくる。

「女の子は思った以上に成長早い。ヒルトは妹だと思ったのに、すっかりおねーちゃんになってた」

 何のことだとイジーとテオが傍にいるネーベルを見る。

「アルベルト様のダメなところをヒルトに突かれたんですよ」

 なんだよー、ネーベルも気づいてたのかよー。

「そーいや、ネーベルの彼女はどうした?」

「アルベルト様の為に、女子の付き合いに力を入れることにしたそうです」

 意味が解らないって感じで、テオたちは僕とネーベルをかわるがわる見比べる。

「まぁ……いうなれば、アルベルト様に恋をしてもらうために、お相手探しに精を出すことにしたそうです」

 そうなんだけど……。それが難しいんだよ。


 このメンバーで、婚約者がいるのって、イジーとネーベルだけなんだよなぁ。

 テオはメッケル辺境伯の第五子だから、長子とは違って結婚相手を親が血眼になって見つける必要性がない。テオの従者であるクルトはどうなんだろう? クルトみたいなのは気が付いたらちゃっかり婚約者がいそう。

 リュディガーはなぁ……、イジーの側近にするためには今までの経歴を消す必要があったから、宰相閣下の養子にしてもらったんだよね。だから、ベレーゼンハイト家の後継者がいなくての養子、ではない。まぁ……宰相閣下って面倒見のいい人だから、リュディガーのために、派閥に影響しないどこかのご令嬢との縁談を用意しているかも。


「お前の恋人、なんでそんなことアルに言ったんだよ」

 恋愛なんて自由にすればいいって、テオは言いたいのだろう。まぁ、はたから見れば余計なお世話と思われなくもないんだけど、そうはいかないのが貴族なのだ。

「アルベルト様は……、人を見抜く目があると思うので、ハニトラには引っかからないと思うんですが、恋って理屈じゃないですからね。あと盲目になりがちというか。だから経験を積めと言いたいんですよ」

「まんま、姉上じゃねーか」

 テオは姉君が二人いるんだっけ?

「よし! どうせこれからショップ街に行くんだからさ、女の子ウォッチングしようぜ!」

 テオの発言に、クルトがまた突飛なことを言い出したって顔をする。

「テオ様、女性を外見で判断するのはどうかと思いますよ」

「でも好みの外見ってあるだろう? 実際好きになる相手が、自分の好みの外見とは限らないのは分かってんだよ。結局は付き合ってみなきゃわかんねーんだし。でも、アルの場合はそれ以前なんだろ?」

「それ以前とは?」

「じゃぁお前、こういう外見がタイプっていうの、あるか? 言えるか?」

 うっ! 鋭いところをつかれたぞ!

「俺は言える! ヘッダの外見は俺のタイプ!!」

 ちょっとー!! イジーの前でそんなこと言わないでよ!!

 イジーのほうをちらりと見たら、何か考え込んでいる様子で、そしてぼそりと呟いた。

「俺はリーゼロッテ様のような方が好みです」

 あー!! イジーまでそんなこと言う!! ってか、そうだったの?! 母上が好みの外見だったの?! うっそん! 初めてイジーの好みの外見、知っちゃったよ!!

「でしたら僕は、やっぱりオティーリエ様の外見ですね。芸術作品みたいじゃないですか。僕、あぁいう外見大好きです」

 クルトまで! でもクルト、オティーリエのこと苦手だって言ってなかった? あ、外見はいいってことか。

「おれは具体的には……でも美人系よりも可愛い系がいい、かな? ネーベルは?」

「顔も中身もヒルト一択」

 のろけられた!!

 クッソ、好みのイメージ持ってないの僕だけぇ?


「ほらな? だいたいの男は、こんな感じが好みのタイプっていうの持ってんだよ」

「ううぅ~っ、反論できない」

「何でもわかってそーなアルにも、わかんねーことがあったんだな!」

 そう言ってテオは楽しげに笑う。なんだよ嬉しそうにしちゃってさぁ。

 むーっとふくれっ面をしてたら、いつまでも机にへばりついてないで寄り道に行くぞと、ネーベルやみんなに引っ張られてショップ街へと向かった。


「でも意外でした。アルベルト様って、女性に対して奥手ってわけでもないですよね? ヘッダ様たちのドレス姿はちゃんと褒めてたし、ユング嬢が暴力振るわれそうになったらちゃんと止めに行ったし」

 もうすっかりなじみになったショップ街で、本屋で気になっていた新刊の小説や、雑貨屋で新しいブックベルトがあるか覗いたり、あっちこっち回った後に、この学園都市にきて最初にお茶をした店で、休憩している最中に、クルトにそんなことを言われてしまった。


「女の子が苦手なんじゃないんだよ」

「それは見てて分かります。というかアルベルト様って男も女も同じですよね? 一応? 女性には女性として尊重してる感じですけど、それは男相手でも大して変わってないですし」

「恋愛に忌避感があるわけじゃないんだけど、ものすごーく濃ゆい泥沼の恋愛を見てるからなぁ。一歩引いていたのは確かだね」

 なんのことかはあえて言わんよ? みんなだって何となく気づいてるでしょう?

「まぁ……、そこで女性嫌いになっていない分、良かったって事なんでしょうね」

「うん、恋愛には興味あるんだ。僕、好きな子が出来たらどうなるんだろうとかも思う。問題はさぁ……、可愛い女の子を見てもドキドキしないことなんだよねぇ」

 ヒルトもヘッダもオティーリエも、同じ年代のご令嬢たちの辺りでは最上級のスペックなんだよね。美しさで言えばオティーリエが一番美人だっていうのもわかるよ。

 なのに僕ってば、誰を見ても、可愛いなー、美人だなーと思いはするものの、ドキドキはしないんだよ。

 テオなんかはさぁ、ヘッダ見てめっちゃどぎまぎしてたよね。

 僕だって、あんなふうに、女の子見てときめいたりしたいんだよぉ!!

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