第27話 好きな女の子のタイプ
ヒルトとしてはその頃には、もう明確に僕に仕えると心に決めていたようだ。
「あの頃、ヘッダ様に言われたことは、今になってみればその通りだなと思います。ルイーザ先輩の婚約者とそのお相手のことは、ちょっとよくわからないんですけど、でもメイヤーたちのことを見てると、もしかしたら私も周囲から、穿った見方をされていたり邪推されているかもしれない」
「でもヒルトはネーベルと婚約しているし、何よりヒルトだけが僕の傍にいるってわけではないよ? ヘッダやオティーリエだっているだろう?」
それに学園に来る前は、常に男装だったしね。
「私はそういう気持ちはネーベルにしか持てませんし、好きな人と二人でアルベルト様にお仕えできることは、すごく幸運なことだと思います。これから先、周囲からどういわれようと、私はネーベルと一緒にアルベルト様のお傍にいるつもりです」
「えっと、それは、ありがとう」
「私は上学部に進級したら、淑女科に進みます」
「え?! 騎士科じゃなくって?」
「はい、淑女科に行きます。これもアルベルト様の奥方になる方にお仕えするには必要なことです。剣のことは、正直言うと騎士科に行っても、私の糧にはなりません」
「あっ、そうだった……」
僕の周囲で対人戦になるときは、殆ど暗殺目的での近接戦だ。ヒルトはそのときの応戦術と反撃術を習っている。
「フルフトバールの不帰の樹海に、アルベルト様のお供としてネーベルと一緒に魔獣狩りに行きたいという気持ちはあります。でも、アルベルト様の奥方をお傍でお守りできるのは、きっと私だけだとも思うのです。だから、最初の希望通り、将来アルベルト様の奥方になる方を私に守らせてください」
「……そっか。うん、よくわかった」
ヒルトが自分で納得してそれを選んでいるなら、僕が何かを言うのも野暮な話だろう。
「あの……、アルベルト様」
「なに?」
「おそらくアルベルト様の周囲は、これから私が言う件に関して、何も言わないと思うので、私のほうから言わせていただきます」
ヒルトは最初言いにくそうな顔をしていたけど、きりっと僕の顔を見つめながらはっきりと言った。
「アルベルト様、この王立学園にいる間に、伴侶を見つけてください」
え? ちょ、なに? え?
「ネーベルもフルフトバール侯も、こういったことはアルベルト様の好きにせよと仰ると思います。政略が必要のないマルコシアス家なので、婚姻相手も好きに選べるから、焦らせる必要はないと、そうお考えの方も多いでしょう」
「そ、れは、そう、かな?」
「はいそうです。ですから皆様は、今までアルベルト様に何も言われなかったと思います。でも、それはアルベルト様の事情です。ほかの、貴族の娘は違います」
ヒルトの言葉にドキッとする。
「王籍から抜けフルフトバール侯爵となられるアルベルト様の妻になりたいと、そう望む令嬢は多いのです。おそらく、上学部に進級すればフルフトバール侯にアルベルト様の縁談を申し込む貴族が増えることでしょう」
「えっと……、あの、でも」
「政略の必要はないとフルフトバール侯は仰せになりますが、貴族の付き合いもあるのです。そのうち断れない筋からの縁談が来ないとも限りません」
その通りなので何も言えない。
「ですから、アルベルト様。恋をしてください。好きなお相手を見つけてください。下学部なら、まだ婚約されていない令嬢も多くいます」
ヒルトの言葉に、言い返すことが出来なかった。
全部その通りだ。
いつかでいいやと、僕が呑気に考えていても、周囲はそう考えていないだろう。
僕が王族として生きることはなくても、それを利用されないように誓約書を国王陛下と交わしていても、詳しい事情を知らない人は、王族の血を引く僕を利用しようと思う者だっている。
そのことを全く考えてなかったわけじゃないんだ。
でもまだ大丈夫だろうという甘さがあったと思う。女神のことだってあったのに、うっかりしすぎだよ。
「……なるべく、頑張る」
僕がそう返事をしたらヒルトは苦笑いをうかべる。
「恋は頑張ってするものじゃないですよ」
「そうだけど、意識しないと、僕、また忘れると思うから」
「では、男子生徒と女子生徒、両方交えての交流を積極的にしていきませんか?」
「お見合いみたいな?」
「アルベルト様は意識すると、その手のことから遠ざかる傾向があるので、そうではなく友人作りの延長と思ってください」
友人作りか。人脈作りの延長と思えば大丈夫かな?
ヒルトが言いたいのは、もっとたくさんの人と関わって行けって事なんだろう。
僕、イジーのようにコミュ障ではないと思うんだけど、やっぱり近づきにくいのかなぁ? でもメイヤーやクラスメイトたちは、気軽に話しかけてくれるんだよね。僕が話しかけても嫌そうな顔をされていないから、嫌われてはいないと思うんだけど……。
「私も、これからはご令嬢たちとの交流を増やそうと思います」
「うん……」
「それでアルベルト様に仲良くなった子を紹介します」
「有り難いけど、それは大丈夫?」
「アルベルト様目的で、私に近づいてくる女子がいるかもしれないということですか?」
おっ、ちゃんとそれは分かっていたのか。
「むしろ、それぐらいの気概がなければ、アルベルト様の奥方は務まりませんよ? もしかして、殿方がいないと何もできないような、深窓の令嬢のような女子が好みですか?」
好みの子か……。前にテオにも聞かれたなぁ。あの時は僕と一緒にフルフトバールの地で生きていけるような子がいいって言ったんだっけ。
「う~ん、僕、マザコンではないから、あの頃の母上のような、好きな人が中心になっちゃうような子はなぁ。どっちかって言うと、もっと元気のある子がいいかも。でもヘッダのようなのはちょっと疲れちゃう」
「ヘッダ様は、また特殊ですから。でも、良かったです。アルベルト様が、おしとやかな女子が好みだと仰らなくて」
「なんで?」
「おしとやかな女の子なんていうのは……、空想上にしか存在しませんから」
ヒルトはにっこりと笑いながら、ヘッダのように一部の男の夢を粉砕するようなことを言った。
まぁ、うん確かにいないんだけどね。そんな女の子は。
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