第26話 異性の幼馴染みの距離感

 夢の中でシルバードラゴンと話したことによって、ちょっとは落ち着いた。

 女神の介入は導入部分だけで、その先のことまで思い通りに進めることはできない。それが知れただけでも朗報だ。

 でも、イジーの様子は注目しておいたほうがいいだろう。


 シルバードラゴンの夢渡りがあった翌日、食堂でイジーを注意深く観察したけど、特に変わった様子はなく、むしろいつも通りでほっとする。

 まだ何も起こってない今、ごちゃごちゃ考えて、気を張っていてもどうしようもないのだ。

 なるべく一緒にいるように心がけるしかないだろう。


 久しぶりにシルバードラゴンと話したためか、フルフトバールでのことを思い出してしまった。

 魔獣狩りに行きたーい。

 テオが帰った後、僕とネーベルとヒルトとヘッダで、二回ほど不帰の樹海で魔獣狩りしたんだよね。

 初陣は成功したけど、なんか僕としては不完全燃焼だったし、ネーベルももう一回やりたいって言ったし、浅層の魔獣狩りなら、フェアヴァルターがいてくれれば安心だし、なにより、もうあんな大物が出てくるとは思わないしさ。

 本当は、安置拠点で一泊する狩りがしたかった! でも女の子が一緒だったし、だから日帰りの狩りで、ホーンラビット狙いで行ったら、ビックボアと遭遇しちゃったんだよね。

 またもや想定外の出来事だったけど、クリーガー父様が狩ったグレートキングボアを思い出して、ベーコン食べたい。生ハム食べたいって喚きながらビックボアを狩ったのだ。

 狩りもだけど、あの時のあの雰囲気っていうか、森の中を歩き回るのが、なんか……、楽しかった。


 アウトドアー、キャンプ、ブッシュクラフト、やってみたい!!

 森の中に小屋を作って秘密基地にしたい!!

 不帰の樹海は魔獣の巣窟になってるから、安置拠点のように魔石での結界を施してない場所に小屋を作っても、すぐ壊されちゃうのは分かってる。

 でもさ、作りたいじゃないの。秘密基地。いつか作りたいなぁ。

 まぁそれよりもすることは山ほどあるんだけどさ。


 まずは、ヒルトの進路の確認だ。

 三年前と今とじゃ、いろいろ考え方も違ってるから、気持ちは変わってないかという確認をネーベルも一緒に話し合うことにした。


「そうですね、あの時私がアルベルト様に会いに行ったのは、剣で身を立てたいという思いもありました。フルフトバールでならそれができると思っていましたし、現にできると思います」

 やっぱりそうかぁ。

「だけど、アルベルト様。私は女ですから、どうやったってネーベルのようにはいきません。アルベルト様の側近として傍にいることは、できないわけではないでしょう。でも同時に下世話な勘繰りをする者もいるはずです」

「下世話」

「アルベルト様が以前オティーリエ様から借りられた物語」

「うん」

「あの物語の男爵令嬢のように思われたり、アルベルト様とネーベルにちやほやされて調子に乗っていると、そういう見方もされます」

 そ……それは全く考えてなかった。

「ご、ごめん。配慮に欠けてた」

「いいえ、アルベルト様はちゃんと配慮されていますよ。いい意味でも悪い意味でも、私とネーベルの扱いに差がありませんから、勘ぐっているほうが疚しいと思われるはずです」

 あー……、傍に侍らせている特別な女子扱いじゃなくって、ネーベルと同じ友人としての扱いだからって事かな?

「私、男に生まれたかったんです。女であることが嫌だとか、女の自分に嫌悪しているだとか、そんなのではなく、純粋に男に生まれていれば、剣を握ることも家族以外の人間から何か言われることも、なかっただろうなって。そういう意味で男に生まれたかった」

「難しい話だね。女性の騎士はいないわけではないけど、やっぱり少ないものね?」

「はい、だから……、最初から王宮の女性護衛騎士になるとか、そういった道は考えていませんでした。上に兄姉がいるので、政略が必要だったとしても、私ぐらい自由にさせてもらっても大丈夫かなって考えていて。それで、最初からフルフトバールの魔獣狩りになるつもりだったんです」

 おうふ……、そうだったんか。

「それで、うちの親族がアルベルト様に不敬で済ませられないことをやらかしたではないですか。しかもアルベルト様は王籍を抜けて、フルフトバール侯になるって決められた」

「あー、うん」

「チャンスだって思ったんです。フルフトバール侯になるアルベルト様に仕えることができるなら、ヴュルテンベルクが受けた恩を返すこともできるし、貴族の女としての生き方をしなくてもいいのかもって。でもそうしたら、ヘッダ様から、そんなにうまくいくことはないと言われました」

 ヘッダはこの世の不思議を知り尽くしたい女子だけど、同時に、現実的な視点を理解してるんだよなぁ。だから不思議に心惹かれるんだろうけれど。

「きっと周りからやっかまれるだろうし、将来アルベルト様の奥方になる方には、疑いの目を持たれるだろうと言われました」

 ビシッと言ったな。でも確かにその可能性はあるかもしれない。

 旦那の近くに自分と知り合う前から仲のよさげな女がいて、たとえそれが仕事の部下といっても感情的にいい気はしない、よね。


「あの頃はまだ、私は誰かに対してそういった感情を持つことはなくって、そういう意味で気になるのはネーベルだけだったので、ヘッダ様の話には納得できないところもあったんです。その……なんでもそういう方向に考えるのはおかしいとか、そんな感じで」

「うん、まぁ、好きって感情も、それが恋なのか友情的なものなのかは、ふわっとしている年頃だしね。でも女の子のほうがそう言うことは大人なのかな? とも思う」

「はい、ヘッダ様に、じゃぁネーベルに私以外の親しい女の子が居たらどう思うかと言われて……、そこで、気が付きました。自分はそう思わなくても、他は違うんだろうなと。そう考えたら、じゃぁ、アルベルト様の側近ではなく、アルベルト様が大切に思う方をお守りすればいいと思ったんです」

 ヒルトが自分を売り込んできた理由はそういった経緯だったのか。

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