第25話 お久しぶりのシルバードラゴン
リュディガーがイジーに遠慮しているのは、イジーの立場的に、その相手に恋をしていたとしても、どうにかなるものではないということと、もし自覚していなかったら、不用意に声を掛けて、自覚させてしまう恐れがあるってところだろうか?
う~ん、厳しい。
「イグナーツ様が彼女をどう思っているかは別として、これはアルベルト様に話しておかないと、おれ、後悔すると思ったんです。あの時気が付いてたのに、なんで誰にも相談しなかったんだとか。あとアルベルト様にならなんかいい考えが浮かんだかもしれないとか」
リュディガーは昔から、どうしていいかわからないとき、一人で悩むんじゃなく、すぐに誰かに相談することができる子だったな。
「頼ってくれるのは嬉しいけど、僕、万能神様じゃないからね」
「でも、おれと家族を助けてくれたのは、アルベルト様です」
それは言わないお約束だよ。
実際に動いたのは、宰相閣下だ。
「リュディガーから見て、イジーの様子は恋をしているような感じなの?」
「……わかりません。恋い焦がれている感じではないと思うんですが、イグナーツ様は感情が表情に出にくい人なんで」
そうだった、イジーって無口で感情が表情に出ない子だったわ。その代わりぷつっとなると、一気に放出するタイプ。
「ただ……、気が付くとその女生徒のことを凝視してるんです」
デジャブ。そういやあの子、昔よく僕の顔を凝視してたな。
「話しかけたそうなそぶりとかは?」
「それもないですね」
「う~ん、しばらく様子見ようか? イジーがどう思ってそのクラスメイトの女生徒を見ているのかわからないし、もしかしたらイジーのほうからリュディガーに相談してくるかもしれないよ?」
こういうことって、直ぐに動かなきゃいけない場合と、様子見して状況を見守る場合と別れるからなぁ。判断が付きにくいんだよ。
「でもリュディガーは気が気じゃないと思うから、何かおかしいって思ったら、また報告してくれる? その時はイジーとリュディガーも交えて話をしよう」
僕に話して少しは安心したのか、思いつめていた表情から柔らかい表情になって頷く。
「はい、それで、お願いします」
「あ、そうだ、ちなみにその女子生徒の名前、何っていうの?」
まだ名前、聞いてなかったわ。
「アンジェリカ・ブルーメ伯爵令嬢です」
え? は? なん、だって?
アンジェリカ・ブルーメ? それって、オティーリエが言っていた、件のドアマットヒロインの名前じゃなかったか?
「アルベルト様?」
リュディガーに声を掛けられはっとする。
「あ、うん。わかった。ありがとう。僕もそのことは気にしておくよ」
何とかそう言って、リュディガーを下がらせる。
まっ……、まって、いや、本当に、まってほしい。ちょっとどこから突っ込んだらいい?
え? なに、イジーと同じクラスだったの? うっそでしょう?! どうしてそんな重要な情報見落とした! いや違う、僕が聞かなかった。調べもしなかった。
僕が……。あー、あー!! このへっぽこ野郎が!! なにのほほんとしてんだよ! 緩み過ぎだろう!
たぶんオティーリエは彼女がどのクラスにいるか調べていたはず。オティーリエから名前を聞いたヘッダだって、婚約者であるイジーに関わるかもしれないことなんだから、どのクラスにいるとか、どんな人物なのかとか、そういったことは調べていただろう。
イジーと同じクラスなのは、もうどうしようもないことだし、イジーがどうして彼女のことを気にしているのかもまだ不明だ。ここで今更騒いでも、何にもならない。
リュディガーの話によれば、二人が接触していることはないのだから、まだ何かが始まってるってこともない。
よし、これからだ。まだ巻き返せる、はず!
どう対策を練ろうかと思っていたら、シルトからもう休むようにと声を掛けられる。
「アルベルト様、そろそろお休みになってください」
「え? もうそんな時間? もうちょっと起きてちゃダメ?」
シルトに追い立てられるように寝台に押し込まれてしまった。
「考え事で眠れないのかもしれませんが、それは横になってでもできます」
でも横になるとさぁ、眠くなっちゃって、忘れちゃうじゃないか。
って、またこれだよ。
掛布にくるまってすこんっと眠気に襲われて、気が付いたら、フルフトバールの不帰の樹海にいた。
でも過去二回見た夢とは違って、ネーベルと一緒に飛ばされてシルバードラゴンと会合したあの場所だ。
「なんだ。つまらぬ顔をしおってからに」
「交信って結局夢の中で会うってこと?」
「我はいついかなる時でもそなたのことを見ることができるが、そなたはできぬであろう?」
「人間は、そんな超常的なことはできねーんだわ」
「だから夢渡りで我が会いに来てやったのだ」
会いに来た? なんで?
「あの小娘のことで悩んでいるようだったからな」
「あー、そうか、うん。またなんかちょっかい出されている感じなのかもしれない。っていうか、あれは絶対そう。でも、今度は僕にじゃなくって、僕の弟に、なんだけどね」
イジーと彼女が同じクラスなのは女神の采配だろう。
でも、標的を僕からイジーに代えたと言い切るのは、できない感じもするんだよな。
「一つ、そなたに教えてやろう」
「なに?」
「小娘が現世に干渉できるのは、物事の先端だけぞ」
「先端?」
「そなたが悩んでいるのは、小娘が目をかけている女童が、そなたの弟と恋仲になるやもしれぬということであろう?」
「女童……。うん、まぁそんな感じ?」
「あの小娘はな、そなたの母御にしたようなことをそなたの弟にすることはできぬ」
意識の介入が出来ない?
「なんで?!」
「そばにそなたが居るからだ」
「え?」
「そなたが望まぬことは、ヴィントも望まぬ。そなたが自分との繋がりあるものを重んずべきものとしているならば、ヴィントは小娘の干渉を阻害する」
そういえば、力関係は女神よりも創始者のほうが上だって、以前言ってたっけ?
「悩む必要はない。心置きなくあの小娘の娯楽を粉砕してやるが良い」
シルバードラゴンはそう言って、上機嫌に笑ったような気がした。
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