第24話 異母弟の恋(仮)?

 ネーベルの話を聞いて、最初にヒルトが僕にあんなことを言ってきた理由が、腑に落ちた。

 そっか、ヒルトは母上やおばあ様のように、家庭に入って中から守るという淑女としてのありかたではなく、剣で身を立て結婚しなくてもいい生き方をしたかったのかも。軍部に入ることや王宮の騎士を目指さなかったのは、そこでもやっぱり上司や周りから結婚を言ってくる人がいると思ったからかな?

 ヒルトは思慮深いほうだし脳筋ではない。剣を振るっているだけでいいとは考えてないはず。だけど、現場で生きたい人なのかもしれない。

 それだと将来僕のお嫁さんの護衛兼側近っていうのは、ストレスにならないだろうか?

 剣を振るいたいというなら魔獣狩りとしての生き方もある。

 三年前と今とじゃ、希望も違ってきているかもしれない。一度ヒルトに話を聞いたほうがいいのかもしれない。

 夕食後、自室で悶々と考えていたら、シルトが声を掛けてくる。

「アルベルト様」

「ん? なに?」

「リュディガー様がアルベルト様にお話があるようです」

「リュディガーが? 通して」

 なんだろう?

 しばらくしてシルトに案内されながら、リュディガーがやってくる。

「どうした、リュディガー?」

 なんだか三年前の出来事を思い出してしまうなぁ。

「お休み前にすみません」

「いいよ、まだ眠たくなかったし」

 リュディガーに向かいのソファーに座るようにすすめる。

「……気のせい、だと思うんです」

 ソファーに腰を下ろし、リュディガーは俯きながら話し出す。

「今すぐどうこうっていうのでもないし、違うかもしれない。でも、もし、このことをアルベルト様に話さないでいて、イグナーツ様が取り返しのつかないことになったら、おれはもう死んでも死にきれない」

「物騒! なに? どうした? いきなりそんな不穏なこと言いだして」

「あの、まだ何かがあったってことではないことは、先に報告させてください。俺が勝手に、なんか大丈夫だろうかっていう不安になってるだけなんで」

 リュディガーがこういうことを言ってくるってことは、間違いなくイジーに関することだ。

「イジーに何かあった?」

「……気になる女子が、いるみたいです」

「ま……」

 まじかー!! もう来たか!

 いや、でもリュディガーは気のせいかもって言ってるし、オティーリエの言ったとおりになるとは限らないし、イジーが気にしてる子が、例のヒロインとも限らない! よし、まだ大丈夫! 落ち着け! 落ち着いて話を聞くんだぞ。

「えっと、なに? 仲が良い女の子出来たの?」

 なんとか動揺を出さないように、訊ねる。

「違う。仲が良いって言うんじゃなくって、クラスに……、なんかハブられてるってわけじゃなくって、いつも一人でいる女子がいるんですけど」

「うん」

「なんか、ちょっと変な子で」

「え……? 変?」

 もしや転生ヒドイン思考な子?

「説明しにくい」

 ちょ、説明しにくいって、どうなんだよ。そんなにやべーことしてんの? だんだんドキドキしてきたぞ!

「んーと、僕のほうから質問しようか?」

「はい」

「変っていうのは、その女の子の言動が変ってこと? なんかいつも一人でいるってことは、仲が良い友達がいないってことでしょう? おかしな言動をしてるからみんなが避けてるってことかな?」

「いえ、そういう変じゃないです」

 あ、そうなんだ。っていうことは、奇行に走って注目されてるってことではないわけね?

「えーっと、じゃぁどう変なの? 一人でぶつぶつ言ってたりするの? それとも男子に媚びてべたべたしてきてるとか?」

 リュディガーはそれにも首を横に振る。

「一人でいるのは……、仲が良い生徒がいないっていうか……」

「偏見は持ちたくないけど、根暗とか陰気なタイプなのかな? 積極性がなくって、自分からクラスメイトに話しかけないとか?」

「そうです。あの、入学当初は話しかけてる女子もいたんですよ。こういうのって、やっぱり異性よりも同性のほうが話しかけやすいというか」

「うんうん、わかる。一人でいたら声を掛けるのは、同性のクラスメイトだよね?」

「はい。それで、自分から話しかけていくことがないので、大勢の人がいると緊張して喋れないのか? とか、そう気を使って、一緒に行動しようと誘う子もいたんです。でも声を掛けてもらっているというのに素っ気ないというか……。返事をしないって言うと、悪意がある見方になってしまうんですが、話しかけてもずっと俯いて黙ってるだけなんですよ。そういう態度だと、声を掛けるほうも次第に……」

 あー、うん。声を掛けるほうもさ、偽善ってわけじゃないし、親切の押し売りってわけでもないけど、そうやって声を掛けても反応がなければ、「じゃぁもういいや」って気持ちになるよね。

「でも授業でグループ活動しなきゃいけないときは、声を掛けて自分たちの同じグループに入れる生徒はいるんです。だってそこで声を掛けないと、なんか……、ますます嫌な気分になるじゃないですか。クラス内の空気だって悪くなりますし」

「うん、そうだね。そうか……。イジーのクラスには引っ込み思案な子がいて、その子は、みんなが声を掛けても打ち解けてくれず、逆に目立ってしまうって感じかな? それでイジーも気になってるのか、その子を見てると?」

「はい、おおむねそんな感じで。ただイグナーツ様がその女生徒を気にしているのは、その状況で目立つからなのか、それともほかの意味があるのかは、おれには判断できません」

「イジーに話は聞いた?」

 ぶんぶんと首を横に振る。

「聞きにくい?」

「はい。あと、なんか聞き方を間違えて、イグナーツ様の気を悪くさせてしまうんじゃないかと思うと……」

 僕が強制的にイジーの側近にさせてしまったことはあるけれど、でもリュディガーは自分の意志でイジーとの親睦を深め、喧嘩だってできるぐらいに仲良くなってる。

 だから、イジーを怒らせることを恐れてるわけではないのだとも思う。

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