第20話 女の子の好感度上げ下げはめちゃくちゃシビア

 メイヤーは男子生徒の姿を見ると、穏やかな表情から一変して剣呑なものになった。

「また君か。フランツ・ゾマー。俺の婚約者に何の用だ」

 メイヤーがそう言うと、フランツ・ゾマーと呼ばれた男子生徒が舌打ちをする。態度悪いなぁ。っていうか、またってことは、前にも似たようなことやってたのか。なるほどねー。

「メイヤー、彼はこっちで引き取るよ」

「え?! で、でもアルベルト様、それは、その……迷惑では」

「暴力振るおうとしたのに、そのまま放置ってわけにはいかないでしょう? 再犯防止に役立つかはわからないけれど、こう言った相手を言い聞かせるのも、王族の務めだよ」

 王族の言葉に、ゾマーはビクッとして僕の顔をまじまじと見てくる。

「じゃ、また午後の授業でね」

 メイヤーに声を掛けて、テオが捕まえている手とは反対の手を掴み、ゾマーを引きずって食堂に向かった。


「アルベルト様、こっちです」

 先に食堂にきて、席をとっていてくれたヒルトが、僕らの姿を見て手を振る。傍にはイジーとリュディガー、そしてヘッダとオティーリエもいた。

 いつものメンバーを見て、そして改めて僕たちの顔を見たゾマーは、僕らが誰だか気が付いたようだ。

 逃げられないように一番端の奥の椅子にゾマーを座らせ、その隣にテオとクルト。ゾマーの向かいに僕、ネーベル、ヒルトと並んで座る。

「ネーベル、ヒルト。悪いんだけど、僕と彼の分、適当にとってきてくれる? 好き嫌いはないから、何でもいいけど、できれば肉と野菜のバランスよくしてほしいな」

「わかった」

 この学食はビュッフェ式で、ワントレイに好きな料理をとる方法になってる。おかわりは自由だけどお残しは厳禁。食べれる分だけのものをとってくれって事なんだろう。コスト面を考えれば、こっちのほうが楽なんだろうな。

 テオもクルトに自分の分を任せ、ゾマーが逃げられないように張り付いてくれている。

「さて自己紹介。僕のことはアルベルトと呼んでほしいな。君はゾマーでいい?」

 先に食堂に来ていたイジーたちは、ゾマーのことがわからないから、何があったのか興味津々でこっちを見ている。

 居心地悪そうにしているゾマー。さっきの勢いはどうした。僕らが誰だか分かった途端にしおらしくするなら、最初からあんなことするんじゃないよ。


「ねぇ、知ってる? 女の子ってね、一度『こいつ嫌な奴だなぁ。ムカつくなぁ』って思うとさ、例外なく一生嫌いなままなんだよ」

 唐突に話し出す僕に、ゾマーは瞬きして、何を言い出すんだって顔で僕を見る。

「相手が言い返しているうちは、まぁ態度さえ改めて今までのことちゃんと謝れば、友人としての付き合いは続けてくれるけどね。でもそこから好きになってもらったり、恋人になったり、恋愛方向に発展することは絶対にないよ。なんでかわかる?」

「……」

「嫌なことをされた記憶があるからだよ。謝って態度改めて優しく接するようにしてもね、相手は『でもこいつの本性は、女の子に嫌味言ったりバカにしたりして、それを楽しそうに笑ってやる奴なんだよな』っていうのが、根本にあるんだよ。その時点で、恋愛対象外。女の子はそういうことをやった相手は、恋をするどころか伴侶としても選ばない」

「そ、そんなの、わからないだろう!」

 僕が何を言わんとしているのか気が付いたのか、ゾマーが反論する。その自信はどこからくるんだろう。

「では女の子代表、ヘッダ、オティーリエ」

 僕に声を掛けられた二人がこちらを見る。

「君たちに、小さなころから家族ぐるみで仲の良い男の子がいたとしようか? 家族は仲が良いんだけど、その男の子は出会った当初から、ことあるごとに君たちを貶すような『ブス』とか、『バカ』とか言ってくるんだ。でも実はそれは照れ隠しで、本当は一目惚れして好意を持っていて、素直になれずにそんな態度をとってる。どう思う?」

「あらあらあら、まぁまぁまぁ。そのような殿方、実在しますの? どうかしら? わたくしの人生に、そのような殿方が傍にいる必要ありませんことよ? あ、この言い方では伝わりませんわね? 手っ取り早く、わたくしの視界に入らないように排除いたしますわ」

 にこにこ笑いながら物騒なこと言うんじゃないよ。でもヘッダは本当にやるからね。

「……気持ち悪い方。関わり合いたくありません」

 オティーリエは、まさに夏場にわく黒い悪魔を目撃したかのような眼差しで、言葉少なに拒絶した。

 二人とも、僕よりも酷い物言いじゃないか。

「これが現実。他の女の子に聞いてもいいけど、まぁ大体似たり寄ったりの答えだと思うよ。君は素直になれないなら、好きな子に対して『ブス』とか『バカ』とか言っても許されると思ってるのかな?」

「お、おもってないけどっ、でも、なんて言っていいかわかんないし」

「なら話しかけるなよ。それから近づくな」

 そう言ったのは、僕ではなく料理がのったトレイを持ってきてくれたネーベルだった。

 僕とゾマーそれから自分たちの分のトレイを各々の前において、僕の隣の席に座る。

「素直になれないから意地悪するっていう考え自体が、正気を疑う。理解できない。そういう考えを恥ずかしいとも思えない奴の気が知れねーわ」

 し、辛辣。どうしたネーベル。いつもだったらそんなこと言わないだろうに。

「お、お前に何がわかるんだよ!」

「わかりたくもねーよ。お前みたいな好きな子イジメする奴の心境なんか、誰が理解したがるかよ。くっだらねぇ」

 吐き捨てるように言うネーベルを見て、これはもしや、過去に何かあったのか?

 ネーベルの隣にいたヒルトの表情が、強張っているところを見ると、ヒルト関連でなにかあったのだと気が付いた。

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