第17話 誰も彼も身勝手

 ルイーザ先輩は打ちひしがれながらも、考えますと言って、僕らと別れた。

 公園から寮への帰り道に、僕はヘッダとオティーリエにつげる。

「ヘッダ、オティーリエ。もうこういう相談は持ってこないでよ」

 僕の言葉にヘッダは令嬢然とした笑みを浮かべ、オティーリエは申し訳なさそうな表情で頭を下げて謝った。

「申し訳ありません」

「謝らなくていいよ。この話を持ってきたのはヘッダでしょう? オティーリエは悪くない。でも、このやんちゃ娘を止められないと思ったなら、すぐこっちに連絡してね? ヘッダも最初から自分でどうにかする気がないなら手を出さない」

「気を付けますわ」

 もうしないと言わないのが、ヘッダの狡猾なところなんだよ。でもこれぐらいじゃなければ未来の王妃なんてやれないか。

「アルベルト様」

「なに?」

 躊躇いながら声を掛けてくるオティーリエに振り向く。

「……わたくしは女ですから、どうしてもルイーザ先輩の肩を持ってしまいます」

「うん」

「アルベルト様を非難しているわけではないのです。ただ、ルイーザ先輩に協力的ではないのは、どうしてですか? ベーム様にだって非があるのに……」

 オティーリエが言いたいことは分かる。

 一番悪いやつが好き勝手やってるのに、被害者っていっていいのかな? そんな感じのルイーザ先輩だけが傷つけられて可哀想だし、いろいろ悩んでいるのは不公平だ。あのクズ野郎も、ルイーザ先輩が傷ついてるのと同じぐらい傷ついて、不幸な目に遭えばいいって気持ちなんだろう。

「この話、一番悪いのはベーム先輩だよ。何から逃げてるのか知らないけれど、婚約者と向き合わず、自分の立場も考えてない。婚約者がいる身で他の令嬢にうつつを抜かしてるんだから、そりゃぁ悪いのはベーム先輩だよ」

 誰が見たって、バカじゃねーの、あいつ何やってんの? って思うよ。

「でもさぁ、ルイーザ先輩は、それでもベーム先輩のこと好きなんだよね」

 結局はそこなんだよ。

「え……?」

 オティーリエは意味が解らないって顔をするけれど、恋は理屈じゃないから。恋は感情で物を考えちゃうんだよ。

「酷い態度をとられて、婚約者としては不誠実なことをされてるのに、それでも好きなんだよ。オティーリエからすれば、なんでそんな男が好きなんだ。いいように扱われるだけだし、蔑ろにされるんだから捨ててやればいい。って思ってるでしょう?」

 僕の問いかけにオティーリエは小さく頷く。

「二人の関係を知った人はみんなそう思うよ。他にいい男はたくさんいるんだから、そんな不誠実な男にいつまでもしがみ付いてないで、さっさと捨てなよってね」

 中にはルイーザ先輩も悪いところあるだろうって意見もあるだろうけど、それを言うのはベーム先輩の肩を持つ人だろう。

「アルベルト様は?」

「うん?」

「アルベルト様は、そう思わないんですか?」

「思うよ? でもルイーザ先輩にそれを言っても、本人には響かないからね」

 むしろ逆に意固地になる。仲が良かったころの記憶が美化されて、本当は優しい人なんだって言って、あんな男やめときなって言ったところで、何がわかるんだって反発されちゃうんだ。

「ルイーザ先輩はね、本当はアドバイスなんて欲しくなかったと思うよ?」

「え?」

「ルイーザ先輩が求めているのは、自分の気持ち、恋心の共感と肯定だ。ルイーザ先輩は悪くないよ。婚約者なんだからベーム先輩は他の女生徒ではなく、ルイーザ先輩に誠実になるべきだ。ベーム先輩が好きになるのはルイーザ先輩じゃなければいけない。みたいなことを言われたかったんじゃないかな?」

 あるいは慰めてもらいたかったのか。

「僕から貰いたかったアドバイスは、どうすれば仲が良かったころの距離の近さに戻って、ベーム先輩と想い想われる婚約者になれるかってところかな。もっと言えば、ベーム先輩が自分を好きになるにはどうしたらいいんだろうってかんじだね」

 僕の話にオティーリエは理解できないと言わんばかりの顔をする。

「そんなの……」

 オティーリエは最後まで言わなかった。何を言っていいのかわからなかったんだろう。

 だってどれも無理な話だ。ベーム先輩には好きな人がいてその人に夢中。小さなころに決められた婚約は、今の段階では重い枷となって縛り付けるものに変わってしまって、婚約者であるルイーザ先輩に対して八つ当たり的な感情を持っている。

 ルイーザ先輩はベーム先輩に好かれていないのは分かっているけど、仲が良かったころがあったから、諦めきれない。

 好きな人に盲目になっている間は、外野が何を言っても聞かないんだよ。


 僕がこの手の話に首突っ込みたくないのは、母上の事があったからなんだよね。女神の干渉があったと言えども、母上もルイーザ先輩と似たような感じだったじゃない?

 母上が覚醒したのは、ヒステリーで発散した後だったからうまくいったのかも。タイミング大事。

「どうしようもできないのは分かりました。けど、やっぱりルイーザ先輩が気の毒です」

 オティーリエは基本的にクズ男撲滅したい派だからなぁ。ベーム先輩への評価は厳しいだろうし許せないんだろうけど。

「そうだね。でも、そんなに心配しなくてもいいとは思うよ」

「え?」

「人によるけれど、相手がクズであればあるほど、冷めた時の反動を考えると恐ろしいよね?」

 それこそGを殲滅する勢いで、息の根止めにかかるんじゃないかなぁ。

 女性はその辺が容赦ないからなぁ。

 まぁ、後はルイーザ先輩次第だからね。


 っていうか、ほんともう、こういう話は神経使いすぎて嫌だ。

 恋愛相談はもう二度と持ってくんなよ!

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