第14話 相談する相手を間違えている

 僕の反応はテオには不満だったようだ。

「なんだよ、アドバイスぐらいしてやったっていいじゃん」

 そう愚痴るテオの頭をクルトがパシンッと叩く。

「なんだよ!」

「なんだよじゃないですよ。アルベルト様は、アドバイスするにも悩みの軸が何なのかわからなければできないと言ってるんですよ。ちゃんと話を聞いてないなら黙っててくださいよ。ややこしくなるんだから」

 クルト、テオに対してさらに容赦しなくなってきたな。

 まぁいいや。

「ルイーザ先輩。考える時間を少し置きますか?」

「え……?」

 驚いた表情でこちらを見るルイーザ先輩に、僕は続けて話す。

「ルイーザ先輩はどうしてベーム先輩の態度が変わったんだろうとか、どうしてうまくいかなくなったんだろうとか、そういった戸惑いが先行していて、根本的なことが考えられていない状態だと思うんです」

「根本的なところ?」

「婚約者であるベーム先輩と、どうなりたいのか」

 いまいちピンと来てない感じだなぁ。

「ルイーザ先輩は婚約者だから、ベーム先輩と仲良くしたいのですか? それとも小さなころから付き合いがある幼馴染みだから仲良くしたいのですか? どちらでしょうか?」

「……両方、だわ」

 どっちか片方だったら楽だったんだけどなぁ。どこから手を付ければいいんだこれは。まずはルイーザ先輩の感情の整理から?

「では、婚約関係はひとまず置いて、ルイーザ先輩はベーム先輩のことをどう思っているのでしょうか? 幼馴染みの友人ですか? それとも友人以上の感情をお持ちですか?」

 するとルイーザ先輩はカァッと顔を赤く染め睨みつけてきた。

「そ、そんなこと、貴方には関係ないでしょう?!」

 そりゃそうだ。

「そうでしたね、不躾な質問をして申し訳ありません。ルイーザ先輩もお気を悪くされたでしょうから、僕はこれで失礼します。イジーとテオはどうする?」

「え?」

 何か言いたそうなルイーザ先輩だけど、一応こちらの非礼は詫びたからね。

 イジーもテオも僕と一緒に寮に戻ると言ったので、後はヘッダとオティーリエに任せ、さっさと撤収を決める。

「あぁ、そうだ。ベーム先輩の態度が変わった理由ですが、僕が予想できるのは三つ。一つ目はクラスメイトや友人に、婚約者であるルイーザ様と仲が良いことをからかわれた。二つ目は伯爵家の自分がランゲ子爵の婿養子となって子爵家の当主になるのではなく、入り婿になってルイーザ先輩の補佐をしなければならないことに自尊心が傷ついた。三つ目、好きな人ができたけど、どうしようもできないから婚約者であるルイーザ先輩に八つ当たりしている。この三つのうち、どれかだと思いますよ。あくまで予想の話ですので、本当の理由はベーム先輩しかわかりませんけどね」

 去り際にヘッダの言う『男心』の予想を三つばかり告げておいた。何も言わないで立ち去ったら、何か言われそうだし。

 なのに帰り道で、テオが不吉なことを言い出す。

「あれは、またアルのところに来るぞ」

「なんで? こういう相談事は同性のほうがしやすいでしょ? 僕らが出来ることなんか何もないよ」

 結局は本人同士、あと婚約が絡んでるんだから親も含めて、どうするか決めることだ。部外者の僕らに相談したってどうしようもないだろうに。

「いや、絶対に来る」

 確信をもって言うテオの予想は外れなかった。





 騎士科の訓練所見学から一週間ほど過ぎた昼休み、ヘッダとオティーリエが僕のところにやってきて、一通の手紙を差し出した。

「ルイーザ先輩からです」

 なかなか受け取らない僕の代わりにネーベルが受け取り、封を開けて取り出した便箋を僕に差し出す。

 あー、もー、ネーベル相手なら、僕が素直に言うこと聞くと思ったんだろう? そうだよ! 言うこと聞くよ! ちなみに手紙を持ってきたのがヒルトだったら、何の疑いもなく受け取ってたよ!

 しぶしぶと便箋に目を通す。

 挨拶から始まり、次に何故か謝罪が入って、次に本題の相談したいことがあるので会ってほしいと綴られていた。

「なんで僕なの?」

「さぁ、ルイーザ先輩のお心は、わたくしもわかりかねますわ」

 嘘つけ。ヘッダはこういうところが食えないんだよ。

「おそらくアルベルト様の反応が、ありきたりのものではなかったからだと思います」

 対してオティーリエは、真剣に僕の疑問に返事をする。

「普通なら、恥ずかしがっているルイーザ先輩を説き伏せて、話を聞きだすのではないでしょうか? でもアルベルト様はやめてしまいましたよね」

 普段から交流している相手ならともかく、説き伏せてまで続ける意味が、僕にはないからね。

「ルイーザ先輩に限った話ではないのですが、あぁいう場合、話の流れとしては、最後まで悩みを聞いてくれると思うものです。ルイーザ先輩は……、あそこで突き放されたと思ったのでしょう」

「初対面の相手に突き放されたって、どうってことないでしょう?」

「そうではなく。最後まで話を聞いて、一緒に考えてくれると思ったのに、中途半端に終わってしまったから、逆に気になりますよ」

 生意気な新入生の言うことなんて、いちいち気にしないでよ。

 それに婚約者とのことなら、親に相談すればいいだけの話じゃないか。

「僕に出来ることなんてなにもないよ」

「いやに渋りますのね? どうしてですの?」

 黙って僕らの会話を聞いていたヘッダが参加する。

「だってこれって、結局のところ男女間の話でしょう? こういう話はね、第三者が首突っ込むと余計に拗れるんだよ」

 しかも恋人同士の話ではなく、婚約している人たちの話なのだ。政略でなくても親が決めた婚約話なら、当人と親を交えて話し合うべきことじゃないだろうか?

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