第13話 お悩み相談なんてガラじゃない

 僕らは女生徒を連れて、上学部近くにある公園へと移動し、ちょうどガゼボがあいていたので、そこで話を聞くことにしたのだ。

 女生徒の名前はルイーザ・ランゲ子爵令嬢、上学部の三年生。先ほど一緒にいたのはウルリッヒ・ベーム伯爵令息で、二人は同じ歳の婚約者なのだそうだ。

 婚約者に対する態度だったかあれ?

 そう考えるのは僕だけではなかったのか、婚約しているネーベルとヒルトが憤然とした表情をしていたし、オティーリエも不愉快そうな顔をしていた。イジーは無表情だったけど、これは何かを考えているからだろう。

 ヘッダはというと、好奇心丸出しのニャンコちゃんになって、先輩の話に共感したような相づちをしながら、うまく話を聞きだしている。


「お互いの父親が学生時代からの友人なのよ。同じ年に生まれた子供だからと、私たちの幼い頃から婚約が決まったの」

「あらあらあら、まぁまぁまぁ。では政略的な何かがあるというわけではありませんの?」

「えぇ……、たぶんね。あるとしたら私が一人娘だから、彼に婿入りしてもらうぐらいかしら? 彼の家はお兄様とお姉様がいらっしゃるし」

 ベーム家を継ぐのは長子だから、跡継ぎではないなら入り婿、もしくは騎士団に入って功績を得て爵位を貰うのどちらか。ルイーザ・ランゲ先輩と婚約してるなら、入り婿なんだろうな。でもベーム先輩は騎士科の訓練服着てなかったか?

「ではあくまでも子爵家の当主はランゲ先輩で、婚約者様はランゲ先輩の補佐をされる入り婿以外の何物でもないと?」

「ルイーザでいいわ。皆さんもそう呼んで。そうね、ランゲ子爵家の次の当主は私よ」

 ふむ、婿なのに文官科ではなく騎士科か。なるほどね。

「昔は……下学部に入った当初は、とても仲が良かったの」

 そう言ってルイーザ先輩は昔話を聞かせてくれた。


 父親同士の仲が良いというとこで、幼少期からお互いの家を訪ね、一緒に遊ぶことが多かった先輩たちなのだが、その関係が変わったのは王立学園に入学して間もなくのことだった。

 今まで同年代との触れ合いが少なかったが、この学園都市にきて、同年代のしかも同性との交流が多くなり、ベーム先輩は徐々にルイーザ先輩との交流を疎かにし始めたそうだ。

「気持ちはわかるのよ? 私たちの領地は王都からかなり離れた場所で、同年代との触れ合いはほとんどないも同然だったから、遊び相手と言ったらウルリッヒぐらいなものだったの。この学園都市に来たら同世代の令嬢がたくさんいるでしょう? 話をするにしても同性と異性とではいろいろ違ってくるものね」

 ルイーザ先輩の言いたいことは、なんとなくわかる。王立学園に入学する年齢は、同性とのお喋りや付き合いが楽しくなる年頃だもんね。しかもそれまで同性と遊ぶということが少なかったなら、なおのことだ。

「私もここでできた友人との付き合いが楽しいし、ウルリッヒが友人との付き合いを優先したくなる気持ちもわかるの。でも……」

 そう、でも二人は婚約しているのである。

 それでも、まだ一年の頃は、月に一度の交流は守られていたらしい。

「二年になってから、約束をたびたび反故にされるようになったけれど、でも会ってるときのウルリッヒは、昔と変わらずに優しく接してくれたの。変わってしまったのは、上学部に進学して学科コースが分かれてから」

 約束を反故にされることが多くなり、加えて学科コースもわかれてしまったルイーザ先輩は、一緒に昼食をとるために誘いに行ったり、放課後訓練所に差し入れを持って行ったり、学園内での交流を増やそうとしたそうなのだが、ベーム先輩の態度が徐々にそっけないものに変わっていってしまったらしい。

 最終的には先ほど見たように拒絶されるようになったそうだ。


「どうして……、こんなことになったのかしら」

 悲しそうに呟くルイーザ先輩に、ヘッダがパンと両手を叩いた。

「殿方の考えは殿方に聞くのが一番でしてよ? ここには六人の殿方がいますわ。婚約者様がなぜそっけなくなられてしまわれたのか、お聞きしてはいかがでしょう?」

 ルイーザ先輩の婚約者様じゃねーから、心変わりの理由なんざ、わからねーわ。

 しかしヘッダの言葉によって、無駄に期待値が上がったのか、ルイーザ先輩は僕らを窺うように見つめてくるが、誰も何も言わない。

 けど、ネーベルとイジーはともかくテオたちは僕が何かを言うことを任せている節がある。こいつら僕にお悩み相談を押し付ける気だな。

「ルイーザ先輩、ベーム先輩の気持ちを僕らが予想する前に、先に聞きたいことがあります」

「な、何かしら?」

「ルイーザ先輩は、ベーム先輩がそっけなくなった理由が知りたくって悩んでいるのですか? それとも関係改善がしたくて悩んでるのですか?」

「え……?」

 悩みの基準がどこかってところなんだけどね。

「アルベルト様、理由を知らなければ、関係改善もできませんわよ?」

 ヘッダが、ルイーザ先輩の気持ちを代弁するかのように、そう言ってきた。

「理由を知らなくても関係改善はできるよ。ただし、どんな関係になりたいかによって違うけどね」

 僕の言葉にルイーザ先輩は黙ってしまう。

「ルイーザ先輩は、ベーム先輩がそっけなくなった理由を知るよりも先に、この先婚約者であるベーム先輩とどうなりたいのか、そこをちゃんと考えたほうがいいです。ベーム先輩がそっけなくなった理由なんて、大したことじゃないですから。ついでに言えば、ルイーザ先輩が原因でもないと思いますよ」

 思春期特有の意地の張り合いだけど、たぶん女性には理解しにくいことだろうな、とも思った。 

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