第11話 サロン勧誘をされた

 心配し過ぎても何もできなくなるから、オティーリエからの情報は心にとどめておくことにして、ついでに例の小説も借りて読ませてもらった。

 王子と男爵令嬢の話は確かに、王妃様の身に起きたことそのまんまの出来事で、どうやらこの小説は隣国から出まわってきたらしい。

 印象操作というか、王妃様と婚約破棄をした第二王子の行いを正当化させるために書かれたような内容だ。

 この小説が発行されたのはそれこそ僕らが生まれる前の話だけど、なんで今頃ラーヴェ王国に出回るようになったのかがわからない。誰の仕業だよ。

 もう一つの聖女の話は、オティーリエが言ったとおり、冒険譚ではなく王子と聖女の出会いから恋に落ちて結ばれるまでのことをひたすら『運命』を強調しながら書かれている話だった。なんじゃこりゃぁ。


「アルベルト様、読書ですか?」

「何の本を読まれてるのでしょうか?」

 昼休み、昼食後に中庭のベンチで読書をしていたら、クラスメイトのゼルデン・メイヤーとシューベック・ホフマンに声を掛けられた。メイヤーは子爵家の子供で、ホフマンは伯爵家の子供だ。

 ちなみにすぐそばではイジーとテオが木剣で打ち合いをしていて、リュディガーとクルトがその審判をしている。

「これ?」

 読んでる途中のところでしおりを挟んで、声を掛けてきた二人に本の表紙を見せる。

「これは?」

「聖女の物語ですか?」

「うん、友人に借りたんだ。最近これが出まわってるんだって?」

 僕の問いかけにメイヤーとホフマンは顔を見合わせる。

「女子の間では、ですかね?」

「君たちは読んだ?」

 メイヤーは頷き、ホフマンは首を横に振る。

「僕はその恋愛ものはあまり……、戦記のほうが好きでして」

「ガラール戦記、面白いよね?」

「はい!」

 ガラール戦記というのは、一介の戦士が成り上がっていく話だ。

「俺は婚約者に勧められて読みました」

「どうだった?」

 メイヤーは何とも複雑そうな表情をする。

「なんだかおかしな話だなぁっと」

「どこら辺がおかしいと思った?」

「これって悪神によって世界が脅かされて、災害や大量にでてくる魔獣問題を聖女が奇跡を起こして解決していく話のはずなんですよね? 聖女の奇跡に頼るっていうのもどうかと思うのですが、物語だからそれもありなのかな? でも、それならなんで聖女と王子の恋愛の話になるんだろうって」

 そうなんだよねぇ。そこがこの物語のおかしさなんだよ。

 過去の文献を浚っても、ラーヴェ王国の王族が聖女と結婚したなんてことはなかった。当然のごとく、どこかの世界から聖女を召喚したという話もないし、聖女が強力な結界を張って魔獣被害を抑えているなんてこともなければ、聖女の存在がラーヴェ王国の衰退に関わっていることもない。

「まるで、欲張りセットだね」

 僕の言葉にメイヤーとホフマンは不思議そうな顔をする。

「聖女の活躍と、聖女と王子のラブロマンス、どちらか一つにするか、それとも二つに分ければよかったのに、一つに詰め込んじゃったでしょう? だから欲張りセット」

 そう告げると二人は納得してくれた。

「あの……、アルベルト様、読書はお好きなんですか?」

「うん? そうだねぇ、本の虫ってほどではないけど、こういう『物語』を読むのは好きかな?」

「ジャンルは?!」

「まんべんなく? 戦記も好きだけど冒険譚も好きだし、あらすじが気になればラブロマンスものも読むよ」

 僕が答えると、メイヤーとホフマンはうずうずとした様子で身を乗り出してきた。

「アルベルト様! お願いがあります!」

「読書サロンに入ってください!」

 おや、まあ。


 学園内のサロンとは、部活動のことである。

 サロンを開設するには教職員に申請を出し、許可されたら場所と顧問が付く。長く続いているサロンもあれば、新規で立ち上げられるサロンもある。

 読書サロンは古参のサロンなのだが、年々入ってくる新入生が少なくなってきていて、定員数に満たないと解散となるらしい。

「主にどんな活動をしているの?」

「例えば課題の本を読んで、感想を言い合ったり、作品の時代考査をしたり」

「新しい本を紹介しあったり」

「面白そうだね? サロンの開催は週に何回?」

「週一です。読む時間もあるので」

 週一か。他にサロンに入ってるわけでも、しなければいけないことがあるわけでもないしなぁ。

「んー、一度見学させてもらっていい?」

「はい!」

「会長に話しておきます!」

 僕が返事をすると二人は手を取り合って喜んだ。

「次のサロン開催日にお声掛けしますね」

「うん、待ってるよ」

 立ち去っていく二人に手を振って見送る。

「あっ、ネーベルごめーん。勝手に決めちゃって」

 隣にいたネーベルにそう言うと、ネーベルは学園都市内の地図から目を離して答えた。

「いいよ。サロンって一つだけじゃないんだろう? この際だからいろんなところ見てみようぜ?」

「そうだね。学園内にあるサロン、何があるか後で調べてみようか? 気になるところがあったらネーベルも教えて。見学可能ならお邪魔させてもらうよ」

「そうだな」

 言いながらネーベルは打ち合いをしているイジーとテオを見る。

「あの二人もくっ付いてくると思うけどな」

「う~ん、イジーはともかくテオはどうだろう?」

「ついてくるよ。テオドーア様、アルのこと気に入ってるから」

 う~ん、気に入ってるっていうか、あれはヘッダと同じで、楽しいこと大好き属性だと思うぞ? ヘッダとテオの違いは、ちゃんと計算してるか、本能のまま突き進むかなんだよなぁ。

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