第10話 ヒロインの異母妹が転生者の可能性

 オティーリエもそこまでは調べられていないとのこと。気が回らなくて申し訳ないと謝られてしまった。いやいや、さすがに子供の僕らにはどうしようもできないことじゃないか?

 ちなみに、本来のラノベ原作では、財産管理人のようなものは出てこなかったらしい。

 じゃぁ、婿養子の伯爵代理は、自分のものではない資産で散財し放題だな。

「お時間を頂ければ調べますけど」

「いや、そこはあえて触らないでおこう」

 どのみちそれをどうにかするのは本人なんじゃないかな? 手を貸してほしいと頼まれたならば、協力するのもやぶさかではないけれど、今のところ僕らとアンジェリカ・ブルーメの接点は、無いからさぁ。

 ざまぁフラグに直結してくる人物とは、出来るだけ距離を置きたいのが本音。

 こんな考え方をすると、虐待を受けている少女を助けないなんて薄情とか、ヒロインを救うヒーローじゃないと言われそうだけど、でも彼女、僕とイジーのざまぁフラグを立てる運命の女ファム・ファタールなんだもの。関わってきたり近づいてきたりしないなら、触らぬ何とかだよ。

「異母妹はアンジェリカ・ブルーメ伯爵令嬢を見張ってたら、判明してくるんじゃない? ラノベ通りの、ずるいずるい、ほしいほしい妹で、異母姉を虐げることに快楽を感じちゃってる子だったら異母姉の周囲に出没するでしょう?」

 ただしそれは、王立学園に入学していたらの話だ。

 僕のその言葉に、オティーリエは思い悩んでいる様子を見せながら告げた。

「報告では、アンジェリカ様を虐待しているのは父親である伯爵代理と継母だけなんです。異母妹のハイデマリー様は、アンジェリカ様に対して、あたりが強いのは確かなのですが、アンジェリカ様のものを欲しがったり、過剰な嫌がらせや、嘘をついて貶めるようなことはしていないそうです。両親がアンジェリカ様を虐待しているときも、便乗はしないものの助けることもない。無視をしているそうですね」

 オティーリエの顔を見ると憂いの色が隠せていない。

 もしかして、ハイデマリー嬢が僕らと同じだと言いたいのかな?

 確かに僕やオティーリエのように、あの世界の記憶を持つ転生者だったりしたら、原作ラノベを知っているいないはともかく、自分の立ち位置を知って、どう思うだろう?

 ラノベ展開を知っている子だったなら、出会った頃のオティーリエのように、断罪されてざまぁされる悪役だと気づくんじゃないか? その場合、僕のように回避しようとあがくだろうし、知らなかった場合だとしても、虐待に思うところがあるんじゃないだろうか?

 でも、両親の所業や虐待を受けている異母姉をみても助けないということは、どうだろう?

 んー、やっぱり本人に会わないことには、ここであれこれ考えてもどうにもならないと思う。

「どのみち、今の段階ではどう対処することもできないよね」

 できることとしたら、イジーとの接触に気を付けることぐらいだ。

 二人の出会いを邪魔するというのも何か違う気がするんだけど、まずそれよりも、イジーはヘッダと婚約者としての交流をしなきゃいけないわけだしね。

「イジーのことは、僕も注意してみておくよ。後ヘッダとの交流は積極的にしてもらいたいから、グループ行動増やそうか?」

 イジーにとっては、いきなりヘッダと二人っきりは、ハードル高いはず。今までと同じくグループ行動を増やしていって、さり気に二人の会話を増やしていってもらうしかない。

 あ、テオはヘッダがイジーの婚約者になったこと知ってたっけ? そこも確認しとかなきゃなぁ。

「あと何か気になることとかある?」

「最近出まわっている小説が気になります」

 言いながらオティーリエは、テーブルの上に二冊の本を置いた。

「一つは王子様と男爵令嬢の恋物語なのですが、おそらくこれは、王妃殿下の国での出来事を叩き台にして作られたものではないかと思うのです。いわゆるシンデレラストーリーです」

 オティーリエが言うシンデレラストーリーは、ネーベルたちにはわからないので、不思議そうな顔をされてしまう。

「シンデレラストーリーって?」

 ネーベルは分からないことがあると、すぐに聞いてくれるからありがたい。

「不遇な生い立ちで苦労していた女性が、身分の高い相手と出会って恋に落ちて結婚する物語のことを、総じてシンデレラストーリーって言うんだよ。シンデレラっていうのはヒロインの名前なんだ」

「オティーリエ様がさっき言ってた、虐げられたなんちゃらって話も、シンデレラストーリーか?」

「まさにそれ!」

 理解が早くって助かる~。って話の途中だった。

「中断させてごめんね、もう一つは?」

 慌ててオティーリエに向き直り話の続きを促す。

「こちらは聖女が試練を乗り越えて、一緒に問題解決をした王子と結ばれる話です」

「……勇者とか英雄とか、護衛騎士とかではなく、王子?」

「はい、王子です」

 室内が沈黙に包まれる。

 この手の物語において、聖女のバディから恋の相手になるのは護衛騎士、もしくはパーティーを組んで冒険する、勇者もしくは英雄、または剣士のはずだけど……。

「その聖女の話はジャンル的に何になるの?」

「冒険譚という形にはなってるのですが、殆ど聖女と王子の恋愛描写ばかりで……」

 それ以上は何も言えないと言った様子のオティーリエとは対照的に、ヘッダがそれはもう楽しいと言わんばかりの表情で告げた。

「作為を感じますわねぇ。この小説が出まわって得するのはどなたかしらぁ」

 やめて! 次から次へと厄介ごとが湧いてくるの、本当にやめて!!

「ヘドヴィック様。不謹慎ですわよ」

「あらあらあら、真面目さんですわね。こういったことは楽観的に考えませんと病みますわよ?」

「だからって、茶化す話でもないでしょう?」

 またヘッダとオティーリエがガルガル始めるけど、僕は仲裁する気力もなかった。

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