第6話 どの世界だって子供の教育には金がかかる

 下学部で受ける授業は七つある。ラーヴェ王国の母国語、いわゆる国語、次に算術、国内歴史、国外歴史、魔術学は実技と座学の二つ、それからマナーの授業に分かれているのだ。

 ここにマナーの授業があるのは、この学園に通うのが、貴族だけではなく平民もいるからだ。


 王立学園の下学部までは、貴族の子女は必ず通うことが義務付けられていて、それ以外にも平民の受け入れもしている。

 とはいっても、何もしないで入学できるわけではなく、入学試験はちゃんとあるし、合格点に届かなければ、貴族の子供でも入学はできない。だけど、この試験に受からない貴族の子供は、よっぽど知能に問題ありというぐらい、簡単なものだ。

 下学部の学費は、寄付金から賄われているから、例えば子沢山でお金のない貧乏貴族でも試験さえ受かれば入学できる。

 それは平民も同じで、商家の裕福な子供はともかく、それ以外の平民はどうやって? となるのだが、大体は神殿と教会からの推薦で、入試を受けることになる。

 神殿と教会では平民の教育も引き受けていて、その中でも知能が高い子供には声を掛け、王立学園に行って本格的な勉学を身に付けるように勧めるようにしているらしい。この場合、学園に通う平民の後見人は、推薦した神殿と教会になる。


 下学部までは、お金のない平民や貴族のために、一切の学費免除と学園で生活できるように補助金も賄われる。ただし、途中で退学になった場合、貴族は賄われた補助金を返金しなければならないし、平民の場合は学園が紹介した職場で、学費以外にかかった費用を返済する仕組みになっているのだ。

 まぁ、下学部で中退って、よっぽどのことだと思うし、でも過去になかったわけでないんだよね。そして中退したのは軒並み貴族の子女で、平民はいないんだって。平民からの入学生は、将来がかかってるっていうのもあるけれど、そもそも勉強嫌いな子や持続力がなさそうな子に、神殿や教会も声を掛けたりはしない。学ぶ意欲がある子供にだけ声を掛けているわけだから。

 そして後見人でもあるので、もし在学中に、学業や人間関係のことで、悩みや問題が発生した場合のケアーとして、学園都市内にある神殿と教会に頼るようにと言っているらしい。

 学園都市にやってくる平民は、将来貴族と接する職業に就くこともあるから、そのためのマナーの授業。

 もともと出来ている貴族の子供からすれば、今更? な内容でも、平民はそうではないし、そしてこれは大きな声では言えないのだが、貴族の子供でも基礎のマナーが出来ていない者もいるのだ。

 マナーが出来ていない貴族の子供の殆どは地方貴族出身だ。それも子沢山の家で、第二子以降の子供。

 理由はいろいろあると思うのだけど、大体はそこにお金が掛けられないと言ったところかな? だったら計画性なく子供を作るなってことになるんだけど、こればっかりはねぇ? 子供も教育も、できるところはできるしできない所はできないもんなんだよ。

 それに裕福であっても教育を疎かにしている貴族もいるからね。

 なんて言うか、後継者教育に興味ないというか、自分の後の代のことを考えていないみたいなやつね。

 まぁそう言う当主の家は、そんなに長く持たない。だって子供の使い方がなってないんだもん。そりゃぁ落ちぶれるわ。

 何をするにしてもさ、金が掛かるのは当たり前なんだよ。子供の教育は先行投資とおんなじ。

 こんなこと、二十一世紀の日本で言ったら、ぼっこぼっこに叩かれるだろうけれど、ここは日本とは違うからねぇ。

 ……やっぱりヘッダのご先祖様、転生者だったんじゃないか?


 で、入学からひと月。あれやこれやしながら、学園生活でやること一通りやって、少しだけ余裕が出来た頃に、オティーリエとお話しすることになった。

 今回は一対一じゃなく、ネーベルとヒルトとヘッダも一緒。イジーとテオには申し訳ないけど、今回は席を外してもらった。

 場所は僕らの寮館の来客室。

 前にも言ったけど、僕らの館は王族が入学したときのみに使われる。その入学したのが同性だけじゃない場合もあるじゃない? その時はどうしてるのかと聞いたら、一緒なんですって! 兄弟だから問題ないっていうくくりらしい。なんかやべーわ。これはちょっと改善したほうが良くないかと思ったんだけど、そういうのを考えるのは大人の仕事なので、お口チャック。そのうち誰かが何とかするだろう。

 それとテオは辺境伯家の人間なんだから、通常だったら高位貴族寮に入るはずだったんだけど、母方の祖母が先代王姉殿下、そして今期からこの寮館が使われるので、どうしますかという打診があったらしい。僕らと一緒のほうが楽しいから、こっちを選んだそうだ。

 それだと、オティーリエも、祖母が先代王姉殿下なのだから、話があったはずだよね? 異性だからされなかったのかなと思って聞いてみたら、一応話はあったそうだ。

 でも自分は女子だし、男性ばかりのところは嫌だと言って断ったそうだ。

 まぁ……、オティーリエって男性恐怖症とまではいかないけれど、男嫌いなところがあると思うから、そりゃぁ断るか。


「今日はお時間を頂きありがとうございます」

「ううん、こっちもね、話しておきたいことがあったし。あ、それから先に謝っておくことがあるんだ」

「なんでしょう? わたくしからアルベルト様に謝罪しなければいけないことは、それこそたくさんありますけれど、アルベルト様からというのはないのでは?」

「僕だけではなく、君も異世界から転生したという話をね、ここにいる全員にしちゃってるんだ。君の許可を取ることなく、話してごめんね?」

 するとオティーリエは一度瞬きした後に、そんなことかと言わんばかりの顔をした。

「わたくしへの配慮、ありがとうございます。あのことをアルベルト様がここにいる皆様にお話しになったということは、話さなければいけない事情があったということでしょうし……」

 そう言ってオティーリエは少し顔を伏せながら、自嘲じみた笑みを浮かべた。

「そう、ですか……。クレフティゲ様やブリュンヒルト様のこと、アルベルト様は心の底から信頼なさっているのですね。わたくしには、できなかったことです。羨ましいというよりも、そういう人間関係を構築できなかった自分の不甲斐なさを思い知らされます」

 そこまで言うことはないと思うんだけどな。

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