第5話 代表の決め方に物申す
あっという間に日にちが過ぎて、入学式当日になった。
王立学園の制服は、基本がシャツとネクタイにベスト、男子はスラックス、女子はくるぶしからひざ下丈のスカート。そしてブレザージャケットではなくケープだ。夏場はケープがなくなる。
ベスト、スラックス、スカート、ケープは、黒に近い濃紺色で。シャツはどんな形でもいいけれど、色は白と決まっている。
そしてネクタイは学年ごとに違っていて、今年の新入生は緑、二年生は黄、三年生は赤、四年生が紫、五年生が青。今の五年生が卒業して、新しい新入生が入ってきたら、卒業した五年生の青が新入生の青になる。
靴は革靴かブーツ。これはどっちでもいいらしい。僕は、夏だけ革靴で、後はブーツにしようと思う。
ラーヴェ王国は、和ではなく洋の要素が多いから、てっきり入学式とか新学期とかは、夏なのかと思ったんだけど、そこは日本と同じだった。ちなみに年度末の決算締めとかそういうのも日本と同じ。ところどころ和と洋がチャンポンになってる世界なんだよねここ。
早くもなく遅くもない時間帯に寮館を出て、下学部の敷地内にある講堂へと向かうと、結構な数の生徒が受付をしている。
僕らも受付をして講堂内に入り、新入生の席に着く。
「結局、新入生代表、どうなったんだろうな」
あー、すっかり忘れてたことを思いださせないでよ。
「誰だっていいだろう」
テオの言葉にイジーがむっとしながら答える。
「そうだけど、誰になったか気になるじゃん? あんだけ偉そうに捨て台詞吐いていったんだからさ」
「興味ない」
「んだよ。アルは?」
やだぁ、こっちに振らないで?
「誰でもいいよ。テオの案が採用されるのが、今後のためになるとは思うけどね」
王立学園を作り直したヘッダのご先祖様だって、学ぶ場所に貴族のあれこれを差し込む気がなかったら、新しくしたんだろうしさ。
結局のところ新入生代表の挨拶は、無しになっていた。わぉ、思い切ったことをしたねぇ。
結果的には良かったんじゃない? 貴族の面子を気にするなら、いっそうのこと、そういうごたつく原因を取り除くほうがずっといいよ。
入学式が終わった後は、学舎の傍に張り出されたクラス表の確認だ。
この王立学園、クラス分けも異世界ファンタジー学園モノとは違って、成績順でクラス分けがされているのではなく、均等配置になってる。そしてクラス名称もABCではなく、花の名前なんだよ。雅やか!
クラスは5クラスで、ローズ・リリー・カメリア・オスマンサス・ネモフィラ。
それで、僕とネーベルとヒルトはオスマンサス、イジーとテオ、リュディガー、クルトがリリー、ヘッダとオティーリエがカメリアと、もののみごとに分かれた。
そりゃぁ分かれるよね。全員同じクラスだったら、担任の胃に穴が開くと思うよ?
下学部でのクラス替えはないので、二年間は同じ顔ぶれになる。
「兄上と違うクラス……」
「仕方がないよ。兄弟だもん」
クラス分けを見てがっくりしているイジーに声を掛けると、驚いた顔をされた。
「え? 兄弟だと一緒のクラスになれない……?」
「んー、絶対、とは言い難いけどたぶんね。あと、僕らは王族だから、分散させないと先生の負担が大きいでしょう? 昼休みは一緒にご飯食べようね」
「はいっ!」
イジーのご機嫌を取って、それぞれのクラスに移動。
教室に入ったら、そりゃまぁじろじろ見られますわな。
以前お茶会で顔を見たことがある令息たちの何人かに挨拶に来られて、こちらこそよろしくと挨拶返しをして席に着く。
今日は授業スケジュールなどの、こまごまとした説明を担任から聞かされるだけで、本格的な授業は明日からになる。それから自己紹介とクラス代表や委員決め。
案の定、担任が代表に僕の名前をあげて、やるでしょう? やりたいでしょう? 引き受けるよね? っていう心の声が駄々洩れだったので、辞退させてもらった。
理由は、何かの提案事があった場合、王族の僕に気を使ったり遠慮して、イエスマンだらけになることの懸念。ちゃんとした意見交換ができない可能性があること。僕に任せておけばいいと思って、自分で考えることを放棄するからだと説明して、こういうことはやる気がある者、やってみたいとおもう者にやらせるべきとも付け加えた。
僕が王族だって知られてなかったら、代表を引き受けるのもやぶさかではなかったけど、第一王子殿下だって知られてるのに、その立場に入れさせるのは駄目でしょうが。こういう場合の僕の立ち位置はオブザーバーにさせて、意見にまとまりがなかったり、話し合いに協力的では無かったりした場合に、口を出させるものなんだよ。
立候補の提案して、やってみたい人手をあげてと募ったら、何人かが手をあげたので、紐に印をつけたくじ引きで決めさせてもらった。
ったくよぉ、僕はのびのび学園ライフを満喫しに来たんだっつーの。自主性を伸ばす教育はどこ行った。
新入生代表の話といい、クラス代表の押し付けといい、なんだか厄介ごと押し付けられそうだから、日記ではなく学園内の出来事日誌みたいなの、ちゃんと書いておこう。
放課後、イジーたちと待ち合わせをして一緒に帰る途中に、この話をしたら、どうやらイジーも同じように、クラス代表に選ばれそうになったようだ。
王子だからクラス代表というのは違うだろうとのイジーの一言で、他の人に決まったようだが、テオは始終そのことで笑っていて、全然自分に協力してくれなかったとイジーが拗ねていた。
「だってさぁ、確かにイジーの言う通りなんだけど、でも本音が、代表なんかになったら、アルと放課後遊びに行けないっていうのが、もろわかりなんだもん」
けらけらと笑い転げているテオに、イジーが恨めしげな視線を向ける。
「じゃぁテオが代表になればよかっただろう」
「やだよ。そんなの引き受けたらお前らと一緒に遊べないじゃん」
初対面では一方的にイジーが突っかかってたけど、随分慣れ親しんだようだね。
だけどテオ、からかいすぎるとイジーに嫌われるから、ほどほどにしなよ?
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