第4話 子供だからってなにも考えてないわけじゃない

 なんかこの話このままにしておくと、イジーにまで飛び火しそう。

「ランツェ、イジーとそれからテオも呼んできてくれる?」

「かしこまりました」

 ランツェはすぐにイジーとテオを呼んできてくれた。

「アル~? お客さん帰ったのかぁ?」

「兄上、お呼びと聞きました。どういった御用ですか?」

 テオはいつも通りだったけど、イジーは、いつもより声を弾ませていたのだけど、室内にまだお客さまが居ることに気づいて、スンとした顔になる。

「二人ともこっち来て座って」

 手招きするとイジーはすぐに僕の隣に腰を下ろし、テオもイジーとは反対側に座る。

「イジー、新入生代表の挨拶したい?」

 僕がそう問うと、イジーは嫌そうな顔をして間を置かずに答える。

「嫌です。したくありません」

「即答かぁ。ちなみにどうしてやりたくない?」

「……新入生代表の選抜理由がわからないから」

 よかったー、ブラコン全開で、『代表は兄上こそふさわしい』とか、そんな考えじゃなくって。

「理由が分かったら、引き受ける?」

「内容によっては、あと、俺が納得できるなら」

「テオは?」

 テオに話を振ったら、こっちは素直に本音をぶっちゃけた。

「なんでそんな面倒なことしなきゃいけねーんだよ。首席にやらせろよ、首席に。こういうのって大体首席がやるもんだろ?」

 だよねぇ。

「アルはどうなんだよ?」

「テオと同じ。王族だから代表やれっていう考え方は受け入れられない」

 本当のところを言うと、僕もイジーもテオも、これからのびのび学園生活満喫したいのに、代表で存在を下学部の生徒に知らしめちゃったら、絶対騒がれるから、やりたくねー! ってところなんだよね。


「まことに残念な結果となりました。女子のほうに頼んで?」


 そんなわけで、学長と秘書に、新入生代表はお断りする。

 女子連中も、アイン……いやオティーリエはわからないけど、ヘッダとヒルトは断りそう。ヒルトは自分以外の適任がいるって考えそうだし、ヘッダはこういうことあんまり興味ないだろうからなぁ。っていうかヘッダはたぶん首席が挨拶することを知ってるから、まず先に誰が首席だったか聞いてくると思うぞ?

「じょ、女子には、すでに断られているんです」

 学長が情けない声でそう告げる。あー、もうお断り済みだったのかって、オティーリエも断ったの? あの子素直だから、ヘッダに煽られたら、誘導されて引き受けそうな気がしたんだけど。

「これって、なんの話?」

「新入生代表の挨拶やってっていう話」

「……なんでアルに頼んできたんだ?」

「第一王子殿下だから」

「学業の平等はどこ行った?」

「貴族の面子があるんだって」

 テオの疑問に僕が答えていくと、気まずい空気になる。わかる、わかるよぉ~。学業の平等謳ってるのに、教職員が進んで貴族ファーストしてんじゃねーよって事でしょ?

 問題は、寄付金絡んでるからってところよ。王立だからさぁ、国家予算から学園都市にも費用出てるし、創立者のハント゠エアフォルクからも運営費出されてるけど、それだけじゃ、この都市の運営は賄えないからね。寄付金は貰ってる。

 僕との会話の後、考え込んでいたテオが、口を挟んできた。

「だったらさぁ、いっそのこと新入生代表は平民にさせたらどうだよ。貴族が勉強できるのは当たり前だろ? 勉強できる環境があるんだから。だったら家の手伝いとか働きながらとか、そういう苦労しながらも勉強して、入学してきた平民のほうがよっぽど立派じゃねぇか。代表っていうのは、そういう奴にやらせるべきだろうよ」

 ですよねー。

「寄付金はさぁ、賄賂じゃないよね?」

 僕が言うと学長がびくぅっと体を縮こませる。

「今年はハント゠エアフォルク公爵令嬢が入学してるし、創立者の関係者なんだから、このままだとちょっとまずいと思うよ?」

「子供に……何がわかるんですか」

 秘書が漏らしたつぶやきは、僕にもテオにもイジーにもしっかり聞こえてしまった。

「そりゃぁ、悪かったな子供で」

「大人の領分なら大人に任せる。だったら兄上に頼ってくるな。トロイ、お客様のお帰りだ」

 あらら、イジーもテオもへそ曲げちゃった。しゃーないか。子供だからって何も考えてないわけじゃないんだもんね。

 イジーの執事が学長と秘書に退室を促し、二人は立ち上がって来客室を出ていく。

「次はちゃんとした自己紹介してね」

 二人の退室間際に僕がそう言った途端、ものすごい勢いでこちらを見る秘書に、僕は笑顔で手を振って見送った。

 あの様子だと、ダーフット・ザルツは秘書と名乗っていたけど、ただの秘書じゃねーな。だって学長がちらちらダーフット・ザルツに視線を向けて、気にしている様子だった。

「なんだったんだ?」

「さぁねぇ、どんな話を聞いてたかはわからないけれど、傲慢な王子様である僕に代表の挨拶をさせて持ち上げておけば、ご機嫌取りになるとでも思ってたんじゃない?」

 なんでそんな考えになったかは、なんとなくお察し? 我儘王子様ってどこかで聞いてたんだろうなぁ。貴族の間ではあの話は、いわゆる第二王子派が流したデマって浸透しているんだけど、まだまだ知らない人もいるだろうし。

「あの者たちは、まだあんな嘘を信じてるのか?」

 憤りを隠せないイジーに、それだけではないということを伝えた。

「かもしれないって話だよ。もしかしたら試してたのかもしれないしね」

「え?」

「学園の秩序を乱す異分子は早めにご退場願おうって思うのは、管理者側からしたら当然だよね。でも、噂は本当か嘘かわからないから、どんな人間か試しに来たとも取れるよ?」

「試すっていう態度じゃなかっただろうよ、あれは」

 そうなんだけど、見方を一つに固めるようなことを言わないで。イジーには偏った物事の捉え方をして欲しくないんだから。

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