第2話 学園都市散策

 テオも学園都市にようやく到着したので、皆で寮館から下学部の学舎までどれぐらいかかるか散策しようということになった。

 僕らのいる寮館は、下学部と上学部の中心にあって、それ以外の寮は、下学部なら下学部の学舎に近い場所に、上学部なら上学部の学舎に近い場所にある。

 そして徒歩で通える距離なので、馬車通学禁止。そうだよねぇ~。その馬車、誰が管理すんのって話にもなるし。


「話には聞いてたけど、全面道路整備がされてすごいね」

 この学園都市、昔は大きな要塞だったのかな? 周囲はぐるりと高い石塀で覆われていて、その中に街があるって感じ。

 でも植栽された芝生や街路樹はあるけど、全部人の手が入ってる感じなんだよな。

「お褒めにあずかり光栄ですわ」

 唐突にかけられた声に、うぉっと飛びのいたのはテオだった。

「御機嫌よう、皆様方」

 にこにこ笑って声を掛けてきたのはヘッダだった。傍にはヒルトと、そしてアインホルン公女。

「こんにちは。ヘッダたちも、もう学園についてたんだね」

「もちろんですわ。散策でして?」

「とりあえず、寮館から下学部の学舎までの道のりをね」

「ご一緒してもよろしくて?」

 僕がほかのみんなを見ると、テオがコクコクと頷き、イジーも同意を示す。

「いいよ。そっちは?」

 そっちというか、アインホルン公女になるんだけどね。ヒルトはネーベルの姿を見たら一目散にそばに寄って行ったし、ここでの返事が必要なのはアインホルン公女のみだ。

「構いませんわ」

 ヘッダが返事をするんかい! まぁいいけど。

 お子様だけでぞろぞろと行動することになるけれど、一応離れた場所で護衛がくっついてるし、それにここ、スラム街はないし、ガラの悪いチンピラとかもいないから、大丈夫でしょ。


「そう言えば、お褒めにあずかりって言ってたけど、学園都市ってハント゠エアフォルクと関係があるのか?」

 テオの質問に、ヘッダは上機嫌で答える。

「この学園都市を作ったのはわたくしのご先祖様ですの」

 ヘッダの話によると、この学園都市ができたのは、今の国王陛下から三代前の国王陛下の時代で、当時ハント゠エアフォルクに婿入りした王族が、学校と謳いながらも、学ぶ場所として機能していない王立学園にテコ入れして、この土地を買い取り、新たな学園都市として作り直したそうだ。

 そして今現在も、学園都市と王立学園は、ハント゠エアフォルクが全面的にバックアップして管理しているらしい。

 ハント゠エアフォルクは、多くの魔術師を輩出しているけど、それは魔術に限らず学ぶことが好きだという人間が多いということだ。


「当時は、今ある領地経営科・淑女科・文官科・騎士科の四部門がなく、魔術の授業もございましたのよ。まぁ今でも、下学部には、魔術の基礎授業はありますけれどね。ご先祖様が管理する前までは、なんというか、ただ貴族の子女を一か所に集めて、お勉強させましょうと、やる気があるんだかないんだかわからない状態でしたのですって」

 そこに物申すとなったのが、ヘッダのご先祖様だったらしい。

「教会とのトラブルもありましてね。そこで今までの学校としてまったく機能していない学園を全部解体して、一から作り直すことにしたのです」

 最初の二年は、今まで家で習っていた復習の授業と、魔術の基礎の授業で、そこでこの学園でやっていけるかいけないかを確かめるらしい。

 そしてこのまま進学できる生徒が、上学部にあがり、自分が進みたいコースを選ぶそうだ。コース選択は家の事情もあるから、必ずしも自分が受けたい学科に行けるということはないよね。


「教会とのトラブル?」

 不思議そうに訊ねるイジーに、ヘッダは答える。

「ウイス教には女神の加護を持つ『聖女』がいますでしょう? 魔力の属性が光だとか、治癒魔術が使えるだとか。そういった教会からの肝いりの『聖女』が、王族や高位貴族相手にトラブルを起こしたそうですわ。どのようなトラブルだったかは、あえて申し上げませんけれど」

 ハニートラップかな? 婚約を結んでいる生徒にちょっかいかけて、『真実の愛』でいろんなところの婚約を壊していったんだろうなぁ。

「そこで、魔術に関しては専門的な魔術塔に全部一任して、この学園では基礎である魔力の使い方のみの授業を行うということになりましたの。当り前ですわよねぇ、魔術は魔術師に任せるのが妥当ですもの」

 餅は餅屋ってことだね。

 上学部にあがる前に、進路指導があって、そこで魔術師になりたいものは、上学部にあがるのではなく魔術塔へのコース変更になることが選べるらしい。

「学園が一度解体になったのは、その教会とのトラブルも、理由のひとつだったのかな?」

「その通りですわ。この学園都市を作ったご先祖様は、魔力がないに等しい方だったそうですわ。でも、学ぶことが大好きな方でしたので、この学園都市が出来る前の王立学園のありように、とても憤慨されたそうですわ」

 ヘッダの返事にやっぱりなーっと思った。

 この学園都市を作ったヘッダのご先祖様って、転生者だったんじゃないかなぁ? そんな感じがするよねぇ?


 話しながらあっという間に、下学部の学舎の前に到着した。

 んー、造形的にベルサイユ宮殿を連想させる。僕、こういう建築好きかもしれない。建物の意匠とかめちゃくちゃ気になる。早くここに通いたいなぁ。


「この近くには何があるんだ?」

「慣れるまでは都市内のマップ、持ってたほうがいいな」

「授業が終わったら寄り道とかしてーな」

「ここの近くに、下学部生徒専用の飲食店や雑貨屋があるようですね」

「寄ってみたいですわ」 


 学舎を眺めている僕の後ろでネーベルたちがワイワイ話し合ってる。

「アルベルト殿下」

 一人会話に加わることがなかったアインホルン公女が、学舎をガン見している僕に声を掛けてきた。

「ん? なにかな?」

「いろいろご配慮いただき、ありがとうございました」

 そう言って、アインホルン公女は僕に深く頭を下げた。

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