王子様の学園生活(一年生)

第1話 学園生活始まります

 十三歳になりました。

 ここで少し王立学園の説明をしておこう。

 ラーヴェ王国の王立学園は十三歳から十八歳まで約五年間通うことになる。

 そして学園がある場所は丸々一つの都市、いわゆる学園都市となっていて、一・二年生を下学部かがくぶ、三・四・五年生を上学部じょうがくぶと呼び、学び舎が分かれている。

 ついでに全寮制だ。そう、王族も貴族も特待生の平民も、みーんな寮生活。

 とはいっても、防犯とか貴族の面子とかがあるので、寮も下学部と上学部に分かれ、さらに上位貴族と下位貴族は別々の建物だ。


 そして王族はさぁ、また別なんだよ。これおかしくない? 何のための寮生活? 集団行動を身に付けさせるための寮生活でしょう? 王族には集団行動必要ないっていうなら、そもそも学園に通う必要もねーだろ?

 王族が通わないときは、その建物どうしてんだよ、維持費半端ねーだろうが。こういう無駄遣いが、平民の生活をひっ迫させる原因になるんだよ。クソが。

 と、言うわけで、僕とイジーだけが住まうはずの寮という名の館には、ネーベルと僕のところの双子にマルコシアス家から派遣されている数人の使用人、イジーの側近候補であるリュディガー・ベーレゼンハイト、王宮から派遣されている使用人、そして北方辺境伯の末っ子テオと、側近のクルトとテオのところの使用人の数名が滞在することになる。

 さすがに女子は招き入れませんよ。そこまで距離感バグってないし、良識だってちゃんとあるから。


 入学の一週間前に入寮して……って言ってもさぁ、王族専用の寮には、寮長とか寮管理人とかはいないんだよねぇ。まぁ僕らが生活しやすいように使用人たちがあれこれ整えてくれた。

 イジーの使用人は王妃様が厳選した人たちで、僕のところの使用人たちと衝突することなく、上手くやってくれている。テオのところの使用人たちとも話し合いをして、連携をとって僕らのお世話と館内の管理をすることになったそうだ。良き良き。


 それから、イジー……イグナーツのことなんだけど、フルフトバールでテオと知り合った話をしたら、なんか拗ねられちゃったんだよね。ちゃんとお土産だって持って帰ったのに、不貞腐れられた理由は、『弟の自分は愛称で呼ばれてないのに』だった。

 テオは僕らの再従兄弟だよって言ったんだけど、久々にあれやられちゃったわけだよ。

 ずるいずるい! 再従兄弟だからって愛称で呼ばれるのずるい! ってね。

 姉妹格差の強欲妹が頻繁にずるいずるいをやるのと違って、普段聞き分けの良い我慢強い弟にやられると、結構堪えるんだわ。いや同じ歳なんだけど。しかも僕愛称呼びされてずるいじゃなくって、僕愛称呼びされてずるい、なんだもんねぇ? そんなわけで、イグナーツのことはイジーと愛称で呼ぶことになったのだ。


 僕らは入学の一週間前に入寮したんだけど、テオは入学三日前に学園都市にやってきた。


「よぉ! アル! ネーベル! 久しぶり~!!」


 僕の姿を見たテオは笑顔で手を振りながら駆け寄ってくる。その姿はやっぱり黒毛のハスキー犬を連想させる。

 パンパンッとハイタッチをしていると、ネーベルがイジーを後ろから拘束し、リュディガーがイジーの口を塞いでいた。

「相変わらずだね」

「メッケルに帰ってから兄上たちに扱かれてたからな! やっぱアルたちとの魔獣狩りは忘れられねーわ」

「お前! 兄上を気安く愛称で呼ぶな!!」

 ネーベルとリュディガーを振りほどき、テオに詰め寄るイジーに、テオはきょとんとした顔で僕と見比べる。

「弟のイグナーツだよ。イジー、こっちは前に話したテオドーア。メッケル辺境伯のご子息で、僕らの再従兄弟だよ」

「……あっ! お前がアルの弟か!」

 僕が紹介するときょとんとしていたテオが、ぽんと手を叩いた。

「だからアルって呼ぶな!」

 自分の話を全く聞いてない感じのテオにイジーは噛みつく。

「ネーベルだって呼んでるじゃん」

「ネーベルは兄上の側近だからいいんだ! でもお前は……なんか、駄目だ!」

「なんでぇ? あ、もしかしてアルのこと取られると思ってんのか? お前めちゃくちゃブラコンだな!」

「っ~!!」

 にぱっと笑顔で屈託なく図星をつくテオに、イジーは自分の中の感情が言語化できないのか、地団駄を踏んでるような顔をする。

「兄上!」

「はいはい、イジー。ちゃんと挨拶しようね?」

 僕がそう言うとしぶしぶと言った様子で、テオに挨拶をする。

「イグナーツ」

「俺はテオドーアだ。気軽にテオって呼んでくれ」

 テオはそう言ってイジーと強引に握手をした。おぉう、さすが光のコミュ強。ヒヒイロカネ級のメンタルだ。この調子でイジーを振り回してくれ。僕はどうもそういうの得意じゃないからなぁ。ってクルトとも目が合う。

「クルトも久しぶりだね」

「お久しぶりです。アルベルト様も、マイペースなところはお変わりなく」

 クルトはちらりとテオに噛みついてるイジーに視線を移しながら挨拶してくれる。

「同年代と触れ合うことが、少なかったからかなぁ」

 お茶会とかしてたけど、誘拐事件があってから自粛傾向になったし、でもリュディガーが側近になってから、これでもちょっとは変わったと思うんだよね。

「アルベルト様たちのところは結構複雑ですからね」

「懐いてくれるのは嬉しいよ。いがみ合うよりは、ずっといい」

 まぁイジーの場合は王妃様の教育のたまものだよな。僕が国王にならない理由を理解した後も、こうやって慕ってくれるのは、本当に有り難いよ。

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