第27話 今まで内緒にしていた話をすることにした

「ヘッダ様、ご挨拶が先です」

「あらあら、わたくしたちの仲じゃありませんこと?」

 こうやってみると、まるでヒルトはヘッダの秘書のように見えるなぁ。もしかしたらこれは、将来僕のお嫁さんに仕えると決めているヒルトの、予行練習なのかもしれない。

 まぁヘッダほど破天荒なお嬢さんはいないと思うけれどね。


「こんにちは、ヘッダ、ヒルト。いらっしゃい。いきなり呼び出して悪かったね」

「御機嫌よう、アルベルト様、ネーベル様」

「あ、アルベルト様、ネーベル……。ご無事でよかった」

 ヒルトは僕の顔を見て、表情を和らげる。

「たくさん心配かけちゃってごめんね」

「いえ、大きな怪我をされてなかっただけでも、良かったです。それから……、生きていてくれて、本当に、良かっ……」

 喉を詰まらせ俯くヒルトを見て、僕はつんつんとネーベルを肘で突っつく。ネーベルは僕とヘッダとそれからヒルトをかわるがわる見てから、ヒルトに近づきハンカチを差し出した。

「心配かけてごめん」

 ごめんと言いながらも、ネーベルはヒルトに、もう危ないことはしないとは言わないし、それから泣くなとも言わない。

「今度は、連れていくから」

 ネーベルの言葉にヒルトは顔をあげる。

「一緒に、ついて行こう」

「うん!」

 ネーベルの言葉にヒルトは何度も頷いた。

 アオハルだねぇ。

 なんだかさぁ、うらやましい以前に、あんなふうに想える相手が、僕にもできるのかなぁ? って思う。

 極端な話、マルコシアス家は平民相手でも嫁にできる。けれど、やっぱりうちは貴族だから、貴族としてやっていける相手じゃないと駄目なんだよ。

 だから、結婚相手は貴族の令嬢で、ついでにその相手と恋が出来ればいいってくらいに考えておけばいいかな?

 ヘッダはどうだろう。ヘッダの道はもうほぼ確定だ。何事もなければ第二王子殿下の婚約者候補から婚約者となり、そのうち王太子妃になる。

 イグナーツくんとどんな関係を築くかは不明だけど、今のところ、それが恋になりそうな感じではないよねぇ。

 唸りながら考えていたら、シルトが呼びに来た。

「アルベルト様、お茶の用意ができました」

 双子に案内され、茶会によく使われる部屋へと通される。

 円形のテーブルセットには、すでに茶菓子と茶器がセットされていて、あとは僕らが席に着くだけ。

 僕を挟んだ左右にネーベルとヒルトが座って、僕の正面にヘッダが腰を下ろす。

 ランツェがいれた紅茶をシルトが給仕して、双子は一礼して部屋から出ていった。と言っても部屋の扉は少し開いてるし廊下には使用人たちが待機しているのだろう。


「みんな今日は来てくれてありがとう」

 まずは僕の急な呼びかけにもかかわらず来てくれたことに対して礼を言う。

「今日ヒルトとヘッダに来てもらったのは、ヒポグリフを斃した後、僕とネーベルに何があったかっていうことと、それからみんなに聞いてもらいたい話があるからなんだ」

 そう告げて、まず、僕とネーベルがヒポグリフを斃した後、どこに飛ばされて何があったのか、ヒルトとヘッダに話すことにした。


 先に話したのは、シルバードラゴンから聞いた話、それから僕には生まれ変わる前の異世界の記憶が残っていることだ。そしてこの異世界の記憶があることを知っているのは、ネーベルだけで、できれば二人にも、他の人には話さないでもらいたいとお願いした。

 ヒルトもヘッダも、僕の話を茶化すことなく真剣な表情で聞いてくれた。

「壮大な話になっておりますわね」

「でも加護はよく聞く話です。私の家ヴュルテンベルク家も、剣の神シュヴェルの加護を受けています。何十年かに一人、突出した剣の才能を持つ者が生まれるので、わが家門は他のところに比べれば、神の存在は近く感じる者が多くいます」

 僕とは大違いだわぁ。

 こんなことになるまで、僕は神というのは、人によっては心のよりどころになるけれど、偶像だって思ってたもん。

 このラーヴェ王国の王族は、日本の皇族とは違って神の子の血筋ってわけじゃぁないから、王族が祭祀王ってわけでもないから、国のトップが神事に司祭として参加するっていうこともない。

 ただなぁ、シルバードラゴンの話を聞くと、昔は天恵なんかもたくさんあったんじゃないかとは思うんだよ。ここはやっぱり信仰心の問題なのかな?

「アルベルト様のお話、わたくしは信じますわ。ネーベル様もご一緒でしたし、なによりシルバードラゴンの鱗を持って帰られましたもの。ドラゴンはちゃんと存在しておりますのね。浪漫ですわね。わたくしもお目にかかりたかった」

 ヘッダはわくわくした目でドラゴンに思いを馳せる。

 ヒルトはヘッダのようにドラゴンに対してどうという思いはないけれど、僕の話を信じてくれた。

 二人に受け入れてもらえてよかった。


「実はね、ここまでは前置きなんだよ」

 そう、ヒルトとヘッダだけではなく、ネーベルにもまだ話していなかったこと、アインホルン公女が僕と同じ転生者であることをみんなに伝えることにする。

「まずさっきの話で、僕に前の人生の記憶があって、そこはこの世界とは違う異世界だったというところは分かってくれたよね?」

 確認のためにそう聞くと、みんなが頷いてくれた。

「僕以外にも、同じ異世界からこの世界に生まれ変わった人がいるんだ。ここまで言うと察しのいいヘッダあたりは、誰だかわかると思う」

 僕の言葉に、ヘッダは獲物を定めた猫のように目を細め、笑みを浮かべた。

「アインホルン公女、ですわね?」

 やっぱり気づいちゃうよねー?






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