第26話 辺境伯子息と再会を約束した

 僕の話、シルバードラゴンから教えてもらったことは、おじい様が書記官を呼んで、文書化して資料として残されることになった。

 そして、王族に直系の血を入れないという家訓は、シルバードラゴンとの盟約なので、けして違えることはかなわずという文句も付け加えられた。

 百年後二百年後、これが歴史となって残されるのかなぁ。僕の子孫もシルバードラゴンに会うのだろうか。そう考えると、やっぱりドラゴンはロマンだと思う。また会えるかな?


 それから、僕が長時間の魔力巡りで、全身バキバキになったように、大人組以外の全員も僕と同じように起き上がれない状態だったそうだ。あ、テオとクルトは魔力巡りが出来ないので、単なる筋肉痛だったそうだ。

 魔力巡りよりも負荷がかかってないため、魔獣狩りが終わった翌々日にはぎこちなくても動けるようなので、北方辺境伯地に戻ることになったと、まだ寝台から出ないようにと言われている僕のところへ挨拶に来た。


「母上に、筋肉痛になるなんて鍛錬が足りないって言われたわ。まぁちょっとさぼってたところもあるし」

「基礎体力はつけたほうがいいよ」

「うん、アルもネーベルも、フェアヴァルターたちみたいに、周囲の木を使って軽々と上に昇って攻撃してただろう? 力の差を知ったわ。俺は何にもできなかった」

「魔獣相手だからだよ。人間相手じゃできないもん。手合わせじゃへっぽこだった」

「俺から一本取ったくせにそんなこと言うなよ」

 あれ、手合わせにカウントしていいの? あれは世間一般的に言う手合わせとは違ったよね。

「……あーくそ! もっとここにいてー!!」

 我慢できない本音を吐き出すように、テオは悔しそうに声を張り上げた。

「なに、魔獣狩り気に入った?」

「それもあるけど、俺とちゃんと友達やってくれるのクルトぐらいなもんだし、他の奴らは親父とか兄貴にごまする為っていうのが見え見えだし」

 なるほどね、坊ちゃん扱いが嫌なのか。あと、あからさまなおべっかを使ってくる奴が気に入らないとか、そんな感じかな?

「甘いなぁ、テオ。そんなんじゃ、いつまでたったって、北方辺境伯のご子息だから、もちあげて機嫌とってればいいやって、周囲に侮られっぱなしだよ」

 僕の言葉にテオはむっとした顔をする。

「そう言う奴らはね、テオのために汚れ仕事を進んでやってくれるぐらいに誑し込んで、自分の駒にしてみせなよ」

 笑顔でそう言ったら、今度は顔をひきつらせた。

「お前、それ王子の考えじゃないぞ」

「王子だからこそだよ。君もイグナーツも、そういうところが、ちょっと潔癖なんだよねぇ。食い物にされないためには、自分が食う立場にならなきゃ。気に入らなかったら自分で変えるんだ。『面白きこともなき世に面白く』だ」

「どういう意味?」

「面白くない世なら自分で面白くしてやろう」

「……いいな、それ」

 ただしこの句は後に『すみなすものは心なりけり』と続くと意味が違ってくる。上の句で終わるか、下の句まで続けるか。いや、テオには下の句は必要ない。

 たとえとんでもない困難にあったとして、いろんな手を使って自力で乗り越えていくのがテオだろう。そういう人物は、常に挑戦の心を持っているはずだ。

「手紙、書くよ」

 照れたようにつぶやくテオに僕は頷いた。

「うん、僕も書くね」

「来年、学園で会おうぜ」

「再会できる日を楽しみにしてるよ」

 手を差し伸べると、ぐっと掴まれた。

「じゃぁ、またな!」

 元気な笑顔を残して、テオは北方辺境伯地へ帰っていった。


 テオが帰った翌日から、ようやく寝台から出てもいいと言われて、ずっと動けなかったから、少しずつ柔軟と魔力巡りの再開をすることにした。

「シルト、ランツェ。ヒルトとヘッダはもう帰っちゃった?」

「いいえ、アルベルト様ともうしばらくご一緒に過ごしたいとのことで、まだフルフトバールに滞在されておりますよ」

 ヘッダも残ってるのか……。じゃぁ彼女も含めて話をしたほうがいいかもしれない。ヘッダには、アインホルン公女のことでいろいろお願いしているし、知らないで起きる不具合よりも、あらかじめ知っておいてもらったほうが対処もしやすいだろう。

「そっか。みんなはもう動けるの?」

「ネーベル様はもう動いております。昨日からこちらの使用人の館で寝泊まりされようとしたので、客間に変更させていただきました」

 おやまぁ、伯爵夫妻たちに看病されるのが嫌で逃げてきたのかな?

「ビュルンヒルト様とヘドヴィック様は、アルベルト様やネーベル様よりも魔力疲れにはなっておりませんので、領都内を見学されています」

 そっか、もうちゃんと動けるようになったし、もうそろそろ外にも出たい。

「みんなと会いたいなぁ」

 誰かに聞かせるわけでもなく、ぽつりとこぼしただけなのに、すぐにシルトとランツェが反応した。

「かしこまりました」

「すぐに手配いたします」

 あ、あ~!! 止める暇もなくシルトとランツェは部屋から出ていってしまった。

 とはいっても、ネーベルはともかく、ヒルトたちだって予定があるからね。明日か明後日に会えればいいやって思ってたら、数分後にネーベルが僕の部屋に顔を出した。


「起き上がれるようになったんだな?」

 ネーベルもだいぶ魔力疲れを起こしていたから、やはりどこか動きがぎこちない。

「うん、もうだいぶいいよ。やっぱり魔力巡りを長時間使うと、反動がすごいね」

「少しずつ魔力巡りの時間を伸ばしていったほうがいいのかもしれないな」

「そうだねぇ。王都に戻ったら、魔力巡りを長時間保持しつつ身体を動かす訓練もやっていこうか」

 僕の提案に頷いたネーベルは、躊躇いながら声を出す。

「……あのさ」

「うん?」

「王都に戻る前に、あともう一回ぐらい魔獣狩り、したい」

「よろしいですわね!」

 ネーベルの言葉にかぶせるようにヘッダの声が飛び込んでくる。

「わたくしもご一緒させていただきたいわ!!」

 部屋の出入り口に顔を向けると、両手扉を開け放ったヘッダが、ご機嫌な笑顔を浮かべていた。






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