第25話 おじい様へのご報告

 シルバードラゴンとの邂逅から五日たった。


 僕とネーベルがシルバードラゴンのところへ飛ばされた後、フェアヴァルターは、テオたちを一度領都へと連れ帰り、おじい様に報告。

 トレッフとピートは不帰の樹海に潜っているほかの魔獣狩りのチームに声を掛け、僕らが斃したヒポグリフの解体と、僕らの捜索の二手に分かれての作業をしていたらしい。

 僕とネーベルは、ヒポグリフの最後っ屁の攻撃で変なところに飛ばされそうになったのをシルバードラゴンが自分のところに呼びよせたと説明した。

 証拠はシルバードラゴンの鱗ね。

 僕らの捜査に当たってくれた魔獣狩りの人たちとか、領都にいた鍛冶師たちとかが、シルバードラゴンの鱗を見て発狂してたから、説得力はあったと思う。

 その日はもう魔獣狩りは切り上げて、ヒポグリフの肉と羽根と嘴、爪それから下半身の馬の尻尾と、まぁ色々素材を採取して、凱旋した。


 トラブルがあったけど、僕の魔獣狩りの初陣は成功だったよね? 初狩りの儀もちゃんとできてよかった。

 領都に戻る途中で、おじい様とクリーガー父様がフルフトバール軍を引き連れて不帰の樹海に向かってくるのと鉢合わせして、よくやったと褒められた。

 もともと魔獣狩りそのものは命の奪い合いで危険なものだし、僕とネーベルは魔獣狩りのベテランであるトレッフたちの話を聞かないで、危険なことをしたわけじゃない。

 トラブルは不可抗力の産物だったから、怒られるということはなかった。


 初陣でヒポグリフを斃したし、大きな怪我もなく五体満足で戻ってきたし、ついでにシルバードラゴンの鱗も貰ってきたし、僕の初陣はいい出来だったと思う。

 ただし初めての魔獣狩り、そして討伐したのがヒポグリフだったのだから、しばらくは身体を休ませるようにと、おじい様から厳命された。

 確かに翌日、長時間の魔力巡りの反動か、全身バキバキで寝所の住人と化してしまった。経験のある年長者の言うことは、素直に聞いておいたほうがいいね。


 寝所から出られなかった間、僕はおじい様にシルバードラゴンから聞いた話を伝えた。

 僕の前世云々のところは伏せて、シルバードラゴンと初代が交わしていた盟約の内容や、盟約によって初代の魂はマルコシアス家の人間として生まれ変わるように固定されていること、それから僕はその初代の生まれ変わりだということ。

 最後に、母上は女神ウイステリアの介入によって、意識操作され国王陛下に執着したことも。

 話を聞いたおじい様は長年の謎が解けたというような顔をしていた。


「おかしいとは思ったのだよ。リーゼがあれほどまでに国王陛下に執着するのは、らしくない、とな。あれも女ではあるがマルコシアス家の娘だ。貴族の家訓は蔑ろにできるものではないことを理解しているはずだ。我が家は、婚姻での政略を必要としていない分、他の貴族に比べれば、ある程度の自由は許されている。が、王家にわがマルコシアス家の直系の血を入れるなという家訓だけは、絶対に守らねばならんことなのだ。たとえ、リーゼが国王陛下を好いたとしても、それを声に出して、結ばれたいなどと願うことは、わが家の家訓を理解している以上しない。その分別ができる者が貴族なのだ」

 想いは胸に秘めるってことだね。ここら辺は貴族の結婚あるあるだ。政略ありきの結婚する貴族は好きでもない相手と結婚をするし、定められた婚約者ではない相手を好きになったとしても、それを言葉や態度に出すことはしない。

「最初はな、前国王が何らかの精神操作の魔術をリーゼに施したかと思ったのだ」

 おじい様は母上に近づいた人間を徹底して調べ、魔術塔の魔術師にも依頼をして、母上を見てもらったのだという。

 結果は白。まぁ、魔術を掛けられたわけでも、前国王陛下の手の者の誘導でもなく、人ならざる女神の仕業なんだから、何にも出てこないわな。

「過去にも何度か王族との結婚話がなかったわけでもないのだ。ただなぁ、わが家から王家に嫁ぐとなる場合、総じて嫁ぐ立場となるものが、家訓を持ち出して軒並み拒否するのだ。あの王子とは結婚したくないとな」

 これはシルバードラゴンが言っていた盟約の反動ってやつか。

「逆は、あったのですか?」

「降嫁ということか?」

「あとは婿入りとか」

 僕の言葉におじい様はしばらく考えこんでから口を開いた。

「そのような話は一度も聞いたことはないのだが、どうであろうな。だが、王都に住まう王族が、魔獣被害のある田舎領に嫁ぎたいと思うか? といったところだな。しかし、まったくないとは言い切れん。傍系の姫が嫁いだことはあったかもしれんな。だがそれもマルコシアスの直系ではないだろう」

 そうだよね。盟約の反動でマルコシアス直系の人間は、王族は恋愛対象外になっているはずだ。母上の場合は、初代の魂が異世界に飛ばされて盟約が切れたところに、女神の介入があったから、国王陛下と夫婦になることに執着した。

「女神ウイステリアに誘導されたことは、母上には黙っていたほうがいいですよね?」

「そうだな。もう過ぎたことだ。リーゼはマルコシアス家に戻りフルフトバールに帰ってきた。それで終いだ」

 そう言って、おじい様は僕の顔を懐かしそうな目で見つめる。

「アルベルトがウィルに重なるのは、ウィルもまた、初代の魂の持ち主だったやも知れんな」

 あ、そう言えば、おばあ様もネーベルも、僕と大叔父様が似てるって言ってたっけ。

 だとすると、大叔父様が亡くなったあと、異世界に飛ばされたのかもしれない。それでもって大叔父様が亡くなったのは……、いちいち疑うのもおかしな話だけど、女神ウイステリアの仕業とか?!

 穿ち過ぎかもしれないけれど、でも、そうじゃないなんて、言い切れないよね? 






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