第24話 お土産貰っていざ帰還
盟約を結びなおしたシルバードラゴンは、空間をゆがめて浅層まで近道を作ってくれた。
「そなたの家臣たちが心配しておるな。道案内を付ける。戻るが良い」
シルバードラゴンの元まで案内してくれた光が、再び僕らの周りを浮遊し、こっちだというようにナビゲーターする。
「帰り道。作ってくれてありがとう。またねって、簡単にここには来れないから、無理か」
「盟約は結びなおした。交信はいつでもできる」
「うん、じゃぁ、またね。もしまた僕を呼ぶことがあったらさ、ネーベル以外にもう一人連れて来たいから、その時は前もって教えて」
「あい、わかった。あぁそうだ、我が盟友。そこに落ちている我の鱗を持っていくがよい。人の子は我の鱗を収集しておるのだろう?」
「集めるっていうか、武器や魔導具の素材に使ってるんだよ。くれるっていうなら貰っていくね」
「アル、俺、縄持ってるから、俺が持っていくよ」
ネーベルがウエストポーチから、縄を取り出すと背負えるぐらいの大きさの鱗を選んで、自分の背中に括り付ける。
「さぁ、もう戻るが良い。我が盟友」
ネーベルと一緒にシルバードラゴンに手を振って、僕らは歩き出した。
元来た道を引き返すように歩いていくと再びもやが出てくる。
「ネーベル、はぐれないように手を繋ごう」
「わかった」
ネーベルと手を繋ぎ、浮遊する光の後を追っていくと、また耳がぼわぼわしてくる。やっぱりシルバードラゴンがいるところは標高の高い場所だったに違いない。
しばらく歩いていると、だんだんもやが晴れていき、
ここまで僕らをナビしてくれた光は、僕らの周囲をくるくると漂った後、ふわふわと空に昇って行ってしまった。
道案内はここまでということか。
「さて、浅層に戻ってきたはず。問題は、どっちの方向に進めばいいのかということだね」
「森道に安置拠点の道しるべはあるけど、ヒポグリフと遭遇した場所がどこだかわからないしな」
「フェアヴァルターたちは、僕らを探してるはず」
まだ空は暗くなっていない。でも油断はできない。
やっぱりインカム無線機欲しい。こういう時、インカム無線機があれば、通話範囲に入れば連絡つくもんね。
困ったなぁ。迷子の鉄則は、迷ったらその場から動かないことだけど、僕ら迷子なのかなぁ? 帰り道わかんないから迷子?
あとここは魔獣の巣窟である不帰の樹海だから、動かないでいたら、魔獣に出くわして再びモンハンになりそう。
耳を澄まして周囲の音を拾ってみても、風で樹木の葉が揺れる音とか鳥のさえずりとか、そんなものしか聞こえない。
日が暮れるにはまだ時間があるにしても、暗くなった不帰の樹海の中は浅層だって危険だ。森道の道しるべをたどって、安置拠点に向かうことにした。
「とりあえず、危なそうな気配は、今のところないよね?」
「魔獣が気配を消してなかったらの話だけどな」
ヒポグリフのことか。
ピートやトレッフの反応からすると、ヒポグリフは浅層に出てくるような魔獣じゃない。気配なくいきなり出てきたあのヒポグリフは、もしかしたら深層から浅層に移転されたんじゃないか?
確証は持てないけど、女神ウイステリアの仕業じゃないかな、あれ。
「ネーベル」
「なんだ?」
「僕に生まれ変わる前の記憶があることは、内緒にしておいて欲しいんだ」
僕のお願いにネーベルは首をかしげながら言った。
「いいけど、内緒にするのはそれだけでいいのか?」
てっきり内緒にする理由を訊いてくるものとばかり思っていたから、その返しはちょっと虚を突かれてしまった。
「え?」
「初代のマルコシアス家の当主の生まれ変わりのこととか、シルバードラゴンとマルコシアス家の盟約とか、そっちは隠さなくていいのか? あと女神が愉快なことやらかしてるとか」
「あぁ、それはおじい様に報告しようと思うんだ。シルバードラゴンとマルコシアス家の盟約のことは、マルコシアス家の伝記として残しておいたほうがいい。女神のことはよくわからないからなぁ。母上の意識に干渉したことぐらいは報告したほうがいいかも」
「そうか。わかった」
「あとで、皆に内緒にする理由、話すよ。その時はヒルトも一緒で。ネーベルとヒルトに、あともう一つだけ聞いてもらいたいことがあるんだ」
シルバードラゴンの話を聞いて確信した。
アインホルン公女がこの世界に転生したのは、間違いなく女神ウイステリアの仕業だ。だから、その話も、ネーベルとヒルトには聞いてもらいたい。二人は何があっても僕についてきてくれる、心の底から信頼できる人たちだからね。
「わかった。無事帰れたら、アルの話を聞かせてくれ」
「うん。ちゃんと話すよ」
そんな話をネーベルと話していたら、上の方からザザザザザザザッと、葉が揺れる音が聞こえてくる。これは風で葉っぱが揺れてるんじゃない。何かが移動して葉が揺れている音だ。
もしかして魔獣? 木の上を移動するなら猿系の魔獣か?
警戒を強くしながら身構えていると、ピートの声が聞こえた。
「若殿ー!!」
ピートの声にネーベルと顔を見合わせ声を出す。
「ピート! こっちー! ここにいるよぉー!!」
「ここにいます!! アルベルト様は無事です!!」
「若殿! ネーベル様! いたぁぁぁぁ!! 見つけたぁぁぁ!!」
身軽に樹木の枝を足場に移動していたピートが、僕らの前に着地する。
「よかったぁぁぁぁ!!」
僕らの無事な姿を見て、ピートは泣き笑いのような表情になる。
「心配かけてごめんね」
「俺たちは無事です。怪我もないです」
「無事でよかったです。あの変な穴みたいなのに吸い込まれたから、どうなってしまったのかと。あ、ちょっと待ってください」
ピートは身に着けていたウエストポーチから、筒状のものを取り出すとそれを地面において、火打ちで筒から出ている紐に火をつける。
点火した紐が内部に届くと、シュポシュポッと音が鳴って、空に向かって飛んで行った閃光がパンパンパンッと爆発した。
場所を知らせる煙幕のようなものかな?
「それで、どこまで飛ばされたんです?」
ピートの問いかけに、僕らは顔を見合わせてから口を揃えて答えた。
「「シルバードラゴンのところまで」」
お土産あるよと、ネーベルが背負っていたシルバードラゴンの鱗を見せると、ピートはあんぐりと口を開けて固まってしまった。
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